人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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失う乙女は巡り咲く

7.祈り

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「イヴィ。
僕はね、秘密基地は、いくつになっても必要だと思います」

「そうですね。
あちらは子供たちに譲ったようなものですから」

「あー、若いですね。
確かに見えないですけれど」

聖域で魔法が使われた気配に、友人は笑う。
遮蔽魔法を使えば、少なくとも見られたくないことをしていると、
周囲に分かるだろうに。
それを気にしない若さに、かつての自分を思い出す。

「ルヴィ。ヘィルがきましたよ」

ルヴィの奥様であり亡き妻の友人は、
ヘィルさんとリィトを案内してどこかへ行った。
その手には花を持っている。

聖域。
初めは、ルヴィが妻様と穏やかに暮らすために創った場所だった。

大昔のある日、
自由を求めて人の世界に降りた二人の悪魔がいた。
もう一人とはすぐに別れ、ルヴィは自由を楽しむ。
一人が寂しくなると、
何度も悪魔の家系から器を選んで魂を移しながら伴侶を探した。
長い時間をかけて出会ったのが、
今の妻様…と言っていた。

聖域は欲しいが一人では難しいと、ルヴィは私に言った。
妻は体が弱く、
当時は穏やかに療養する場所を求めていたのでその計画にのった。
聖域は無事に完成し、
妻と自宅を行き来しながら、共に多くの時間を過ごした。
ルヴィは、埋葬もしていいと言ってくれた。
おかげで、死後も穏やか場所で眠っている。

「失礼します。用事ってなんですか?」

「こんにちは。ルヴィさん。おじいちゃん」

すっかり大人の女性らしくなったリィトだが、無邪気さはそのままだ。
優しい笑みを浮かべ、私に綺麗な花をくれた。
ヘィルさんは呼び出した友人の傍へ向かう。

「ヘィル。管理室の管理者になりませんか?
そろそろ、任せてもいいと思いまして。
イヴィが教育係としているので安心です。
僕は、妻とゆっくり過ごしたいです」

「一応聞きますが。拒否権はありますか?」

「ないです」

即答するルヴィにため息をついたヘィルさんは、一瞬Jを見た。

「わかりました。やればいいんですね」

「はい。お願いします」

話がまとまった声がするので、リィトを連れて友人の傍へ行く。

「では、管理人を明日からお願いします。
魔法が使われると分かる仕組みになっていますので、
その時は確認をしてください。
詳しくはまた明日です。私は本邸に戻ります」

「わかりました」

子供たちは、はっきりと意思を示した。
それを聞くと、部屋を出ようとするが、
魔法が施されている別室へ案内された。
扉を閉めるとさらに防音の魔法を使い、
ソファーにも座らず、私を見る。

「今さらですが、僕、魔王の側近の息子でした。
もう、関係ないですけどね。
あと、出るときは一緒にいた悪魔も側近の娘です。
彼女が自由を求めて逃避行した行方がわかりました」

「追いかけていたんですか?」

ルヴィの魔力の強さは知っているので驚きはしないが、
側近の…と言うことは相当だろうと考えた。
その力が器を通じて子供に、
そしてヘィルさんに色濃く渡っている。
しかし、それだけで今さらな話をする人ではない。
何かが、ある。続きを視線で促した。

「いいえ。偶然です。
リィトさんの魔力に覚えがあったので家系を調べると、
器は亡くなっていますがリィトさんの曾祖母でした。
趣味は、解剖と修復だったそうです。
元悪魔の家系なので、
ある程度化ければ違和感なく紛れられたんですね。
今は、どこにいるかわかりません。
話はそれだけです。
明日から僕は、妻と秘密基地に籠ります」

気がすんだのか、ルヴィは魔法を解き、部屋を出る。
その後に続き、自宅へ帰った。
ソファー座り、話を思い返す。
人間に近い両親の間に生まれた悪魔のリィト。
強い魔力は、曾祖母譲りかもしれない。
私の母親は悪魔だが、人間の兄がいた。
私にも、その血が流れている。
だが、それがどうした。
私は、ただ、全てをかけて大切な存在を守るだけだ。

翌日。
予定通りにリィトとヘィルさんに説明すると、速やかに部屋を出た。
家の留守は息子に任せている。
養子の息子は、通している生殖能力を除けば人間そのものの人形だが、
万全ではない。
悪魔は外見の変化が人間よりも緩やかで違和感を持たれることも多いので、
家のことは養子を後継ぎにして任せている。
人間の街に馴染むための姿に変わり、家の中へ戻る。
部屋の窓から見る庭に、
子供たちと番犬が駆けていたかつての風景を思い出す。
もう二度と見ることはできないだろう。

