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守られる街
春は明き、夏を華やかに歌い、秋は満ちる
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眠った姉さんを抱えて、そっとベッドへよこたわる。
泣き、疲れたのだろう。
役割だからと、変わった関係に戸惑う自分を殺そうとして。
変わったから、離れるかもしれない不安も納得させようとして。
変わって生まれた感情と、今までのように家族としての愛を願う自分を持て余して。
僕も、同じ。
ここなら、きっと、壊れても生きている。
だから、大丈夫。
あの日に約束した事は、守る。
たとえ、形は変わっても、守り通す。
まだ大人になる前。姉さんが一番よく笑顔で連れている男がいた。強い人か試したくて、独学で覚えた武術。男が一人の時を狙うが返り討ちにされた。それから、秘密の師弟関係が始まった。
初めて一撃を掠めそうになった日に、男は帰る前に言った。
『そろそろ弟子も卒業が近そうだ。僕は、これでも…華蓮さんが、幸せでいてほしいと願っているんだよ。だから、僕にできることをしている』
『僕も、姉さんは幸せでいてほしい、です。家族だから、一緒に、幸せを作りたいです』
当たり前のことを言う師匠で、姉さんのお見合い相手にイライラした。
優しくしていても、いつも遠くを見るように姉さんを見ている。泣きそうなのを我慢しているよりは良いだけで、姉さんの寂しそうな笑顔の原因はこの男だ。
僕なら、姉さんを見る。寂しくなる理由も、諦めではなくて。安心して、期待もできるようにする。
『そうだね。僕の家族の幸せは妻としか作れないから。そちらは、頼みましたよ』
師匠は、姉さんに寂しく笑わせる男は、僕に優しい笑顔を向けた。
師匠は、最後まで師匠だった。
繁殖者として、最後の仕事を終える日まで。
師匠の家族が壊れていくのを、師匠から聞いていた。師匠も壊れながら、最後は家族を選んだ。
同じ頃。
元素たちが集まって、新しい決まりができた。
繁殖活動をやめることは、できない。
だが、仕組みの維持に限界が見え始めている。
そこで、『季』持ちは、繁殖者としての仕事の方法を選べるようにした。
今まで通り、『お見合いで相手を選び、繁殖行為を行う』だけ。三ヶ月が様子見の期間で、さらに続けるかは話し合いの結果しだいで決まる。
追加されたのは、『特定の相手を選び、繁殖行為を行う。期限は相手と相談をする。産まれた命は、育てたければ育てても良い』方法。
血縁関係が遠いことは、お見合いも同じ。
長いテーブルへ座る、若い元素たちと長老たち。
双方、張り付けた爽やかな笑顔で向き合った。
「旧街は守ります。が、続けるためには少し守り方を変えるだけです」
「古い文化も、残すのか。新街のように排除すると思ったが」
「需要はありますから、選べるようにするだけです」
「そうか。これからも協力して街を守ろう」
「はい。よろしくお願いします」
互いに席を立ち、帰り際に手を取り、決意を新たにした。
ある日。
丘の上にある屋敷は、明るい声で賑わっていた。
背筋が伸びている老人は、緑と黃の目を持つ青年と一緒に庭を眺めている。庭には、花を見て楽しそうに話しているのは目に赤を宿す女性が二人。
「約束、守ってくれているんですね。さすがは、一番の弟子です」
「当然です。約束は守ります」
ふと、音もなく影が近づく。影は、重なることなく距離を取る。両目が黃の男は、楽しそうに笑う。
「まだまだ現役ですね。ぜひ、季の子供たちにも稽古してください。孤児院へもよく来ているのは知っています。しばらくは、管理で忙しい時期なので」
「良い運動だと思って、頑張ってください。老いぼれは、せいぜい見守りが限界です、よ。元素様」
「いつも手合わせしてもらって、いいよね」
青年は、拗ねたように呟く。
両者は手さばき、足さばきを続けている。目で追うには疲れる速さで繰り返される。
「歌鈴。あれは訓練のようなものです。いつも、この、ように奇襲をかけてくるので」
庭先で金属音が擦れる音がした。だが、赤い目は隠しナイフで防ぐ。刃物を弾き、地面へ押し付けて手足を縛って目隠しした男を見下ろす。
「大丈夫」
赤い目は、赤を持つ女性の中の方へ向かった。
青年たちは、ため息をつく。
「予定通り、終わり。ですかね」
「おそらく?」
「新街に移ったのは今更ですね。色持ち交配は異端だと。赤目は、遊ぶだけと言っていたのに」
「本当に。居場所がなくなって、仲間に戻してもらえなくて拗ねて。面倒です」
「「「決闘で決めますか」」」
