ありふれた日常生活

さとよだ

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04.人生

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 目を覚ました後は、人通りが少なくなる道探しを行っていた。不良たちの記憶によると、駅前の商店街横の道が穴場らしい。私は商店街を目指し歩く。
 たどり着いた頃に辺りを見渡すと、思った以上に人が多く歩いていた。彼らの記憶がでたらめだったのか、それともタイミングによって人の多さが変わるのか、はたまた別の何かがあるのか。
 取り敢えず、人が少なくなるタイミングを見計らってみることにした。大きなゴミ箱の後ろなら見つかることもなさそうだと判断し隠れる。
 どれくらい待っただろうか。人通りが減ったのか、どんどんと空気が寂しくなっていく。街灯の灯りがついた頃、どこからか声が聞こえた。
「あれ、おねーさん一人?」
「暇なら俺たちと遊んでいこうよ」
 声の方を見ると、一人の女子高生が二人の男に囲まれていた。昨日のかつあげと状況が同じだ。彼らから情報を得よう。そう思ってゴミ箱の後ろから体を乗り出した時、倒れそうにないゴミ箱が倒れた。
 その音に気づいたのか、彼らがこちらを見る。怯えながら振り返った女子高生に、見覚えがあった。
 私だ。私が、そこに立っている。一瞬どういうことなのかと困惑する。だがすぐに理解した。
 これは私の走馬灯でも、夢なんかでもない。これは、ついさっきの記憶。私に絡んできた男たちを飲み込んだ、正体不明の液体の記憶なんだ。
 ということは、かつあげをしていた不良を取り込んだのも、ハイキングをしていた女性たちを取り込んだのも、地球に落ちてきたのも、夢でもなんでもなく、全て現実のことなんだ。
 私は途端に怖くなった。見てはいけないものを見てしまった、そんな恐怖に襲われる。
 だがそんな私の気持ちを考慮することなく私は、いや、液体であったものは男たちを取り込みその記憶を探る。そして、私をも取り込むのだろう。目の前にいる私は覚悟を決めた表情をしていた。
 私は考える。目の前の女を餌にすれば、自分から情報を集めにいかなくても向こうから寄ってくるのではないか。力もない、抵抗もしない、背丈も低いようだ。丁度いいと、思った。
 同じ生命体を複数取り込んだから、ある程度の肉体構造の把握ができている。記憶を持つ器官の場所、行動するための筋肉の動かし方、その他諸々。侵入した後は、壊さぬよう慎重に操るだけ。
 生命の内部へと吸収されるよう、食物を摂取する口という部位から入り込んでいく。
 そうだ、ついでに記憶を覗いておこう。人間という生き物は複数で集まってコミュニティを成すらしい。それからそのコミュニティに相応しくない、異端と判断すれば迅速に排除に動き出す。非効率的だと思わざるを得ないが、それがこの星で生きていくための戦略なのだろう。
 それに従わず少しでも怪しい素振りを見せれば、私の計画は瞬時に破綻すると考えていた。私は異端ではなく、この星で生まれ落ち生きる人間であらねばならない。
 いや、そこまでせずとも主行動をこの生命体に委ねたままでも問題ないのではないか。行動パターンを実際に把握するためにも、その方がいいかもしれない。
 しばらくして数少ない記憶が頭上を流れていく。大したことのない、つまらない思い出を反芻する。これは都合が良い。知らない人に喧嘩を売られたことも、いきなり怒鳴られたことも、路地裏で連れ去られそうになったことも。私のためにあるようなものだった。
 これほどまでに人を惹き付ける才能がある人間を引き当てたこと、幸運と言わずなんと言おうか。
 それから手足を動かす機能を見つけた。慎重に、指令となる電気信号を送る。中々に難しくコツがいるが、何とかなりそうだ。しばらくは行動を人間に任せて、筋肉の動作方法のコツを参考にしよう。
 次に感情を制御する部位を見つけた。過ぎた感情は自死をもたらすそうだ。せっかく見つけた良質な媒体を失くすのは惜しい。これは抜かりなくコントロールする必要がある。
 一通り巡回したところで、あらかたの構成は把握した。その管理方法も。後は緩やかに、そして早急に皆の元へ帰るための情報を集めて戻るだけ。
 それでは、探しに行くとしよう。

 目が覚めた時には、辺りは静まりかえっていた。ぼんやりと点滅する街灯がそこにあるだけで、少ないながらも商店街近くにいた人々は誰一人としていなくなっていた。先ほど起きたことは夢だと思わせるほどに、しんとした静寂が広がっている。
 しかし、夢なんかではない。未だに心臓が速く脈打っている。加えて呼吸は浅く、震える手が何よりもの証拠だ。
 ついさっきの出来事と、夢の内容を思い出す。とても怖い。あれは宇宙人だったのだ。宇宙人に体を乗っ取られてしまった。その事実に思い切り叫んでしまいたくなった。叫んで、騒いで気持ちを落ち着かせようとしたかった。
 しかしそんな気は起きなかった。目の前の出来事を見てなお、私は平静としている。それに、気を失うまでに酷く感じていた恐怖心が徐々に消えていくように感じた。そして何故か穏やかに沸き上がる幸福感。
 ああ、私は私で無くなる。こんなにも恐ろしいのに、微塵も怖いとは思うことがなかった。私の気持ちが、書き変わっていく。
 そうだ、早く家に帰らないと。家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、それから布団で眠る。ありふれた日常を、私は過ごしていくんだ。
 まだ心臓は速く脈打っている。身体自身は恐怖から逃れられていないのだろう。だが私の気持ちはどうしようもなくワクワクしていた。こんなにもこれからが楽しみになるなんて。
 立ち上がって柄にもなく腕を広げてみた。にやけてしまうのを抑えることはできない。声に出して笑ってみたりもした。
 ああ、人生はとても楽しい。だってそうでしょう? こんなにも幸せで満ちているのだから!

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