力のある人間がさらに力を求めて悪魔を探し、
無理にでも血を繋ごうとしている。
始めは生きたままで襲われていたが、
今では傀儡でもいいと過激になっている。
心臓を刺した後で拐い、操られて生まれた子供も多い。
子種目当てや、孕ませようと襲う事件はなくならない。
互いの魔力が合わず、死に至ることもある。
相性の危険性を減らす道具の存在を見つけ、
取り締まってからは少しずつ減っているが、悲劇は繰り返されている。

リィトの友人が被害に遭ったのを機会に、
大切な者だけは安全のため聖域へ住まうようにした。
聖域を維持するためには魔力が必要で。
その提供者になってもらうためでもある。
聖域にいるだけで、
気づかれないようにわずかだが力を借りている。
一人の負担を少しでも小さくしようと思い、
新しい誰かを選ぶことにした。
そこで、ルヴィは人間が行っている勇者選定に目をつけた。

勇者選定は、魔力を欲する人間が力を奪うために人を選んでいる。
それを逆手にとり、誰かを人間の中に紛れ込ませて神の目にとまり、
選ばれやすいように操作する。
神とルヴィは友人らしい。
聖域の者は、旅に出た勇者の手助けをして、
たどり着いた後は一時滞在から永住へ意識を向けさせ、
穏やかな暮らしを保証する。

「異常なし」

目確認、声出し。
妻と繰り返した習慣は、今も続く思い出の一つ。
家そのものに妻の気配が色濃く残っているので、
心の乱れからくる飢え感はない。

はってある結界と人形に異常がないので、疲れをとるために警戒しながら眠る。

翌日。
間食に良い時間に合わせてお菓子を焼く。
茶葉を選んで草編みの籠に入れ、リィトたちの様子を見に行く。
扉を叩いて入ると、私に気づいたリィトは静かに微笑む。
肌に赤みがあり、少しだけ怠そうな様子だった。
ヘィルさんの膝の上に膝を揃えて体を預けているリィトの首筋には、
新しい噛み痕がある。
おそらく原因はこれだ。
私も、同じ事をしたことがある。
ルヴィが私と妻に部屋の留守を任せて、奥様と出ていた時だった。
二人だけの、人の目がない、出入りする者が限られる空間というのは、誘惑が多い。
立ち上がろうとするリィトとヘィルさんを、手ぶりで止める。

「お疲れ様です。そのままでいいですよ。
二人のおかげで時間ができたので、お菓子を焼いてきました。
よければ、食べてください」

「ありがとうございます」

「おじいちゃん、ありがとう」

嬉しそうに笑みを浮かべる二人は、
管理機械が魔法を探知した瞬間に表情が変わり、そちらへ意識を向けた。
遮蔽魔法が使われたようだ。
相手に分からないように魔法を使い、理由を調べる。
倫理に反する行動でなければ、問題はない。
どうやら食事中らしく、
その艶かしい音に少し緊張している様子の二人は、正しく記録をとっている。
手順や手際には特に問題がないので、扉へ足を向けた。

「また明日も来ます。
困ったことがあれば、聞いてください。
何もなければ、今日はこれで帰ります」

「はい。何かあれば聞きます。お願いします」

「では、失礼します」

扉をしめて、管理室をでる。
管理人が過ごす時間が長いので居住空間にもなっているその場所は居心地がよく、
つい長居してしまう。
友人がいたときは、よく来ていて、結果的には一緒に仕事をしていた。

翌日。
管理室の扉を叩く。
中から声がすると、扉を開ける。
昨日とは違うお菓子と茶葉を持って行くと、濃い魔力が空間に散っていた。
避妊はしているらしい。
時間の経過から考えると、発生したのは夜間だ。
心当たりのある状況に、あえて知らないふりをした。
リィトは、私を見ると嬉しそうに歩いてくる。

「こんにちは。おじいちゃん」

「お疲れ様です。これ、どうぞ。何かありましたか?」

「いえ。なにも…聖域での暮らしは、
あちらに居たときと変わらないですね。
見ていて改めて思いました」

穏やかな笑みを浮かべるリィト。
その姿に、改めて聖域へ連れてきてよかったと思う。

「何かあればすぐに言ってください。失礼します」

足早に部屋を出る。
他人の情欲に影響された男女の行きつく先は、だいたい決まっている。
仕事は問題なく行っているようなので、
しばらくは呼ばれない限り寄らないことに決める。
そして、それぞれに訪れた平穏が、
少しでも長く続くことを心から祈った。
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