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5.挨拶から始めよう
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後日。
サンルーナ国の王宮は、緊張感が漂っていた。
広い集められた三組の男女は、上段にいる仮面をつけた者たちを見上げる。
「お前たちは、被験二世代目の子供たちから選ばれた。
遺伝子改良の最後の検証として、子を造ってもらう。
動物族と植物族の交配は、ウォル・ガディとルシアとリンとフィーナ・クラフ。
シアとリディは、植物族と真人族を。
全ては全種族がより優れ、より長く、より健康に生きるためにある。
まずは培養器で育てるので、一つでも多くの種を造ることだ。
与えた場所で、健やかに励むがよい」
仮面をつけた者たちは、一方的に話を終えて立ち去った。
すると、ウォル・ガディは、隣にいる赤い装飾品を身につけた女性の腰を抱き寄せた。
女性は、金の瞳を不安で揺らしながらウォル・ガディを見つめる。
「移動する。皆、ついてこい」
ウォル・ガディが入ったのは、上品な内装に赤い花が飾ってある部屋。
「座れ」
連れた者たちが座った瞬間、扉の空気が変わった。
扉には花が咲く蔦が這い、廊下から悲鳴が聞こえた。
直後、人が倒れる音がした。
しかし、誰も気に留めることは無い。
ウォル・ガディは隣に女性を座らせ、腰を抱き寄せた。
「ここは俺の執務室だ。
一応言っておくが、あれは俺がやった。
野生動物と飼育植物の遺伝子から得た力によるものだ。
痺れ眠らせただけで、殺してはいない。
さて、せっかくだから話をしよう」
「あの…ウォル様、最後の実験、と言っていましたが」
「実験だろうと、俺たちがやることは変わらない。
他と違うとすれば、生まれた子供も観察対象になることだけだ。
成功すれば、次は選んだ元素種と変異種の交配…だな?」
「可能性はありますわね。
すでに参加者を募り始めているそうですから。
まあ、意外と早く集まるのでは。
公になっているのが本当であれば、ですが」
「ああ。そうだな」
フィーナ・クラフは、乾いた笑みをこぼすウォル・ガディに人形のような笑みで応じる。
「早く集まる、というのは実現するかもしれません。
両国の元素種の一部は変異種との交配を願い出ていますから。
反対する者と傍観に留める者もいると聞いていますが」
フィーナ・クラフは、正面から夫に近づくウォル・ガディの半歩前に出る。
その様を揶揄うように笑い、フィーナ・クラフの正面で足を止めた。
「それは本当だな?平民。
そういえば…まずは、結婚おめでとう。
フィーナ・クラフは飼育動物の血を選んだか。
妹は元素種に近い真人の血を求めたそうだな。
今は人の目から隠れて蜜月と聞く」
「ありがとうございます。
ウォル・ガディも、結婚おめでとうございます。
番様と出会えたこと、心から祝福しますわ。
これからも家名を持つ者として、よろしくお願いしますね」
「そうだ。俺は番と出会えた。
腹違いの兄弟は知らないが、俺は番と共にいられる幸せを得た。
ああ。家名を持つ者として、これからもよろしく頼む」
互いに笑みを浮かべ向き合いながら、一歩後ろに下がった。
「で、だ」
「そうですわね。夫と、平民商人のご夫妻もいますし」
二つの目は、親しい主従のような振舞いの夫妻に向けられた。
目を警戒するように男性の前に出た女性は、緊張感のある笑みを浮かべている。
その背後から女性の腰を抱き寄せて隣に移動させた男性は、二つの目と対峙する。
「リディ。大丈夫。
それに、今は夫だから…僕も守りたいです」
「シア…はい」
腕に抱かれた女性は口を閉ざし、場を見守るように視線だけは外さない。
「元はサンルーナ国の商人貴族だろう。
腹違いの六男でも知っていることはあるはずだ。
あの話は本当か?どこまで広がっている」
「皆様の言う通りです。
オーウィン国では舞踏会の七日前に発表されています。
僕たちの国は培養器が無い時代の方が長かったので、
自らの腹で生まなくていいと一部は盛り上がっています。
実験の参加者は、すでに集まりつつあるとも言われています」
フィーナ・クラフは、回答に言葉を返すことは無く人形のような笑みを浮かべたまま。
ニコニコと静かに笑むウォル・ガディは、隣で目を伏せている女性の頬をそっと撫でた。
「フィーナ・クラフ、これは仲良くできそうな夫妻だな?」
「そうですわね。優れているのは遺伝子だけではないようです。
これからも支え合って、幸せに暮らせるよう願っています。
それで…ウォル・ガディ。
もう、いいですか?」
「もう、いいだろう。
ついてこい。出口まで案内する」
立ち上がったウォル・ガディの背を、夫に目配せしたフィーナ・クラフが追う。
