影に鳴く

秋赤音

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訪れた穏やさで

5.分かち合い

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月明かりだけが照らす夜。
甘い香りが充満する部屋で、
薄暗い灯りが二つの影を作っている。

「レンカ。力ぬけって」

「無理ぃ…っ」

「面倒だからこのまま入れる」

「あっ、痛ぁ…ぁっ、あんっ、エンリ、ゆっくりぃ…っっ!」

男性は乱暴に女性の秘部を貫いた。
甘い声でそれを受け入れた身体は、水を散らしながら達した。

「潮吹きがクセになってるな。
レンリと同じようにされて嬉しい?」

「嬉しいの…っ、あっ、そこ、いい…っ!もっと、して…っ!」

女性は自らも激しく動き、快楽を貪る。
それに合わせるように男性も腰をふり、水音がぶつかり合う。
終わりがないと感じるような濃い交わりは、
カーテンで窓を遮られた世界で続く。


三日後。
出社した私は、道端で友人と会った。
一緒にD区へきた遊び仲間は、
ある時から純情な乙女に変わった。
遊びをやめて、たった一人だけを追いかけていたが、
トバリさんと交際を始めてからも遊ぶ気配はない。

「アカネ。おはようー」

「レンカ。おはよう。今日も肌艶がいいのだわ」

「それは、お互いだよー。
彼とは、どう?」

浮かない表情のアカネは、私の様子を伺うように聞く。
トバリさんがアカネを狙っているのは有名だったので、
押しに折れたのだろう…という噂。
愛されて幸せな日々だと言われているが。

「とても、良いのだわ。もう、彼でないと無理かも」

「分かるわー。私も…心は違うのに」

「楽しめばいいと思うのだわ。
今までだって、散々遊んで生んで捨てたのに」

「言わないで!」

突然に出された強い声に驚いた。
歯を食いしばり何かに耐えるような表情に疑問が浮かぶ。
しかし、何かあったところでできることはないので放置だ。

「はいはい。あ、レンリさん!
アカネ、お幸せになのだわ」

暗い顔をするアカネを置いて、
先に見えたレンリさんとエンリのところへ行く。

「おはよう。そんなに急いで、僕のレンカは可愛いな」

私の腰を抱き寄せると、甘い声で囁く。
その響きに子宮が疼いた。

「おはようございます。私は先に行ってます」

「レンリは空気が読める最高の恋人だな」

「エンリの交友関係に興味ないだけです。
失礼します」

歩く速度を少しあげて、
レンリさんは私たちの前を進んでいった。

「一昨日、あんなにシたのに。まだ足りないの?」

「ちが…っ!」

「ああ、レンリの名残が濃いうちにほしいんだな。
察しが悪いのは僕の短所だね」

思わせぶりに服の上から撫でられる腰と、
囁かれる言葉に欲が出る。

「…ぁ、…っ、やめて、ください」

「そんな声で言われてもな。
辛そうな友人のためなら、僕は手助けをするけど?」

「エンリ…っ」

脳内を支配し始めた感覚に眩暈がする。
その手で暴かれたい。
エンリにあるレンリさんの移り香を、
もっと近くで堪能したい。

「今夜まで、我慢できるな?」

「はい。我慢します」

「うん。では、ご褒美」

ふいに立ち止まった後、
与えられる濃厚な口づけにあっけなくイった。

「昨日はレンリとたくさんしたからな。
おすそわけ」

「はい。ありがとうございます」

優しい友人は、今日も私を間接的に満たしてくれる。
約束の夜が楽しみだ。




「お疲れ様」

「お疲れ様です」

終業時間になり、
レンリは仕事が残っていないらしく帰り支度をしている。

「今日は遅くなる」

「わかりました」

意味はわかっているだろうに、
本気で興味がないのか仕事と変わらない対応だ。
だが、そこがいい。
理想の同居人だ。

「明日は、いつも通りに帰るから。頼むな」

「はい。では、失礼します」

その背を見送ると、待ち合わせの場所へ向かう。

「エンリさん。お疲れ様です」

「トバリさん。お疲れ様です」

「楽しそうですね」

眩しい笑顔でそういうトバリさんこそ、
とても楽しそうに見える。
噂では、追っていた片想いが実ったと聞くから当然だろう。

「まあ、それなりに」

「俺もです。最愛の人が傍にいるって嬉しいですね。
あ、アカネさん!」

その声を向けた先には、レンカがいた。
青い顔色の女性は、幸せだと噂のアカネさんだろう。

「トバリさん…」

「エンリさん。俺たちはここで」

「お疲れ様です。僕たちも行こう」

「はい」

レンカの腰を抱き、二人に背を向けた。
行く先は、使い慣れたホテル。
面倒な恋愛は無しで、
性欲だけを楽しく処理させてくれる優しい友人に感謝をしながら、
今日はどんな風に抱くかを考えた。

