瞬く間に住む魔

秋赤音

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同じ傘の下で

月明かりの下で、

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何人かの依頼主を転々としながら暮らしを維持していた。
偶然にシア様と再会した夜は、交わした契約の一つが終わった後だった。
長く契約が続いて、どこにいってもある仕事は街の見回り。
何も起きないことが一番だが、残念ながら叶わないことが多い。

月明かりだけが頼りの、サンルーナ国の路地裏。
問題事が起きる典型の場所にシア様がいた。
子種を求める甲高い女の声がする場所に向かうと、女が無言で睨んできた。
よくある慣れた展開だった。
女が相手をしている男性が知人ということを除いて。
女に迫られ冷たい壁に背を預ける男が、見回り係の私を見て目を大きく開ける。
別れて過ぎた時間は短くないのに、覚えているような素振りが死に底なっている心を刺激した。

「お静かに、お願いします。
愛を語らうなら、穏やかに、もっと衛生環境の整った場所を推奨します」

淡々と、仕事らしく言えていただろうか。
女はシア様を睨みながら目線で話を合わせろと言っているように見えた。

「わ、私たち、愛し合って…ねえ」

「断っている声を無視する相手を選ぶことはしません」

「なによ…せっかく子種に選んであげたのに!」

思い通りに事が運ばないのが気に入らないのか、女は分かりやすく目を鋭く吊り上げた。
言葉を吐き捨てた女は靴音を鳴らしながら消えた。
シア様は私を見て微笑みながら、歩いてくる。
そして、隣に立ち、夜伽に誘うような笑みで止まった。

「ありがとうございます。
助かりました。リディ」

「いえ。どうして、こんな時間に、ここに?」

「仕事の帰りに酒の席で薬を盛られた…結果が。
まだ少し痺れが残っているから、宿まで支えてもらえると助かります」

「承りました。無事にシア様を送ります」

差し出された手をとり、催淫薬の香りをまとう体を支える。
一歩進もうとすると、シア様に腰を抱き寄せられた。
催淫薬のせいか熱い体と、懐かしい香りに思わず目を細める。

「様はいらないと、あの時に言いました」

耳元で囁く声が過去を思い出させる。
別れの日に告げられた約束も、まだ覚えているらしい。
命令を守れない私は、理想の下僕として完成するには遠いと改めて思う。

「あ…申し訳ありません」

「身分が変わっても主と慕ってくれるのは嬉しいですが…区別してください」

「はい。シアさん」

シア様は回答に満足し、ようやく足を動かした。
道中、あと少しで宿に着く直前。
別の女がシア様へ危害を加えようと液体薬をまき散らす。
考えるよりも体が動いていた。
面倒だと表情だけで主張した女は別の男性に目を向けていた。
液体薬の香りは催淫薬のようだが、理性を緩め発汗を促すような香りも混じっている。
事を致すには分かりやすい調合で作用を強め合うような薬に仕上がっている。
もしシア様に、と考えるだけで悪寒がした。
耐性がある体でも解毒薬がないと無効にできないのだから。
熱くなり始めた体を理性で抑えながら、シア様の無事を確認する。
目が合うと、男の顔をしたシア様と目が合った。

「それは僕が身に受けるはずだったんです。
だから、償いたいです。
僕と関わりないあなたを巻き込んでしまった罪を償わせてください」

拗らせ燻る感情が悦んでいる。
下僕だった時のように甘い声で告げられるから、錯覚してしまう。
これは命令だと。
シア様の目を見て、うなずいた私にシア様は微笑む。
嬉しい。
やはりシア様には笑顔が似合う。


解毒ができないまま薬が回る身を任せ、着いたのは小さな家だった。

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