輪廻の終わりで

秋赤音

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他様生

得た日常と影

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液晶端末に映る音声読み上げアバターは、ニュースを淡々と発音する。『ー年ぶりに子供の数が、増えました。公共事業の維持に期待がされています。報告結果によると、0歳の』
消された画面に映るのは、座っている不機嫌な女性。指先が触れ合い、同じデザインの指輪がきらめく。
「どうして消すの?」
「なんとなく。仕事いく」
「気をつけていってらっしゃい」
指輪を受け取った女性は、液晶端末の電源をつけ直す。


とある一軒家。玄関に向かおうとする男の背にしがみつき、駄々をこねる男がいる。
「帰ったら、たくさん構ってよね?」
「わかっている。むしろ構わせてくれないと困る。今のうちに休んでないと、明日に響くかもな」
「仕事だから…しかたないけど」
「いつもごめんな」
背中にいた男は離れて、男の正面から腰に抱きつく。
「いいよ。人助けのお仕事、がんばって」
「あー、うん。頑張るよ」
男は腰に回された腕を取って、膝から抱え上げる。向かうのはベッドルーム。
「え?お仕事は」
シーツに背中を預けた男は困惑しながら、男を見上げる。
「間に合うように着けばいい」
「なら、夜は寝てもいい…?脱ぐ、ね」
「寝られたら、な。仕事も頑張れ」
「できる…っ、けどぉ…手加減、して…っ」


一人玄関を出た女性は、熱い日差しに目を細めて歩き始めた。職場に着くと、同僚がニュースの続きを再生していた。
『0歳の出生数が、死亡数をやや上回りました。15歳児童の生存数が死亡数をやや上回りました。20歳時点の生存数も死亡数をやや上回り、現状維持と向上が課題となります。婚姻数は、減少傾向が続いています。孤児院と養育施設の人員を増やし、改修工事を行うことが決まっており』
「あ、おはようございます」
女性に気づいた男性は、画面を見たまま声をかける。
「おはようございます」
『次の予算会議で話し合いが行われます。有益な人材育成と仕事の確保も順調で』
女性も男性を見ないまま声を返し、椅子に座って仕事の準備を始める。
「今日の依頼も、公共のレストとバス。実態調査の提出です。安全性の向上と、心身同性と異性愛者の利用者を増やしたいそうです」
「わかりました。実質公認混浴だから入りやすいけど「身の安全には気をつけましょう、ですね。探偵も辛いなあ」
女性は準備室へ向かい、高温対応の貞操帯を探す。常時音声を録音できる特別製は、機密情報だ。
男性も準備のため入室する。
「これを使わなくていい日、くるといいなあ」
「危険ですから…乱交パーティの主催者は逃げるのが上手いです」
「半分は、目をつぶってもらっていますし。生産性の低い社会弱者ばかりを集めて遺伝子提供の仲介する。パーティでできた子供は、全て換金されています。貴重な人材候補ですね」
「パーティを開いて、用意していた強姦魔に襲わせる。心の性別も合法だから堂々とどちらでも使える。同性愛者同士は作れずとも、育てられる。仕事能力は優れていることが多く、遺伝子に良い値が付きます。被害者は誰であれ、訴えにくい」
向かう先は水着着用も許されているため、裸体に貞操帯だけよりは装備も整えやすい。更衣室でそれぞれ荷物の用意を終えて、仕事部屋へ戻る。
「上手く仕組みを利用されているから、公に取り締まるのが難しい。被害者や遺族は泣き寝入り…誰でも使えるし、一応男女分けの看板は残っているから多数派も来てくれないと困るってワガママですよね」
「本当にね。合わない場所や危ないと分かっていたら、近づかないのが理想です」
「ですね。あ、指輪。仕事の間は、自分が恋人ですからね」
「そうですね…お互い、パートナーの理解があって助かります」
男女は揃いの特別製な指輪をつけて、ため息をつく。設備の家電たちを眠らせて、二人は職場を出た。

法律が優先して守るのは、『生産者』と『労働者』だけ。社会に『消費するだけの人間』を守る力は、残されていなかった。
同性婚を容認したことで、異性同士を想定している結婚制度の目的が合わず維持が難しくなった。
異成婚は、子を安心して産むための場を確保と生活維持を、生まれた子の安全を守るためだった。
結婚制度から育児に関することだけを除いたパートナー制度を新しい結婚制度とし、社会が守る範囲を狭めた。
守るのは、作って産む気がある人。産んだ人と、産まれた人。産んで育てる人と、産まれた人。社会を支える人と物。
里親制度や養子縁組制度はあるが、生産されないと育てる事もできない。経済的に、物理的に、精神的に支えがないと育てられない。
全ての人間が幸せに生きる社会を、と必要犠牲を出しながら試行錯誤をする。
学び直しや、訓練と就労支援でも生産性が上がらなかった人々は、影となって細く短く息をしている。

男女は、対象のトイレに入る。全てが個室で、子供の世話も想定して作られているため広い。
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