人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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失う乙女は巡り咲く

6. 求める

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聖域に新しい命が生まれた。
私と同じ、人形に生前の魂を引き継ぐ者。

私は、あの日、リンと一緒に街を歩いていた。
いつもも買い物の帰り道。
気づいたときにはナイフが刺さっていた。
私の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと、泣きそうな顔のリンがいた。
そして、話を聞いた。
特別製のナイフが刺さった心臓は回復しなかった、と。
その後、ヘィルとリィト、イヴィさんによって禁断の儀式が行われ、
私とリンは、
リィトが住むイヴィさんの家に住むことになった。
儀式もここでしたと言っていた。
人形を用意して行う"魂移し"。
大切な人たちに禁断を破らせてしまったが、
おかげで私は命を繋いだ。
新しい体に馴染んだ後、
リンと一緒に犯人の行方を調べるが、
すでに手足を切られた状態で亡くなっていた。

彼女も、愛する人と平穏に暮らしていただけだった。
払いきれない迫る暴力と背あわせだとしても、
シスカさんとコノカさんは幸せだったと言っていた。
勇者に選ばれ、一度は離され、
何にも怯えることがななって再会した二人。
今は、幸せであればいいと、心から思う。


与えられた家の寝室。
互いに火照る素肌のままリンの腕に抱かれて、
逞しい肩に頭を預ける。
出されたばかりの腹の奥に感じるリンの熱が愛しい。

「リン。対象の調子はどう?」

「良好だ。彼がただ一人愛し続けた結果だろう」

ベッドの中では、
どんなことでも他の女性の名を呼ばないリン。
それが、経過観察という仕事の話だとしても。
小さいことだが、それが私の心を満たしていく。

「私たちも?」

「そうだ。俺の伴侶はランだけだ。愛している」

そろりとリンが動いた。
どうしたのかと思ったら、頬に口づけがおちる。

「私の伴侶もリンだけだから。愛してる」

同じように頬へ触れると、
リンは嬉しそうに微笑んだ。
そして、私に触れていない手が際どいところに触れ、
甘い続きへと誘う。

「さっき、あんなに…」

思い出すだけで体が疼く。
それがいけないのだと分かっていても、疼いてしまう。
欲しい。
リンの感情と魔力を、体すべてで感じたい。

「いいだろう?」

熱い視線を私に向けながら、肌をなぞる。
核心には触れないもどかしさに体が動く。

「いじわる」

「言ってくれないと、わからない」

「それは…そうね。いいよ」

すると、触れてほしいところにリンが触れた。
焦らされた分、刺激を強く感じる。
思わず声が出そうになるが、なんとかのみこんだ後、
つめた息をはく。

「ラン、可愛い」

リンが体勢を変えると、その昂りが入ってくる。
奥まで届いた感覚に身を預け、私は再び熱に溺れた。

翌日。
聖域の中をリンと散歩していると、
赤い果実が入っている草編みの籠をもって花を見ている
シスカさんとコノカさんを見つけた。
私は、シスカさんと話さないように言われている。
シスカさんも同じことをしていると、
リンから聞いている。

「こんにちは」

「こんにちは」

リンが声をかけると、
シスカさんはこちらを向き笑みを浮かべる。
ここに来て十数日が経った二人は、
少しずつだが聖域に慣れているように見える。

「お二人とも、ここの暮らしには慣れましたか?」

「はい。空気が綺麗で、静かで、過ごしやすいです」

「それはよかったです。困ったことがあれば言ってください」

「ありがとうございます」

互いの色を身につけているシスカさんとコノカさんは、
変わらず穏やかな笑みを浮かべている。

「では、また食事のときに」

「はい」

二人の姿が遠くなり、
歩き続けると、リンと作った庭が見える。
その中にある、植物が影を作る長椅子に座った。

「リンはどこまで知っていたの?」

「どこまで…二人と出会った後。
調べていたら、暴力に怯えながら暮らしていること。
勇者にならなかった暮らしだと、
死ぬまで現状維持が保証されている様子ではなかったこと…だけ」

