瞬く間に住む魔

秋赤音

文字の大きさ
45 / 86
花は愛を乞う

愛しているから

しおりを挟む
出会って一年六か月が過ぎた。
アルトが夢を見なくなって一か月、一か月と過ぎて三か月目を迎えた。
安心して子種をねだり誘うと、興奮して応えてくれるアルトに心から満たされる。
優しい情熱を受け入れる幸せを噛みしめながら、培養器実験は順調に進んでいた。
今これ以上は増やせないから…とジル様との契約も終わりになり、ようやくアルトだけの私でいられるようになった。
次に会うのは、実験体に選ばれた時だけ。
まだ候補だから、しばらく会うことは無い。
ジル様は、実験体に選ばれた私の健康管理を担当することになると言った。
母体で命を育み産む新しい実験の噂には聞いているが、まさか自分が候補になるとは思えなかった。

新しい実験体の候補になったと知らされると、アルトも嬉しそうにしていた。
培養器で造られた命では叶わない子育てができる、と。
アルトがとても嬉しそうだから、私まで嬉しくなった。
第二研究と名づけられた実験の発足記念をするために開かれる舞踏会に呼ばれた。
私はアルトの、アルトは私の色を纏い、お揃いの装飾品も身につける。
美味しい料理、楽しいダンス。
華やかな時間をアルトと一緒に過ごせていることが、なにより嬉しい。

「こんにちは。アルト様」

音も無く現れた女性は、あと五歩の距離をとる立ち位置でアルトをじっと見つめて微笑んでいる。
ガディ家の象徴である赤に染まる髪と、金の目。
動物同士を掛け合わせた遺伝子の女性は、研究員の証を見せてきた。

「私は、実験体候補の一人であるレナと申します。
そして、アルト様は私の番です。
より良い結果のために、ご協力お願いします」

隣にいるアルトは青白い顔で無言のまま、女性を見つめている。
指先に触れると冷たくなっていた。
そして、アルトは、レナ様を見て囁いた。

「スノウ。この光景を、知っている気が、します。
この人を、知っている…大切な、人、で…る、ルシア?
でも、ルシアは…スノウ、これは、断れないお話、ですか?」

握り返された手に強く包まれ、震えた声には確信が見えた。
思い出して、しまったのだろうか。
過去は変えられないから、あえて触れない。

「断れないことは、ないです。
アルトは私の夫です。
番でなくても、遺伝子の良い相性の方はいるはずですから」

「そう、ですよね。
実験するなら、スノウがいいです」

きっと、大丈夫。
私はスノウ・クラフだから。
話し合ったように現れた両親の笑みに、安心した。

「スノウ。アルト様とはここで別れなければいけない。
スノウも、レナ様も、培養器とは違って母体には一人しか…時間もかかる。
より良い遺伝子になるように努めなければいけない」

「え?」

両親に腕を拘束され、目の前でアルトから離される。
レナと名乗った女性は痛そうに眉をよせて微笑んでいる。
嫌だ。
力の限りその場に足をつけて抗う。

「ルシアという名は、私を造る遺伝子の半分です。
培養器で生まれて、強化教育で育ちましたので、元の遺伝子の顔は知りません。
ですが、血縁では母親とされています。
私は、レナです。
アルト様、協力と言いましたが拒否権は無いです。
断った際の万が一も保障できません。
申し訳ありません」

「失礼しました。レナ様。
実験というのは、そういう一面もあります…から。
謝らないでください。
ついて行きます」

アルトが離れていく。
知らない女の隣に追いついて、女と一緒に離れていく。
どうして、
こんなはずでは、
アルト、行かないで。アルトは私の夫なのに。
どうして、やっと二人だけで過ごせるのに。
アルト、私を見て、万が一が怖いなら傍にいて、アルト、アルト、アルトアルトアルトアルトアルト



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...