師追う背陰

秋赤音

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一人の兎-if.壊れないように守るから

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 九兎くうとと呼ばれる僕は、教会長の息子、らしい。
両親の写真と自分の銀の髪と赤い目で血筋は感じられるが、実感はない。
遺伝子の繋がりがある親という人をお父様と呼ぶ許可は、まだない。
だから、どちらかと言えば、仕事をくれる偉い人が近い。
顔と色が似ている兄や姉と弟がいるが、家族と呼ぶには違和感がある。
少しだけ違うところがあるだけの僕たちだから。
兄しか知らない武術を教わり、姉しか知らない嗜みを学び、腕は良いのに仕事で死んだ兄から技を盗めなくなるのを寂しく思う。

8歳になって、一人の女の子を監視するように言われた。
一兎様息子の傍にいて見守るだけでいい、と。
彼女の名前は、三目 咲夜みつめ さくや
白銀の髪と紫の目が特徴の美しい女の子だった。
三目 咲夜監視対象が他の異性が近づけないようにすることも見守りに含まれた。
僕は見た目も早く伸びている身長も一兎いちと様に似ているからかもしれない。
今まで似ていると言われて生まれた容姿に苛つくしかしかなったが、初めて感謝した。
一兎いちと様が三目 咲夜監視対象と一度会ったときの服装を指定され、支給されることになる。
女装は手間だったが、必要だし。まあこれも経験だろう。
九兎一兎いちと様姿を無自覚に見破る三目 咲夜彼女を誤魔化すのは手間だった。
でも、嬉しかった。
九兎一兎様でなく、九兎だと安心できた。
いつの間にか僕を九兎として彼女から好かれたくなっていることに気づくが、知らないふりをしていた。


15歳になって久しぶりにお父様司令塔から呼び出される。
そして、新しいお願いがきた。
でも、嫌な気配がした。

九兎くうと 。もう彼女と会わなくていい。監視は続けろ。他の男を寄らせるな。そろそろ息子と番にさせる」

感情が無い声が言った。
今さら、僕から#_監視__彼女といる時間_#を奪うのか。
何度も彼女を探す男の目をした一兎いちと様から隠れたから、なんとなく分かっていた。
会いたい同性の友人を探している、らしかった。
でも、嫌だ。初めてお父様司令塔に抗った。
一度だけ、彼女を一兎いちと様から遠ざけた。
「怖い人がいた」と言うと、震える彼女の手を包み込んだ。
温かかった。
一兎様を見た彼女の安堵した笑顔が眩しくて、守りたいと思った。
翌日。お父様司令塔は一つの条件を出した。
三目 咲夜みつめ さくやの処女を得た方が、彼女の世話をする』こと。
仕事でしか傍にいられない自分には、彼女と共に暮らす力も財力もないから無理だろう。
了承したが逃げ出すように向かった先で、一兎いちと様が彼女に近づいていた。

いつものように誰もいない庭。
一兎様も知っているその場所に、一兎いちと様と彼女がいる。
見た目は女の子同士だからか、安心して遊ぶ姿は無防備で無邪気に見える。
一兎いちと様の女装は今日も完璧だ。
告げなければ声使いまで上手く化けている。
長椅子で肩を並べてお菓子を食べていると、彼女の口の端にクリームがついていた。
一兎いちと様はクリームをとるついでに、初めてキスをした。
どうして。
九兎一兎様なのに。
きっと、温かい。
柔らそうに押し潰されて、離れて潰されて。
また潰された。
一兎いちと様が彼女の肩を抱き寄せてまた塞がれて。
息が苦しそうな彼女が口をあけると、舌がみえた。
あれも温かくて柔らかいだろう。
一兎いちと様は彼女の背中ごと寄せたら舌を押し当てた。
気持ちいいと一兎いちと様の態度が言っている。
ふと、急に彼女が逃げようとする。
嫌がっているのだろうか。
彼女が楽しくないなら、僕は許さない。
一兎様といるときは、いつも楽しそうだったから。
一兎いちと様ができないなら、九兎がする。

一歩逃げた彼女の盾になるよう一兎いちと様を正面に見る。

「お前、護衛だろう?仕事を放棄するのか」

一兎いちとちゃん…?」

背中で困惑する彼女に申し訳なく心で謝った。
騙していたことも、僕の名前も後で言えたら伝えよう。

咲夜さくやちゃん。怖いなら僕が傍にいるから。」

「…っ!あなた、は」

彼女は青い顔で怖がっている。
でも、僕の手を握った。
だから、僕は走る。走り方を教えてくれた隠密の兄に感謝した。
武器が無くても戦える方法を教えてくれた姉に感謝した。

「ごめんね。抱えるよ」

彼女を抱いて急ぎ去る。
背後から怒鳴り声がした。

「ど…して!どうして!僕のお姫様…!」

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