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46. 過去との対峙 (4)
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仙道京司朗が帰ってきたのは昼が近い頃だった。
迎えに来ていた車の中で、留守中の出来事のあらかたは聞いた。
もちろん明日の茶会の着物選びが行われたことも報告された。そして、今日の午後に再度、呉服屋の藤原が訪ねてくるということも。
「着物は全て昨日のままなのか?」
「はい」
「選ばなかった着物を片付けにくるわけじゃないのか?」
「さあ、そこまでは聞いていませんので」
「そうか」
京司朗は手元の書類をケースに戻した。
車が屋敷の門をくぐり、敷地内へと入っていった。
「会長。仙道京司朗、只今帰って参りました」
京司朗は会長の部屋の前で正座し、声をかけた。
障子戸の向こうから「入れ」と、声がして、京司朗は障子戸を横にすべらせて開いた。
惣領貴之が腕組みをして立っている。
視線の先には、振袖『まほろば藤』があった。
「『まほろば藤』ですか。いつ見ても見事な振袖ですね」
「ああ」
「一枚目より、こちらのほうが振袖としては洗練されているように思います」
「・・お前、一枚目の『まほろば藤』を見たのか?」
惣領貴之は意外そうな顔をして、姿勢を正して座っている京司朗に視線を移した。
「写真ですが、以前、藤原を訪ねた時に見せてもらったことがありました。確か一枚目は藤の向こうに白い馬が一頭描かれていて・・。できれば写真ではなく本物を見てみたかったですね。ただ、一枚目は『まほろば藤』の銘はなかったように思います」
「・・一枚目は『藤幻郷に寄せて』だそうだ。藤の幻の郷と書いて藤幻郷だ」
「なるほど・・雅やかですね。では藤幻郷からまほろば藤が生まれたわけですか」
「そうなるな。午後にこれのことで藤原の次男坊から話を聞くことになってる。京司朗、帰国早々悪いがお前も立ち会えや」
「それはかまいませんが、『まほろば藤』が何か問題に?」
「藤原が『まほろば藤』を嬢ちゃんに譲りてえと言ってきた」
「まさか・・」
「昨日藤原の当主から経緯は聞いたが、次男坊本人から詳しい事情を話してほしくてな」
惣領貴之は立ったまま、『まほろば藤』から目をそらさなかった。
「惣領会長、京司朗さん、お久しぶりです」
藤原匠真は、胡座をかいている惣領貴之と、座している仙道京司朗に向かって、深々と頭を下げた。
着物作家・藤原匠真。
呉服屋の次男だけあって、和装で姿を整えているが、短く刈り込んだ頭だけ見るなら、まるで寺の坊主のようでもある。
「忙しいところわざわざ来てもらって悪いな」
「いえ、先にお話ししておくべきだったのかもしれません」
頭を上げた藤原匠真は、そのまま姿勢を正して話し始めた。
「『藤幻郷』は私を救ってくれた作品です。私はまだ13歳だった少女に救われたんです。そして、お母様である青木礼夏さんに」
匠真は画家として筆を折ろうとしていた頃に、みふゆの描いた『藤幻郷』に出会った。
みふゆの父親が夢に見た幻想世界『藤幻郷』
父親の指導があったとは言え、描ききったみふゆの感性と才能に匠真は驚嘆した。
「・・絵を返してほしい。大賞を辞退したいと連絡をもらった時、私が説得にあたりました。あの絵は絶対に世に出すべきだと思ったからです。ですが、お父様の事情を聞いて・・我々は返さざるを得なかったんです」
「そして、・・父親とともに荼毘に付されたわけか」
「はい。ですが、我々はそこまでの予想をしていませんでした。しかし、お父様が死出の旅に持って行きたいと言ったと・・。私は彼女の潔さと純粋さに驚かされ、彼女の才能を伸ばしたいと思うようになりました。自分はもう描けないだろうと諦めていましたから。せめて、自分の得た学びや技術を誰かに引き継いでほしくて。私は・・青木礼夏さんに連絡を取り、ご自宅を伺うことになりました。まだ小さいお子様がいるということで自宅に来てほしいと言われたのです」
