輪廻の終わりで

秋赤音

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死後の幸彩

0.運命と定め

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澄んだ空気、濁りない暗天、香る色とりどりの花々。
穏やかな笑みを浮かべる人の群れは、冥府の花園と呼ばれている中央から飛び立ったばかりの女性を静かに見送った。
成人の儀が自らの運命を決める、と少女だった女性の背に懐かしむ眼差しが贈られた。
だが、祝福は悲愴に変わる。
少女だった女性が選んだ運命は、世界の事情で無自覚に彼女に運命との別れを強いた。
彼女は誰に告げることもなく別れを受け入れ、運命が戻る遠い日を待つことに決めた。
身に子が宿ったことすら隠し通し、育てていた。
隠すのが上手い彼女と、事情を優先する世界だから気づくのが遅かった。
運命が現れない彼女に違和感を抱くのが遅すぎた。
だから世界も待つことにした。
彼女の運命が冥府へと戻る日を。

冥府の番人は5人いる。
川の守り人を務める流過りゅうか
大地の守り人を務める治佳ちか
花の守り人を務める瀬花せな
面接管理の取締役を務める司逢しおう
魂の管理の取締役を務める資結しゆう
初代の血を継ぐ男女が2人選ばれ、番を選んで子を成す努力と役割に従事する。


冥府の街は、今代の瀬花せなは誰を番に選ぶか話題で賑わっていた。
剛腕の囚人を選び、強い子を成した花は、買い物に連れた夫の腕に自らの腕を絡ませる。
秀才を選び知性を高めた花は、同じ帰路の先へつま先を向けながら目を細めて夫と笑みを交わす。
花に選ばれる者たちは、選ばれることを知らず命の終わりを待っている。
夫たちは、心中でかつての己を思い出しながら選ばれる者の幸せを願った。


冥府の門番は忙しい。
現世で死にかけている人間を面接をして命の有り様を決めるが、長蛇の列は減る気配がない。
面接の前に魂を選別して、優先順位が低い者は現世に返す決まりもある。
気忙しい中、花の番様選びで簡単に予定が狂う。
別室で休憩をとる門番たちはため息をつく。

「花の番が一花多人なら少しは楽できるのに」

「しかたない。その代わり美人ばかり眺めれる」

「まあな」


同じ頃。
花の番として引き抜かれた魂は、長蛇の列から姿を消して現世での死を迎えた。
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