代償 ー願いの対価ー

秋赤音

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中央地帯。4国が集う社交の場に選ばれた広い応接用の中央部屋。東西南北それぞれの国から選ばれた代表が、二人の立会人の傍で挨拶を交わして親睦を深める予定。だった。

闇夜を溶かした漆黒の髪の死神は、抵抗する白亜の乙女を腕に抱き、白銀の長い髪に己の褐色の指先を絡ませる。 
「アズマ!…離せ死神!私は。」 
薄青の棲んだ瞳を見つめ、意識を奪った。
 「大丈夫だ。すぐに好くなる。私はレイ。オトハの夫だ」「わ、たし…は…あ、ぁ…ぁ………れ、レイ?」
「ああ。帰ろう。私たちの家に。」
「はい。」
二人は見つめ合い、手をとり歩き出す。

獄炎を閉じ込めた深紅の瞳の造ることしかできない天使は、慈悲深い笑みで二人を祝い見送った。その手の先には、拘束された白亜の天使がいる。
彼らは、人々を癒す純白の天使を求めて利害が一致し協定を結んでいた。
抵抗する天使は曇り無い肌に傷をつけ、儚い薄紅の瞳に影を作る。去っていく妻の背に叫ぶ男は、妻が消えた場所を見つめて肩を落とす。
「オトハ…紅天使、拘束を解け!なぜ死神と協力して
「大丈夫。アズマ様はワタクシと、このレンと新しい暮らしを造るのですから。」
女の唇が赤い三日月のように弧を描く。赤い爪先、が男の頬を愛しそうにゆっくりと撫でて意識に干渉し、現実を造り変えた。男の拘束を解きながら、無防備な頬に口づける。
「やめろ、や…め……、…?ここは、あなた様は?」
虚ろな目をした男は、周囲を見渡した。
「ふふふ。アズマ様、レンと蜜月旅に出て帰る途中ですの」
「そう、だったか?」
男は女だけを瞳に映して首をかしげる。
「そうです。初めの夫婦旅で疲れて寝ぼけているのですわね。可愛い。」
「男に可愛いとはなんだ。」
男は拗ねた顔で女の頬に口づけた。


四人が部屋から出ると、立会人たちはニタリと笑う。己の白銀の髪を男は、退屈そうに隣にいる女の長い朱色の毛先を弄ぶ。
「上手く、いきましたわ。さすがワタクシのシェロ。」
「当然だ。カレンの願いだからね。これで、しばらくは争いも起きないだろう。」
男は背中に隠していた一人の青年に出るよう空いている手で指示した。
「約束は守ります。西の白亜の男は…このとおり、レイナ様の夫になりますので。名はトワ。」
青年は全て諦めたような虚ろの目で微笑む。
「よろしく、お願いします。」
「レイナです。今から私はトワ様の妻になりました。番様には会えませんが、番様の身の安全も約束します。」
青年は無言で驚き、一瞬だけ唇を強く噛んだ後で笑みを作り直す。
「ありがとう、ございます。」
「いえ。これも後妻の仕事です。では、新居へ行きましょう。本日は解散です。」
「はい。」
「「失礼します」」
皆それぞれの帰路へ向かい、場は閉ざされた。

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