惣領貴之の右手の指が、あぐらをかいた膝頭をぐっと強く握りこんだのを、京司朗は気づいていた。
迎えに来ていた車の中で、留守中の出来事のあらかたは聞いた。
もちろん明日の茶会の着物選びが行われたことも報告された。そして、今日の午後に再度、呉服屋の藤原が訪ねてくるということも。
「着物は全て昨日のままなのか?」
「はい」
「選ばなかった着物を片付けにくるわけじゃないのか?」
「さあ、そこまでは聞いていませんので」
「そうか」
京司朗は手元の書類をケースに戻した。
車が屋敷の門をくぐり、敷地内へと入っていった。
「会長。仙道京司朗、只今帰って参りました」
京司朗は会長の部屋の前で正座し、声をかけた。
障子戸の向こうから「入れ」と、声がして、京司朗は障子戸を横にすべらせて開いた。
惣領貴之が腕組みをして立っている。
視線の先には、振袖『まほろば藤』があった。
「『まほろば藤』ですか。いつ見ても見事な振袖ですね」
「ああ」
「一枚目より、こちらのほうが振袖としては洗練されているように思います」
「・・お前、一枚目の『まほろば藤』を見たのか?」
惣領貴之は意外そうな顔をして、姿勢を正して座っている京司朗に視線を移した。
「写真ですが、以前、藤原を訪ねた時に見せてもらったことがありました。確か一枚目は藤の向こうに白い馬が一頭描かれていて・・。できれば写真ではなく本物を見てみたかったですね。ただ、一枚目は『まほろば藤』の銘はなかったように思います」
「・・一枚目は『藤幻郷に寄せて』だそうだ。藤の幻の郷と書いて藤幻郷だ」
「なるほど・・雅やかですね。では藤幻郷からまほろば藤が生まれたわけですか」
「そうなるな。午後にこれのことで藤原の次男坊から話を聞くことになってる。京司朗、帰国早々悪いがお前も立ち会えや」
「それはかまいませんが、『まほろば藤』が何か問題に?」
「藤原が『まほろば藤』を嬢ちゃんに譲りてえと言ってきた」
「まさか・・」
「昨日藤原の当主から経緯は聞いたが、次男坊本人から詳しい事情を話してほしくてな」
惣領貴之は立ったまま、『まほろば藤』から目をそらさなかった。
「惣領会長、京司朗さん、お久しぶりです」
藤原匠真は、胡座をかいている惣領貴之と、座している仙道京司朗に向かって、深々と頭を下げた。
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呉服屋の次男だけあって、和装で姿を整えているが、短く刈り込んだ頭だけ見るなら、まるで寺の坊主のようでもある。
「忙しいところわざわざ来てもらって悪いな」
「いえ、先にお話ししておくべきだったのかもしれません」
頭を上げた藤原匠真は、そのまま姿勢を正して話し始めた。
「『藤幻郷』は私を救ってくれた作品です。私はまだ13歳だった少女に救われたんです。そして、お母様である青木礼夏さんに」
匠真は画家として筆を折ろうとしていた頃に、みふゆの描いた『藤幻郷』に出会った。
みふゆの父親が夢に見た幻想世界『藤幻郷』
父親の指導があったとは言え、描ききったみふゆの感性と才能に匠真は驚嘆した。
「・・絵を返してほしい。大賞を辞退したいと連絡をもらった時、私が説得にあたりました。あの絵は絶対に世に出すべきだと思ったからです。ですが、お父様の事情を聞いて・・我々は返さざるを得なかったんです」
「そして、・・父親とともに荼毘に付されたわけか」
「はい。ですが、我々はそこまでの予想をしていませんでした。しかし、お父様が死出の旅に持って行きたいと言ったと・・。私は彼女の潔さと純粋さに驚かされ、彼女の才能を伸ばしたいと思うようになりました。自分はもう描けないだろうと諦めていましたから。せめて、自分の得た学びや技術を誰かに引き継いでほしくて。私は・・青木礼夏さんに連絡を取り、ご自宅を伺うことになりました。まだ小さいお子様がいるということで自宅に来てほしいと言われたのです」
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