瞬く間に住む魔

秋赤音

文字の大きさ
9 / 86
軌跡

1.観察者の憂い

しおりを挟む
静かな廊下。
窓からさす光が生む二つの歩く影。
控えめな靴音が向かう先は、実験室。

第四研究棟。
二世代目同士の交配観察を目的に作られた場所。
培養器と、培養器ではなく体で育てる実験で生まれた子供の管理が主な仕事。
母体の観察は第二研究棟と協力して行う。


「スノウ・クラフ、結局は良い感じに落ち着きましたね」

鋭い白銀の目は目的の場所を見たまま、淡々と男は言った。
短く整えられている青紫の髪は時折あたる光で美しい色合いを見せる。
しかし、誰も気にする者はいない。

「息子がそう言うなら、そうなのでしょう」

赤の長い髪をわずかに揺らしながら歩く女は、金の目でやはり前を向いて応える。

「息子?あー…まあ、そうですね。
これでも、一応は願っていますよ。
並みに、幸せを。
遺伝子だけとはいえ親ですから」

「ラウ。淡々と言われると快く聞こえない人もいると思います。
情も重要視する相手は、でしょうけれど。
少しくらい感情を作って、思い込んで、言葉にのせると、らしさ、でるかもしれませんよ」

女は穏やかに言った。
すると、言葉を聞いた男が一瞬笑いをこらえる。

「らしさ、を作ると、いいことありました?
レナ…あー…なんというか、色々と苦労しているんですね」

ため息をついた男が目的の場所に立ち、扉をあけた。

「苦労、と思ったことないですよ。
生き残るために、と野生心だ愛嬌だと…まあ、知らないより良いと思っていますが」

男のよこを通り入室した女の後を追う男は、後ろ手に扉をしめる。
女の背中をじっと見つめたまま。

「そういうわりに、興味なさそうな感じですね。
いいんですか。らしく、言わなくて」

男が揶揄うように言葉を投げると、女は小さく笑って立ち止まる。
女の目の前に置いてある机には、実験の詳細が書かれている紙が整え立ててある。

「培養器育ちのラウなら、少しくらい、いいかと…だめ、ですか?」

拗ねた声の女に目を細めて笑んだ男は、女にそっと近づき背中を包みこんだ。

「大歓迎です。レナに番が現れなかったら、夫になってもいいですよ。
育ちが同じ自分たちにしか分からないこと、たくさんありますから」

男は、穏やかに射抜く声で女の耳元で語る。
肩を揺らした女は離れようとするが、叶わない。

「もし、現れたら?」

「そのときは…一度でいいので、この美しい髪をください。
実験も兼ねて、自分の遺伝子と合わせ子供を造ります。
どうせ短い命なら、やりたいことを行うだけです」

断言する男に、女が笑う。
そして、男の顔を見てそっと目じりを下げた。

「ラウ。あなたが、番ならよかったのに」

「番だったら、今頃は一緒に実験体ですね」

「確かに。開設の顔合わせで分かったでしょうから。
誰よりも先に子を身ごもれたかもしれないですね」

楽しそうにもしもを語る女を閉じ込めるように、女を抱きしめる男の腕が強くなる。
拘束ともとれる行動を拒絶しない女は、さらに笑みを深くした。

「今からでも、番でなくてもいいと…実験に協力すると言えば「ラウ」

女が男の唇に指先で触れた。
すると、男はわずかに口を開き、舌先で女の指を舐める。
離そうとする女の手首をつかみ、無防備な首筋に吸いついた。

「ラウ…っぅぁ!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...