大雑把が過ぎると叱られた青年たち。夕暮れを合図に、皆それぞれに再会を約束して今日も家へ帰る。
泣き、疲れたのだろう。
役割だからと、変わった関係に戸惑う自分を殺そうとして。
変わったから、離れるかもしれない不安も納得させようとして。
変わって生まれた感情と、今までのように家族としての愛を願う自分を持て余して。
僕も、同じ。
ここなら、きっと、壊れても生きている。
だから、大丈夫。
あの日に約束した事は、守る。
たとえ、形は変わっても、守り通す。
まだ大人になる前。姉さんが一番よく笑顔で連れている男がいた。強い人か試したくて、独学で覚えた武術。男が一人の時を狙うが返り討ちにされた。それから、秘密の師弟関係が始まった。
初めて一撃を掠めそうになった日に、男は帰る前に言った。
『そろそろ弟子も卒業が近そうだ。僕は、これでも…華蓮さんが、幸せでいてほしいと願っているんだよ。だから、僕にできることをしている』
『僕も、姉さんは幸せでいてほしい、です。家族だから、一緒に、幸せを作りたいです』
当たり前のことを言う師匠で、姉さんのお見合い相手にイライラした。
優しくしていても、いつも遠くを見るように姉さんを見ている。泣きそうなのを我慢しているよりは良いだけで、姉さんの寂しそうな笑顔の原因はこの男だ。
僕なら、姉さんを見る。寂しくなる理由も、諦めではなくて。安心して、期待もできるようにする。
『そうだね。僕の家族の幸せは妻としか作れないから。そちらは、頼みましたよ』
師匠は、姉さんに寂しく笑わせる男は、僕に優しい笑顔を向けた。
師匠は、最後まで師匠だった。
繁殖者として、最後の仕事を終える日まで。
師匠の家族が壊れていくのを、師匠から聞いていた。師匠も壊れながら、最後は家族を選んだ。
同じ頃。
元素たちが集まって、新しい決まりができた。
繁殖活動をやめることは、できない。
だが、仕組みの維持に限界が見え始めている。
そこで、『季』持ちは、繁殖者としての仕事の方法を選べるようにした。
今まで通り、『お見合いで相手を選び、繁殖行為を行う』だけ。三ヶ月が様子見の期間で、さらに続けるかは話し合いの結果しだいで決まる。
追加されたのは、『特定の相手を選び、繁殖行為を行う。期限は相手と相談をする。産まれた命は、育てたければ育てても良い』方法。
血縁関係が遠いことは、お見合いも同じ。
長いテーブルへ座る、若い元素たちと長老たち。
双方、張り付けた爽やかな笑顔で向き合った。
「旧街は守ります。が、続けるためには少し守り方を変えるだけです」
「古い文化も、残すのか。新街のように排除すると思ったが」
「需要はありますから、選べるようにするだけです」
「そうか。これからも協力して街を守ろう」
「はい。よろしくお願いします」
互いに席を立ち、帰り際に手を取り、決意を新たにした。
ある日。
丘の上にある屋敷は、明るい声で賑わっていた。
背筋が伸びている老人は、緑と黃の目を持つ青年と一緒に庭を眺めている。庭には、花を見て楽しそうに話しているのは目に赤を宿す女性が二人。
「約束、守ってくれているんですね。さすがは、一番の弟子です」
「当然です。約束は守ります」
ふと、音もなく影が近づく。影は、重なることなく距離を取る。両目が黃の男は、楽しそうに笑う。
「まだまだ現役ですね。ぜひ、季の子供たちにも稽古してください。孤児院へもよく来ているのは知っています。しばらくは、管理で忙しい時期なので」
「良い運動だと思って、頑張ってください。老いぼれは、せいぜい見守りが限界です、よ。元素様」
「いつも手合わせしてもらって、いいよね」
青年は、拗ねたように呟く。
両者は手さばき、足さばきを続けている。目で追うには疲れる速さで繰り返される。
「歌鈴。あれは訓練のようなものです。いつも、この、ように奇襲をかけてくるので」
庭先で金属音が擦れる音がした。だが、赤い目は隠しナイフで防ぐ。刃物を弾き、地面へ押し付けて手足を縛って目隠しした男を見下ろす。
「大丈夫」
赤い目は、赤を持つ女性の中の方へ向かった。
青年たちは、ため息をつく。
「予定通り、終わり。ですかね」
「おそらく?」
「新街に移ったのは今更ですね。色持ち交配は異端だと。赤目は、遊ぶだけと言っていたのに」
「本当に。居場所がなくなって、仲間に戻してもらえなくて拗ねて。面倒です」
「「「決闘で決めますか」」」
大雑把が過ぎると叱られた青年たち。夕暮れを合図に、皆それぞれに再会を約束して今日も家へ帰る。
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