影に鳴く

雨降って地固まる、と言いますが

2.散る命

その輝きは、つかの間だった。

「あ…」

「ナツ、どうし…ああ、枯れたのか」

僕の声にかけよってきたハルは、僕の視線の先を見たらしい。
窓際に置いていた植物は、暑さのせいか瑞々しさが失われている。
枝だけを残して鉢の中の土に帰る葉。
偶然に立ち寄った花屋で買った緑が美しい植物だった。
自分なりに手入れはしていたので、寂しい。

「暑かったから、しかたない、です」

「ナツ。二択だ」

「ハル？」

僕を見るナツはため息をついたあと、優しい声で言った。

「もう一度新しいものを選ぶか、そいつを見守るか」

「見守りたいです」

迷わず告げると、ハルは鉢を陰へ移動させた。

「水のやりすぎかもしれないし、日の当たりすぎかもしれない」

「そうですね」

すぐに原因を調べようと思ったが、
手招きされた先にある長椅子へ座るよう促される。
座って待っていると、優しい香りの紅茶とお菓子が運ばれてきた。
目の前のテーブルに置かれたそれは、あるだけで心が和んだ。

「ナツ。口を開けろ」

「自分で食べますよ？」

「いいから」

じっと見つめられながら差し出されたお菓子。
やめる気のない返事に諦めて食べると、口の中に優しい甘さが広がる。

「美味しいです」

「当たり前だ。ナツのために選んだからな」

ニッと口角を上げで笑みを浮かべるハル。
思わずつられて笑う。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。
植物の世話もいいが、まずは飼い主が元気でないとな？」

にこやかに次のお菓子を持って待つハル。
楽しそうだからいいか、と甘い情に心を傾け、癒しの時間を味わった。