それから少しして、
なぜか、連日のように求めてくるようになる。
断る理由もないのでレンカの誘いにのり、
仕事の苛々をちょうどよく発散している。

行為が終わると、興奮の名残がある体で服を着るレンカ。
身支度をしていると、
慈しむように腹を撫でている姿が目に入る。

「満足そうだな」

「はい。今日もたくさん出してくれましたね。
私、幸せです」

「本当に避妊しなくていいのか?」

満面の笑みを浮かべるレンカ。
何度も聞いた問いだが、確認のためにもう一度聞く。

「はい」

「どうして?」

「言ってませんでしたか?
私、子供がほしくなって…
生まれても私一人で育てますから。
でも、どうして聞くのです?」

不思議そうにきょとんと丸い目が僕を見る。

「生まれた子供はそうしてくれ。
あんなに避妊したがったのに、
急に妊娠を望むので気になっただけだ」

「そう、ですよね…授かった友人が羨ましくなって。
単純ですよね」

照れているレンカは、
少しだけ大人びた笑みを浮かべていた。




「おかえりなさい」

「ただいま」

先に食事を済ませて風呂からあがると、
今帰った様子のエンリがこちらを見る。
甘い香の気配が服に残っている。
その香りに、恋愛関係が自由な両親を思い出す。
興奮剤の代わりによく使っていた。
子供を家に置いて朝帰りが当たり前の両親は、
外で会ったことがない兄弟を作っていた。
まさか、その一人と会うことになるとは思わなかったが。
D区の説明会で会った、同じ家名の父親似なエンリ。
母親似の私をみて嬉しそうに笑う姿は、今でも覚えている。

「あのさ」

「なんです」

部屋へ戻ろうとすると、引き留めるような声がした。

「レンカ。このままだと、本当に妊娠するかも」

「子供は、どうするんです?」

「知らない。本人も納得している」

一歩的に始めた話を、一方的に終わらせたエンリ。
風呂場へ向かうのを見届けると、今度こそ部屋へ戻る。
ベッドへ横になり本を読んでいると、
風呂上がりで眠そうな半裸のエンリが覆いかぶさり抱き着いてくる。
本はとられて近くの机の上へ丁寧に置かれた。

「眠いなら、離れてくださ…っ!」

「…っ、ん…なあ、レンリ、シよ?」

「外で、済ませたのに?」

「思い出したら、な」

唇をついばみながら、確実に着ている服を脱がされている。
抵抗しようにも腕が拘束されて動かせない。
甘えるように硬いそれを下肢へ押しつけている。

「わかりました」

「レンリが一番だな。
僕のことを分かってくれる」

「思考が似てますから」

「上手く仕込んだ親父には感謝しないとな?
離れた場所で同時に生まれるなんてな」

体の中に薄い膜越しの硬い昂ぶりを受け入れると、
萎えていた自身も熱を持ち始める。

「そう、ですね…っ。
おかげで、面倒が少ないですから…ぁ、…っ!」

「無駄にある性欲は、暴力にもなるから…っな!
それで快楽だけを求める僕たちは、我儘…で、無責任、だ…っ」

「恋、愛は…っ、性欲の現し方、でしか…っ、ないから、ぁ、そろそろ…っっ」

激しく揺さぶられ、高ぶる射精感へ身を任せた。

「レンリ、イく、出る…っ!」

「出して、早く…ぅ、ぁ、あっ…は…っ!!」

「…っ、は…っ、まだ、足りない…っ」

一度出すこともせず続けられる律動に欲が刺激される。
つきまとう持て余す性欲を否定されることなく、
誰かを傷つけることもない。
妊娠させる危険なく処理できる安堵感と、
面倒な恋愛を求められることもない楽が手放せない。

「私、も…っ」

「レンリ」

艶に濡れた声は、優しく微笑むと私の唇を奪った。
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