師追う背陰

秋赤音

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02.群れる兎- 苦しくても

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 九兎くうとは、教会長の息子、らしい。
両親の写真と自分の銀の髪と赤い目で血筋は感じられるが、実感はない。
お父様と呼ぶ許可はまだない。
だから、どちらかと言えば、仕事をくれる偉い人が近い。
顔と色が似ている兄や姉と弟がいるが、家族と呼ぶには違和感がある。
少しだけ違うところがあるだけの僕たちだから。
兄しか知らない武術を教わり、姉しか知らない嗜みを学び、腕は良いのに仕事で死んだ兄から技を盗めなくなるのを寂しく思う。

8歳になって、一人の女の子を監視するように言われた。
息子のフリをして傍にいて遊ぶだけでいい、と。
彼女の名前は、三目 咲夜みつめ さくや
白銀の髪と紫の目が特徴の美しい女の子だった。
三目 咲夜監視対象一兎いちと様に近づけないように、と。
僕は見た目も早く伸びている身長も一兎いちと様に似ているからかもしれない。
今まで似ていると言われて生まれた容姿に苛つくしかしかなったが、初めて感謝した。
一兎いちと様が三目 咲夜監視対象と一度会ったときの服装を指定され、支給されることになる。女装は手間だったが、必要だし。まあこれも経験だろう。

一兎いちと様より早く監視を迎えて別室へ誘い遊んだ一回目。
二回目も同じように監視対象と会い、一兎いちと様の部屋に似せた密室で遊んでいると三目 咲夜監視対象の顔が曇る。

「あなたは、誰ですか?一兎いちとちゃんと会いたいです」

不安そうに言う監視対象をみて失敗だと思った。
お父様司令塔はなぜ一度でも一兎様本物に会わせてしまったのか。
上手くできない僕を処分するための準備だろうか。

「咲夜ちゃ…っ、ごめんね」

窓の向こうに一兎いちと様がいた、見えないように隠れて、三目 咲夜監視対象が話せないよう手で口を塞ぐ。
足音が遠ざかり、姿勢を戻すと三目 咲夜監視対象は怯えていた。

一兎いちとちゃん…外にいたよね?」

「…ごめんね。でも、気づいたことは秘密にしてほしいな。僕たち、おそらく死んじゃうから」

隠すのは難しいと思った。どうなってもいいと、開きなおって笑う。

「…っ、わ…かった。あなたのお名前はなんですか?」

「え?」

「お名前です。一兎いちとちゃんって呼びたくない」

ドキドキした。僕の名前、お父様司令塔ですら一度呼んだだけなのに。
管理番号のような意味しかない名前が、初めて別の、個人を表す意味を持つ気がした。

九兎くうと …九に兎で、九兎(くうと) 」

九兎くうとちゃん?秘密は守るよ」

「いいや。僕は…男だよ」

三目 咲夜監視対象の手を下腹部に当てると、慌ててうなずき離してほしいと目が言っている。

九兎くうと くん」

「うん。秘密を守ってくれてありがとう。これからも、よろしくね」

彼女は監視対象でしかなかった。
はずだった。

一緒にいる時間を重ねると、僕個人が認められていることに浸って、沈んだ。
名前を呼ばれるたびに自分の中にある自分の存在感が増していく。
僕らしさを彼女が作ってくれて、嬉しくて、沈んでいることをついに忘れた。


15歳になって久しぶりにお父様(司令塔)から呼び出される。
そして、新しいお願いがきた。
でも、嫌な気配がした。

九兎くうと 。もう彼女と会わなくていい。息子と番にさせるから」

感情が無い声が言った。
今さら、僕から彼女を奪うのか。
何度も彼女を探す男の目をした一兎いちと様から隠れたから、なんとなく分かっていた。
会いたい同性の友人を探している、らしかった。
でも、嫌だ。初めてお父様司令塔に抗った。
すると、お父様司令塔は一つの条件を出した。
三目 咲夜みつめ さくやの処女を得た方が、彼女の世話をする』こと。
心地よい友人として傍にいる自分には、彼女と共に暮らす力も財力もないから無理だろう。
了承したが逃げ出すように向かった先で、一兎いちと様が彼女に近づいていた。

一兎いちとちゃん…?」

咲夜さくやちゃん!会いたかった…ずっと…探していたんだよ」

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