影に鳴く

秋赤音

文字の大きさ
上 下
36 / 49
自己幸福

0.秘め事

しおりを挟む
私たちは幸せな結婚をした。
互いに求めるものが一致していた。
外側さえ綺麗に見えればどうだっていいと、両親たちは言った。
私たちは、とても運が良く、とても幸せだ。


大きな敷地の中にある別邸。
私の月は太陽と共にある。
夜空に浮かぶ黒い月を廊下の窓から一人で眺めている。
するりと隙間から入った冷たい風に思い出す。
異常がないことを確認した後で部屋へ戻る途中だったことを。
体が冷え切る前にとめていた足を動かす。

「ルカ、もう少しだけ、な?」

「ラオ、も、無理…っ、ぅ、あっ!」

わずかに開いたままの扉からこぼれる嬌声が聞こえてくる。
今日も平穏だと実感しながら歩みを進める。
正面から背へ遠ざかる音は、自室と化している夫婦の寝室の扉を閉めると途切れた。
明日はリリ夫婦とのお茶会だ。
早く眠らないと、夫にも心配をかけてしまう。
幼馴染でもあるので、隠してもすぐに分かられてしまう。
麗人の隣に立つにはそれなりの準備が必要だった。

「おやすみなさい」

慣習だけで呟いた音は静かな空間に消えた。

翌朝。
肌艶の良い夫は、今日も作った食事を綺麗に食べ終えた。

「レン。いつも美味しい食事をありがとうございます」

「ありがとうございます。
ルカは偏食がないので作り甲斐があります」

「夕食も楽しみにしています」

麗人は美しい笑みを浮かべて颯爽と部屋を出た。
扉が閉まる直前、兄の声がした。
同じ学舎だから、同じ職場だからと、
理由は変わっても続いている幼い頃からの二人行動。
結婚して落ち着いた雰囲気と増した色気に倒れる女性もいるらしい。

あっという間に約束の時間になった。
仕事場から戻った夫と、リリを連れたラオが屋敷へ集まる。

「レン。ただいま」

「おかえりなさいませ」

兄の隣に立ち爽やかな笑みを浮かべる夫は、
客人をもてなす準備を手伝ってくれる。

「ラオ。リリ。座って待っていて」

「「はい」」

夫と顔の造りがそっくりのリリは、
そよ風が草木を揺らす庭を眺めながら心地よさそうに目を細めていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に落っこちたら溺愛された

BL / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:3,512

平凡な俺が総受け⁈

BL / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:209

小さな兎は銀の狼を手懐ける

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:559

傷だらけの死にたがり、恋をする

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:232

年下の夫は自分のことが嫌いらしい。

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:219

目が覚めたら

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:78

処理中です...