「そうなの…私はコノカさんから聞いて初めて知った。
辛かったと、思う」

考えるだけで胸が苦しくなる話だった。
ふいに、肩を抱き寄せられた。
片手にリンの手が重ねられる。

「だから、選ばれたのかも知れない。
俺はあくまで候補選びが仕事だったから」

「愛しあう者を守る」

それは、聖域の創設者たちが言った言葉。
聖域ができる途中までだが、
頼まれれば少しだけ手伝いをしていた。

「そう。自宅の敷地に特別な魔法をかけて、
聖域を造った理由の一つ…だったかな。
二人が楽しそうに準備していたのは、良い思い出だ」

「確かに。まさか、住むとは思っていなかったけど」

「確かに。でも、今は今で楽しいから」

リンは、私に重ねている手をとって、その甲に口づける。
唇が離れると、
そのまま引き寄せられ、リンの腕に飛び込んだ。
身動きがとれないままリンの膝の上へ向かい合うように乗せられる。
足が開かされていて恥ずかしい。

「管理室から見られてそう…」

「ここは遮蔽魔法かけてあるから」

当然のように言ったリンは、私の首筋を甘く噛む。
そういえば、おやつの時間が近い。
中は見えなくても、
見えると困ることをしているのは伝わってしまうと思う。
しかし、そんなことは気にしない様子のリンは、
迷う私の思考を奪うように唇を塞いだ。
深く絡めとられて相応の魔力が行き交い、
それだけで体は熱く、飢え感が増す。

「私も…っ」

「ん…先に、いい?」

「どうぞ」

許可すると、すぐに、
まだ塞がっていない噛み痕の近くに新しい痕ができた。
そこから交わる魔力の温もりを感じた。
腹の奥にはすでにたっぷりの熱が燻っている。

「ラン。辛そうだな」

「リン…お願い、もう、無理…っ」

「わかった」

体に力が入らないのでリンの肩にもたれていると、
手早くベルトを解く音がした。
直後、そっと抱き上げられ、燻る熱とリンの熱が交わった。
あまりの心地よさに思わず息を詰める。

「ラン」

返事をしようとすると、口の中にも熱いものが入ってきた。
途切れては、
水音と肌に触れられる感覚で戻されて、また途切れる意識。
冷たい風が腹の表面を撫でるたび、ここは外で、
火照りきっている自分の状態が嫌でもわかる。
高まっている飢え感も、そろそろ限界がきていた。
唇が離れ、リンの舌先が首筋に伝う汗をなめている。
その小さな感触ですら、今は飢えを煽るばかり。

「リン…っ、血が、ほし、い…っ」

「どうぞ」

許しを得ると、
いつの間にか着崩されている襟元から見える首筋に噛みついた。
リンの血が喉を通るたび、体の熱は高く穏やかになっていく。
少し落ち着くと、急に感じる気怠さに吸血をやめ、その肩に頭をのせた。

「ラン。自分が今どうなっているか分かる?」

「うん?」

そう言われてゆっくりと頭を起こし確認すると、恥ずかしくなった。
ボタン式の前開きのワンピースはただの上着になっていて、
汗ばむ素肌が惜しみなくリンの前に晒されている。
いつリンの首に腕をまわしたかすら覚えておらず、
繋がっているところはよく濡れていた。
それだけ夢中になっていたと思うと、顔が熱い。

「人間は、交わるときに胸に触れるのも好むらしい。本で読んだ」

「そうなの」

リンは、私をじっと見ている。
何を考えているのだろうか。

魔力の多さが原因で起こる発情を発散し、
同時に相性のいい魔力で中和させているのが悪魔の性行為。
そして、吸血は互いの血と魔力を得る効率の良い食事方法。
この体は維持するために多くの魔力が必要で、
食べ物から得る魔力とは別に、こまめな食事が欠かせない。
だから、今さら、ただの飾りである胸の話をするのが分からない。
しかし、繋がるところから伝わるリンの興奮状態に戸惑う。

「触っていい?」

「いいよ」

普段は意識しない自分の一部に、リンがそっと包むように触れた。

「柔らかいんだな」

「うん」

「ここは、硬いな」

胸の中心に触れられた瞬間、初めての感覚に体が跳ねた。
すると、確認するように全体を包まれながら何度も触れられる。
もどかしい感覚から逃げてしまいたい。

「やめ、て…おかしく、なる…っ」

「そう?ナカがよく締まるから良いのかと」

やめてもらえて安堵した。
しかし、リンは私の唇を塞ぎ、再び動き始めた。
そのまま一緒に果て、しばらくは心地よい温度を分け合っていた。
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