シア夫妻も後に続きそれぞれ帰路へ向かった。
サンルーナ国の王宮は、緊張感が漂っていた。
広い集められた三組の男女は、上段にいる仮面をつけた者たちを見上げる。
「お前たちは、被験二世代目の子供たちから選ばれた。
遺伝子改良の最後の検証として、子を造ってもらう。
動物族と植物族の交配は、ウォル・ガディとルシアとリンとフィーナ・クラフ。
シアとリディは、植物族と真人族を。
全ては全種族がより優れ、より長く、より健康に生きるためにある。
まずは培養器で育てるので、一つでも多くの種を造ることだ。
与えた場所で、健やかに励むがよい」
仮面をつけた者たちは、一方的に話を終えて立ち去った。
すると、ウォル・ガディは、隣にいる赤い装飾品を身につけた女性の腰を抱き寄せた。
女性は、金の瞳を不安で揺らしながらウォル・ガディを見つめる。
「移動する。皆、ついてこい」
ウォル・ガディが入ったのは、上品な内装に赤い花が飾ってある部屋。
「座れ」
連れた者たちが座った瞬間、扉の空気が変わった。
扉には花が咲く蔦が這い、廊下から悲鳴が聞こえた。
直後、人が倒れる音がした。
しかし、誰も気に留めることは無い。
ウォル・ガディは隣に女性を座らせ、腰を抱き寄せた。
「ここは俺の執務室だ。
一応言っておくが、あれは俺がやった。
野生動物と飼育植物の遺伝子から得た力によるものだ。
痺れ眠らせただけで、殺してはいない。
さて、せっかくだから話をしよう」
「あの…ウォル様、最後の実験、と言っていましたが」
「実験だろうと、俺たちがやることは変わらない。
他と違うとすれば、生まれた子供も観察対象になることだけだ。
成功すれば、次は選んだ元素種と変異種の交配…だな?」
「可能性はありますわね。
すでに参加者を募り始めているそうですから。
まあ、意外と早く集まるのでは。
公になっているのが本当であれば、ですが」
「ああ。そうだな」
フィーナ・クラフは、乾いた笑みをこぼすウォル・ガディに人形のような笑みで応じる。
「早く集まる、というのは実現するかもしれません。
両国の元素種の一部は変異種との交配を願い出ていますから。
反対する者と傍観に留める者もいると聞いていますが」
フィーナ・クラフは、正面から夫に近づくウォル・ガディの半歩前に出る。
その様を揶揄うように笑い、フィーナ・クラフの正面で足を止めた。
「それは本当だな?平民。
そういえば…まずは、結婚おめでとう。
フィーナ・クラフは飼育動物の血を選んだか。
妹は元素種に近い真人の血を求めたそうだな。
今は人の目から隠れて蜜月と聞く」
「ありがとうございます。
ウォル・ガディも、結婚おめでとうございます。
番様と出会えたこと、心から祝福しますわ。
これからも家名を持つ者として、よろしくお願いしますね」
「そうだ。俺は番と出会えた。
腹違いの兄弟は知らないが、俺は番と共にいられる幸せを得た。
ああ。家名を持つ者として、これからもよろしく頼む」
互いに笑みを浮かべ向き合いながら、一歩後ろに下がった。
「で、だ」
「そうですわね。夫と、平民商人のご夫妻もいますし」
二つの目は、親しい主従のような振舞いの夫妻に向けられた。
目を警戒するように男性の前に出た女性は、緊張感のある笑みを浮かべている。
その背後から女性の腰を抱き寄せて隣に移動させた男性は、二つの目と対峙する。
「リディ。大丈夫。
それに、今は夫だから…僕も守りたいです」
「シア…はい」
腕に抱かれた女性は口を閉ざし、場を見守るように視線だけは外さない。
「元はサンルーナ国の商人貴族だろう。
腹違いの六男でも知っていることはあるはずだ。
あの話は本当か?どこまで広がっている」
「皆様の言う通りです。
オーウィン国では舞踏会の七日前に発表されています。
僕たちの国は培養器が無い時代の方が長かったので、
自らの腹で生まなくていいと一部は盛り上がっています。
実験の参加者は、すでに集まりつつあるとも言われています」
フィーナ・クラフは、回答に言葉を返すことは無く人形のような笑みを浮かべたまま。
ニコニコと静かに笑むウォル・ガディは、隣で目を伏せている女性の頬をそっと撫でた。
「フィーナ・クラフ、これは仲良くできそうな夫妻だな?」
「そうですわね。優れているのは遺伝子だけではないようです。
これからも支え合って、幸せに暮らせるよう願っています。
それで…ウォル・ガディ。
もう、いいですか?」
「もう、いいだろう。
ついてこい。出口まで案内する」
立ち上がったウォル・ガディの背を、夫に目配せしたフィーナ・クラフが追う。
シア夫妻も後に続きそれぞれ帰路へ向かった。
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