輪廻の終わりで

秋赤音

文字の大きさ
41 / 41
守られる街

春は明き、夏を華やかに歌い、秋は満ちる

しおりを挟む
眠った姉さんを抱えて、そっとベッドへよこたわる。
泣き、疲れたのだろう。
役割だからと、変わった関係に戸惑う自分を殺そうとして。
変わったから、離れるかもしれない不安も納得させようとして。
変わって生まれた感情と、今までのように家族としての愛を願う自分を持て余して。
僕も、同じ。
ここなら、きっと、壊れても生きている。
だから、大丈夫。
あの日に約束した事は、守る。
たとえ、形は変わっても、守り通す。

まだ大人になる前。姉さんが一番よく笑顔で連れている男がいた。強い人か試したくて、独学で覚えた武術。男が一人の時を狙うが返り討ちにされた。それから、秘密の師弟関係が始まった。
初めて一撃を掠めそうになった日に、男は帰る前に言った。
『そろそろ弟子も卒業が近そうだ。僕は、これでも…華蓮さんが、幸せでいてほしいと願っているんだよ。だから、僕にできることをしている』
『僕も、姉さんは幸せでいてほしい、です。家族だから、一緒に、幸せを作りたいです』

当たり前のことを言う師匠で、姉さんのお見合い相手にイライラした。
優しくしていても、いつも遠くを見るように姉さんを見ている。泣きそうなのを我慢しているよりは良いだけで、姉さんの寂しそうな笑顔の原因はこの男だ。
僕なら、姉さんを見る。寂しくなる理由も、諦めではなくて。安心して、期待もできるようにする。

『そうだね。僕の家族の幸せは妻としか作れないから。そちらは、頼みましたよ』

師匠は、姉さんに寂しく笑わせる男は、僕に優しい笑顔を向けた。

師匠は、最後まで師匠だった。
繁殖者として、最後の仕事を終える日まで。
師匠の家族が壊れていくのを、師匠から聞いていた。師匠も壊れながら、最後は家族を選んだ。



同じ頃。
元素たちが集まって、新しい決まりができた。
繁殖活動をやめることは、できない。
だが、仕組みの維持に限界が見え始めている。
そこで、『季』持ちは、繁殖者としての仕事の方法を選べるようにした。
今まで通り、『お見合いで相手を選び、繁殖行為を行う』だけ。三ヶ月が様子見の期間で、さらに続けるかは話し合いの結果しだいで決まる。
追加されたのは、『特定の相手を選び、繁殖行為を行う。期限は相手と相談をする。産まれた命は、育てたければ育てても良い』方法。
血縁関係が遠いことは、お見合いも同じ。

長いテーブルへ座る、若い元素たちと長老たち。
双方、張り付けた爽やかな笑顔で向き合った。

「旧街は守ります。が、続けるためには少し守り方を変えるだけです」
「古い文化も、残すのか。新街のように排除すると思ったが」
「需要はありますから、選べるようにするだけです」
「そうか。これからも協力して街を守ろう」
「はい。よろしくお願いします」

互いに席を立ち、帰り際に手を取り、決意を新たにした。





ある日。
丘の上にある屋敷は、明るい声で賑わっていた。
背筋が伸びている老人は、緑と黃の目を持つ青年と一緒に庭を眺めている。庭には、花を見て楽しそうに話しているのは目に赤を宿す女性が二人。

「約束、守ってくれているんですね。さすがは、一番の弟子です」
「当然です。約束は守ります」

ふと、音もなく影が近づく。影は、重なることなく距離を取る。両目が黃の男は、楽しそうに笑う。

「まだまだ現役ですね。ぜひ、季の子供たちにも稽古してください。孤児院へもよく来ているのは知っています。しばらくは、管理で忙しい時期なので」
「良い運動だと思って、頑張ってください。老いぼれは、せいぜい見守りが限界です、よ。元素様」
「いつも手合わせしてもらって、いいよね」

青年は、拗ねたように呟く。
両者は手さばき、足さばきを続けている。目で追うには疲れる速さで繰り返される。

「歌鈴。あれは訓練のようなものです。いつも、この、ように奇襲をかけてくるので」

庭先で金属音が擦れる音がした。だが、赤い目は隠しナイフで防ぐ。刃物を弾き、地面へ押し付けて手足を縛って目隠しした男を見下ろす。

「大丈夫」

赤い目は、赤を持つ女性の中の方へ向かった。
青年たちは、ため息をつく。

「予定通り、終わり。ですかね」
「おそらく?」
「新街に移ったのは今更ですね。色持ち交配は異端だと。赤目は、遊ぶだけと言っていたのに」
「本当に。居場所がなくなって、仲間に戻してもらえなくて拗ねて。面倒です」
「「「決闘で決めますか」」」

大雑把が過ぎると叱られた青年たち。夕暮れを合図に、皆それぞれに再会を約束して今日も家へ帰る。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...