魔界饗宴 ・外伝 ケルベロスの花嫁

由宇ノ木

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黒のテールコートに黒のマントを羽織ったアスタロト公爵が現れた。

指揮者の指示で音楽を止めた団員達は、アスタロトに向かって立つように命じられ、彼の身分の高さを推し量った。

プロで活躍しているわけではないが、音楽大学や音楽院を卒業している、演奏の腕前は高さを誇る。
かつての教師や勤め先の上司に声をかけられ、誘われた者ばかりだった。

団員達は、アスタロトがどのような振る舞いをするかを見定めようとしていた。
高慢な態度をとるだろうか?
我々がプロではないと、見下すだろうか?

「素晴らしい音楽を止めることはない。続けなさい。私にももっと聞かせておくれ」

アスタロトはニコリと微笑み団員達と挨拶をかわした。


ホワイトベージュの巻き毛を後ろで少し結んで、やや長めの前髪がうすいラベンダー色のアスタロト。瞳の黒さと相まって、アスタロトが美男であることと彼の朗らかな微笑みに、団員を含めた大広間の女達は心を奪われた。
ルシフェルの神々しい美しさとは違う、人懐こそうな笑顔と明るさに注目が集った。

団員達は安堵の表情でアスタロトに礼をし、座って指揮者の指示を待った。

アスタロトに好感を持ったチェリストの一人の女がふと、公爵の名前を思いだそうとした。

なんという名前だったっけ?
えーと、アス・・コット・・コルト公爵・・いいえ、コルテオ公爵だったかしら?

『アスタロト』という名前は記憶から消えていた。


音楽が再び始まり、何事もなかったかのごとく、人々も踊りを再開した。


アスタロトはすぐにベールとジョゼフィーヌを見つけ軽快に近づいてきた。


「これはこれは、今宵はまたいっそう美しい、我が妻よ!」

両手を広げてアスタロトは賛美の声をあげた。

「いつも美しいが今宵はまた格別だ!何か良い出来事でもあったのかい?」

ジョゼフィーヌは恥ずかしげに微笑み、「アスタロト様、今宵お会いできて嬉しゅうございます」と丁重に礼をした。


「なんと!聞いたかい?ベール殿。私に会えて嬉しくてこんなに美しく輝いているというのかい?!可愛らしいことを言ってくれるねぇ。男冥利につきるというものだ。私のほうこそ君を妻に迎えることができて嬉しいよ。いやあ、私はこの世界一幸せな男だよ!ハハハハハハハハハハ」

魔界の大公爵アスタロト。
名をシャンタル・フランソワという。
父親が不遇の死をとげ、他の悪魔達に領地を奪われた際、人間界での留学を中断して魔界に戻った若きアスタロトは、少数の生き残っていた父親の部下を従えて仇をうった。そして領地の全てを取り戻し、公爵の地位を受け継いだ。
戦った相手はベルゼブブ一派であった。




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