ありふれた日常生活

さとよだ

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01.被虐体質

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 次の列車が来るアナウンスが聞こえてくる。到着を知らせるメロディーを耳にしながら、私はトイレの洗面台で制服のスカートを洗う。ふと裾を見ると、所々が裂けているのに気づいた。
 はぁ、とため息をつく。流石にこのままじゃ駄目かと、個室で水に濡らしたスカートを脱ぎ、鞄に仕舞っていた替えの物に履き替える。そして再び汚れたスカートを洗い直す。
 電車が到着し、次々と人が降りてきたのだろう。先程までまばらだったトイレの利用者が増えてきた。2つしかない洗面台の一つを占領している私を、迷惑そうに眺めて素通りしていく。
「私が何したって言うんだよ……」
 洗い終えたスカートをゴミ箱に叩き込んでやりたい気持ちを抑えて、ビニール袋に詰める。そしてそのまま鞄に押し込んだ。
 再び電車が到着するアナウンスが聞こえてくる頃、急いで改札口を出ていく。あまりゆっくりしていると学校に遅刻してしまう。
 最近は毎日といっていいほどに遅刻を繰り返していた。先生に目をつけられ、次はないぞと脅されている。今日は、遅刻なんかするわけにはいかないのに。焦りだけが先行し、駆ける足元がもつれて転ぶ。
「……いったぁ」
 平らに見えるアスファルトは思いの外凸凹としていたのか、血が滲み出すほど膝を擦りむいていた。じわりと痛みが広がっていく中、早急に立ち上がる。通りすぎていく人たちは、転けた私に白い目を向けるだけだった。
 喉が熱くなる。呼吸を浅く整えていく。深呼吸しようものなら、抑えていた感情が吹き出してしまうだろう。頬を軽く叩き、再び走り出す。学校まで後少し。後少しの辛抱だ。
 校門に差し掛かった時、始業のチャイムが鳴った。あと一歩遅かったか。このまま教室に入れば、先生に指摘される。皆の前で遅刻を叱られるのは流石に堪えてしまう。それを考えると学校などサボってしまいたくなった。そんな勇気、私が持ち合わせているはずもないけれど。
 大人しく教室に入る。先生は私に気づくと、またかと苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……お前なぁ」
「すみません」
 軽く頭を下げる。小声で謝り、そそくさと自分の席に座った。皆の注目を集める羽目になってしまったが、学校に着いてしまえばひと安心だ。常に起こり続ける不幸も、学校にいる間は少なくなる。それが唯一の救いだった。
 始めのうちは不幸っぷりを面白がって、私ちにちょっかいを出していたクラスメイトたちも、不幸に巻き込まれることが分かると一気に離れていった。今は友達も、味方になってくれる先生もいない。一人でいるのは気楽だがここまで人から避けられるようになってしまうと、私の人生に意味はあるのかと、ふと思い詰めてしまう。
 身の入らない授業を聞き流しながら、窓の外を眺める。そこには憎らしいほどに雲一つない青空が広がっていた。
 休憩時間になるとたちまちクラスメイトたちのおしゃべりで騒がしくなった。友達もいない、何もすることもない私は、他愛もない雑談をBGMにして机にうつ伏す。
「ニュース見た? 坂真町の山のとこで隕石落ちたやつ」
「見た見た! 隣町でしょ? ちょっとずれてたら自分の家だったかもってビビったわ。うちに落ちなくてよかったー」
「近所のおばさんがその山にハイキング行ってたらしくてさー。まだ帰って来てないんだって」
「何それ怖い。無事だといいよね……。そういやあの子って坂真町に住んでたよね。彼女のせいなんじゃないの?」
 私を揶揄するような流れに持ち込んだ途端に声量が下がる。ちらりと声の方向を見ると、彼女たちと目があった。気まずそうに私から目をそらし、話題を変えて会話を続け始める。
 それにしても昨日、隕石が落ちたなんてそんなことがあったのか。坂真町の山というと、小さい頃に何度も遊びに行ったところだ。最近は昔ほど頻繁に通ってはいないが、月に一~二度訪れる程度には馴染みがあったため、心配のような気持ちが沸いた。あまり近づかない方がいいだろうけど、次の土日にでも様子を見に行ってみようと思った。
 そうして穏やかな学校での一日も終わりを告げ、慌てて部活に向かう人、帰宅する人、自習室へ向かう人で廊下が慌ただしくなる。
 足を踏まれながら、人混みを縫って靴箱に向かう。誰かの鞄に自分の髪の毛が引っ掛かったのか、いくつか千切れた感覚がした。痛みがする頭部を擦る。
 ふぅ、とため息をつき、覚悟を決めて靴を履き替える。休息のような時間は終わった。ここからはまた、ありふれた日常が始まる。
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