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花は愛を乞う
愛しているから
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出会って一年六か月が過ぎた。
アルトが夢を見なくなって一か月、一か月と過ぎて三か月目を迎えた。
安心して子種をねだり誘うと、興奮して応えてくれるアルトに心から満たされる。
優しい情熱を受け入れる幸せを噛みしめながら、培養器実験は順調に進んでいた。
今これ以上は増やせないから…とジル様との契約も終わりになり、ようやくアルトだけの私でいられるようになった。
次に会うのは、実験体に選ばれた時だけ。
まだ候補だから、しばらく会うことは無い。
ジル様は、実験体に選ばれた私の健康管理を担当することになると言った。
母体で命を育み産む新しい実験の噂には聞いているが、まさか自分が候補になるとは思えなかった。
新しい実験体の候補になったと知らされると、アルトも嬉しそうにしていた。
培養器で造られた命では叶わない子育てができる、と。
アルトがとても嬉しそうだから、私まで嬉しくなった。
第二研究と名づけられた実験の発足記念をするために開かれる舞踏会に呼ばれた。
私はアルトの、アルトは私の色を纏い、お揃いの装飾品も身につける。
美味しい料理、楽しいダンス。
華やかな時間をアルトと一緒に過ごせていることが、なにより嬉しい。
「こんにちは。アルト様」
音も無く現れた女性は、あと五歩の距離をとる立ち位置でアルトをじっと見つめて微笑んでいる。
ガディ家の象徴である赤に染まる髪と、金の目。
動物同士を掛け合わせた遺伝子の女性は、研究員の証を見せてきた。
「私は、実験体候補の一人であるレナと申します。
そして、アルト様は私の番です。
より良い結果のために、ご協力お願いします」
隣にいるアルトは青白い顔で無言のまま、女性を見つめている。
指先に触れると冷たくなっていた。
そして、アルトは、レナ様を見て囁いた。
「スノウ。この光景を、知っている気が、します。
この人を、知っている…大切な、人、で…る、ルシア?
でも、ルシアは…スノウ、これは、断れないお話、ですか?」
握り返された手に強く包まれ、震えた声には確信が見えた。
思い出して、しまったのだろうか。
過去は変えられないから、あえて触れない。
「断れないことは、ないです。
アルトは私の夫です。
番でなくても、遺伝子の良い相性の方はいるはずですから」
「そう、ですよね。
実験するなら、スノウがいいです」
きっと、大丈夫。
私はスノウ・クラフだから。
話し合ったように現れた両親の笑みに、安心した。
「スノウ。アルト様とはここで別れなければいけない。
スノウも、レナ様も、培養器とは違って母体には一人しか…時間もかかる。
より良い遺伝子になるように努めなければいけない」
「え?」
両親に腕を拘束され、目の前でアルトから離される。
レナと名乗った女性は痛そうに眉をよせて微笑んでいる。
嫌だ。
力の限りその場に足をつけて抗う。
「ルシアという名は、私を造る遺伝子の半分です。
培養器で生まれて、強化教育で育ちましたので、元の遺伝子の顔は知りません。
ですが、血縁では母親とされています。
私は、レナです。
アルト様、協力と言いましたが拒否権は無いです。
断った際の万が一も保障できません。
申し訳ありません」
「失礼しました。レナ様。
実験というのは、そういう一面もあります…から。
謝らないでください。
ついて行きます」
アルトが離れていく。
知らない女の隣に追いついて、女と一緒に離れていく。
どうして、
こんなはずでは、
アルト、行かないで。アルトは私の夫なのに。
どうして、やっと二人だけで過ごせるのに。
アルト、私を見て、万が一が怖いなら傍にいて、アルト、アルト、アルトアルトアルトアルトアルト
アルトが夢を見なくなって一か月、一か月と過ぎて三か月目を迎えた。
安心して子種をねだり誘うと、興奮して応えてくれるアルトに心から満たされる。
優しい情熱を受け入れる幸せを噛みしめながら、培養器実験は順調に進んでいた。
今これ以上は増やせないから…とジル様との契約も終わりになり、ようやくアルトだけの私でいられるようになった。
次に会うのは、実験体に選ばれた時だけ。
まだ候補だから、しばらく会うことは無い。
ジル様は、実験体に選ばれた私の健康管理を担当することになると言った。
母体で命を育み産む新しい実験の噂には聞いているが、まさか自分が候補になるとは思えなかった。
新しい実験体の候補になったと知らされると、アルトも嬉しそうにしていた。
培養器で造られた命では叶わない子育てができる、と。
アルトがとても嬉しそうだから、私まで嬉しくなった。
第二研究と名づけられた実験の発足記念をするために開かれる舞踏会に呼ばれた。
私はアルトの、アルトは私の色を纏い、お揃いの装飾品も身につける。
美味しい料理、楽しいダンス。
華やかな時間をアルトと一緒に過ごせていることが、なにより嬉しい。
「こんにちは。アルト様」
音も無く現れた女性は、あと五歩の距離をとる立ち位置でアルトをじっと見つめて微笑んでいる。
ガディ家の象徴である赤に染まる髪と、金の目。
動物同士を掛け合わせた遺伝子の女性は、研究員の証を見せてきた。
「私は、実験体候補の一人であるレナと申します。
そして、アルト様は私の番です。
より良い結果のために、ご協力お願いします」
隣にいるアルトは青白い顔で無言のまま、女性を見つめている。
指先に触れると冷たくなっていた。
そして、アルトは、レナ様を見て囁いた。
「スノウ。この光景を、知っている気が、します。
この人を、知っている…大切な、人、で…る、ルシア?
でも、ルシアは…スノウ、これは、断れないお話、ですか?」
握り返された手に強く包まれ、震えた声には確信が見えた。
思い出して、しまったのだろうか。
過去は変えられないから、あえて触れない。
「断れないことは、ないです。
アルトは私の夫です。
番でなくても、遺伝子の良い相性の方はいるはずですから」
「そう、ですよね。
実験するなら、スノウがいいです」
きっと、大丈夫。
私はスノウ・クラフだから。
話し合ったように現れた両親の笑みに、安心した。
「スノウ。アルト様とはここで別れなければいけない。
スノウも、レナ様も、培養器とは違って母体には一人しか…時間もかかる。
より良い遺伝子になるように努めなければいけない」
「え?」
両親に腕を拘束され、目の前でアルトから離される。
レナと名乗った女性は痛そうに眉をよせて微笑んでいる。
嫌だ。
力の限りその場に足をつけて抗う。
「ルシアという名は、私を造る遺伝子の半分です。
培養器で生まれて、強化教育で育ちましたので、元の遺伝子の顔は知りません。
ですが、血縁では母親とされています。
私は、レナです。
アルト様、協力と言いましたが拒否権は無いです。
断った際の万が一も保障できません。
申し訳ありません」
「失礼しました。レナ様。
実験というのは、そういう一面もあります…から。
謝らないでください。
ついて行きます」
アルトが離れていく。
知らない女の隣に追いついて、女と一緒に離れていく。
どうして、
こんなはずでは、
アルト、行かないで。アルトは私の夫なのに。
どうして、やっと二人だけで過ごせるのに。
アルト、私を見て、万が一が怖いなら傍にいて、アルト、アルト、アルトアルトアルトアルトアルト
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