瞬く間に住む魔

秋赤音

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軌跡

0.観察者の憩い

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引き出しから一冊の本が取り出された。
覚書のような紙が丁寧にまとめられている。
覚書程度にしか書かれていない文字を目で追うのは白い短髪と紫の目をした男性。
男は、じっと静かに本を読む。

『初代研究長は言った。
俺たちは「真人族の未来を変えるために選ばれた」と。
「この中で自分の研究長を引き継ぐ者を選ぶ」と。
特殊研究員の給料は良く、打診がきて断る者は少なかったらしい。
三棟ある研究所は、観察する側と選ばれた被験者で溢れていた。
18歳』

第一研究棟の、とある一室。
休憩中の研究員に近づく男性の研究員は、相手の手元に広げられている本を見た。
肩まで伸びて一つに束ねられている白い髪を揺らし、薄黄色の目は好奇心に満ちている。

「ラフ先輩、これなんですか?」

「ルトさん。これは、大切な記録です。
今は亡き先輩研究員の、大切な記録です」

「へー。紙で残すのは前からだったんですね。
自動記録もあるのに、わざわざ」

研究員は目を伏せて記録を見る。
ページをめくるたびに年齢を重ねる研究員。
しかし、40歳を超える者は少ない。

「真人族の平均寿命、約50歳ですよね?」

「彼らは、純真人種です。
遺伝子改良されていない真人族のことを、当時から呼び分けていました。
今でこそ少なくなりましたが、まだ存在します」

「そうでした。覚えていますよー。
実験の対象外になっているから、直接関りは無いですけど。
悪いところを直すのを拒否している者や、生まれた体のまま死にたいと願う者ですね。
自分には分からない感性ですけど、色んな人がいるんですよね」

ラフは唸る後輩に優しい眼差しを向ける。

「はい。色々な生き方があります。
そして選べる、と言うのは良いことだと個人的には思います。
確かに、一世代目の変異種や二世代目の元素種には難しい生き方かもしれません。
私たち…特に二世代目は、生まれの時点で、別の進む道を選んでいますからね。
親のように生まれた後で遺伝子改良をして病を治すのも方法として考えている者が多いです。
研究を進めて、より良い未来を開きたいですね」

視線を本に戻したラフの憂いを含んだ目に、ルトは思い出す。
年の離れた兄弟のような心地よさに慣れてしまっているがゆえに。
先輩の年齢が真人族の寿命平均の50歳に近づこうとしていることを、思い出してしまった。
そして、いつか自分も命を終える日が来ると。

「先輩…大丈夫です。
先輩の後は自分が引き継ぎます。
自分は真人族ですけど動物の血も入ってますから、少しだけ長く生きられるかもしれないですし。
おそらく、平均70歳と50歳の間くらいですけどね」

「十分、です。
自分たちが生きた功績が、こうして後の研究員の糧になるかもしれません。
手間はかかりますが、手記録の提出も引き続きお願いします」

「はいー」

ルトは柔らかく微笑むラフに、ルトは笑みを返した。

「さて。そろそろ戻りますか」

「はい。あ…そうだった。
一世代目の寿命が延びるかもしれない可能性が見つかりました。
昨日亡くなった被験者を調べた結果です。
実用化出来たら、先輩は使ってくれますか?」

「まずは実用化しなければ、考えることもできません。
遺伝子を変えなくてもいい方法も…一世代目にもできることはあるはずです。
成果を出せるよう、助け合っていきましょう」

「はい!」

歩く二つの影は、研究室に向かう。
すれ違う研究員と目配せで挨拶をしながら進む。

「ラフさん、あとでいいですか?
研究中の治療薬のことで」

「はい。一時間後に向かいます」

「ルト。あとで手をかしてくれー」

「はいー。一時間後にねー」

声をかけ合いながら、今日も研究は進む。

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