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48. 過去との対峙 (6) 霊能者・水無瀬礼夏
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「一瞬、何を言ってるのかと思いました。後ろに着物が見えると言われても、すぐに信じることはできませんでした」
藤原匠真は、青木礼夏がかつて水無瀬という一族の、最も強い霊能力を持った当主であった事実を知らなかった。
だが、匠真はそういった類いの人間に対して元々、無理解ではなかった。
心霊や神秘的なものに傾倒している芸術家は珍しくない。
匠真が留学したイギリスでは、心霊の研究が組織的に行われていたし、組織のメンバーには世界的に有名な作家も名を連ねていた。
芸術家にとって、霊能力と同類とも言えるインスピレーションは重要不可欠だ。
「そういう人なのかなと思いました。それに・・、青木さんの目を見ていると・・なんていうか不思議な感覚にとらわれて・・・くらくらするというか・・。何でも信じたくなってしまうというか。とにかく何もかも全て見抜かれてしまっているようでした。だからか、私が戸惑っているのをみて『私の目は見ないでください』と青木さんは言いました」
「・・・・」
惣領貴之は腕を組んだまま、うーん、と、藤原匠真の話を疑心暗鬼で聞いている風にも見えた。しかし、疑心暗鬼ではなく、貴之には心当たりがあったのだ。
"水無瀬の当主は邪眼を持っている"
水無瀬の当主となった礼夏には、相手を思うままに操る能力を持っていると噂があり、恐れられてもいたからだ。
それゆえ"水無瀬の邪眼"と影で呼ばれていた。
礼夏にお伺いをたてに行った政治家などは、常に顔に薄いベールをかけ、直接目を合わせないようにしていた礼夏に、よけいに神秘性を感じて心酔していったという。
最もおかげで礼夏の顔はあまり知られることなくすんで、水無瀬一族が崩壊したあとも、礼夏は一般社会にすんなりと戻ることができたのだ。
直接は誰も口にしないが、水無瀬一族の崩壊は、礼夏が邪眼を利用したのではないかと囁かれ続けた。
藤原匠真の話は続く。
「青木さんは私の実家が呉服屋であることにも触れました」
『あなたはご実家が呉服屋さんでしょう?嫌いならともかく、好きなのに何故わざと着物に関わろうとしないんですか?』
「高校ぐらいから、私は実家が呉服屋の藤原であることは誰にも言いませんでしたし、画家として活動してからも公表はしていません。青木さんが知っているわけがない。着物は好きでしたが、私が画家として人生を歩もうと決めた時に、私と父との間に確執が生まれました。父は私を跡継ぎにと考えていましたから。兄はすでに官僚として仕事をしてたので・・」
『苦しい時くらい親を頼ってみてはどうですか?あなたのお父様はあなたとのことを確執だとは思っていませんし、心配されていますよ。その上でもう一度ご自分の心と向き合ってお父様を頼ってみてはいかがですか?』
「私は・・父に会いに行きました。今さらと思いました。藤原とはもう関わらないとまで言っておきながら・・。ですが父は私を快く受け入れてくれ、改めて着物に携わることになりました。まだ絵を描くことは出来なかった為、最初は店頭の販売から始め、図案だけでなく、着物そのものを作ることに興味を持ち、工程を学んでいきました。そして、友禅や西陣、古来から伝わる伝統の技法を学びました。どのように女性を美しく引き立てるか、着物という伝統美を表現できるか・・、そんなことを考えるうちに、白生地に絵が浮かんで見えるようになってきたんです。私は・・再び絵が描けるようになっていました」
藤原匠真は、振袖『まほろば藤』を振り返った。『藤幻郷』から生まれた『まほろば藤』だ。
「あの時、『藤幻郷』に出会い、青木礼夏さんに出会ったことで、私は人生をもう一度始めることができたんです」
貴之はじっと話を聞いている。
「帰り際、最後に青木さんは私にこう言ってくれました」
『みふゆがこれからも絵を描いてゆくかはあの子が決めるでしょう。あなたのお気持ちは嬉しく思いました。ありがとうございます。それと、もしあなたがみふゆの描いた藤幻郷を描きたいと思ったなら、それは自由に描いてくれてかまいません。あの絵はみふゆにも私にも、主人が亡くなった時にもう終わったものですから』
「そう言って、私に藤幻郷を描くチャンスをくれたんです」
「それで一枚目の着物が出来たと言うわけか」
「そうです。一枚目の『藤幻郷に寄せて』が出来上がったとき、私は青木さんを訪ねようと思いました。私を生き返らせてくれた二人に、あの着物を受け取って欲しかったんです。しかし叶いませんでした」
「まさかあんな大規模な水害が起こるなんて誰も思わなかったからな・・」
「それもありますが、着物が出来てすぐ、展示会にご招待したくて青木さんに連絡をしたんです。でも電話は解約されていて通じませんでした。心配になって友人に様子を見に自宅に行ってもらったら、引っ越したあとで行方はわからなくなっていました」
「一瞬、何を言ってるのかと思いました。後ろに着物が見えると言われても、すぐに信じることはできませんでした」
藤原匠真は、青木礼夏がかつて水無瀬という一族の、最も強い霊能力を持った当主であった事実を知らなかった。
だが、匠真はそういった類いの人間に対して元々、無理解ではなかった。
心霊や神秘的なものに傾倒している芸術家は珍しくない。
匠真が留学したイギリスでは、心霊の研究が組織的に行われていたし、組織のメンバーには世界的に有名な作家も名を連ねていた。
芸術家にとって、霊能力と同類とも言えるインスピレーションは重要不可欠だ。
「そういう人なのかなと思いました。それに・・、青木さんの目を見ていると・・なんていうか不思議な感覚にとらわれて・・・くらくらするというか・・。何でも信じたくなってしまうというか。とにかく何もかも全て見抜かれてしまっているようでした。だからか、私が戸惑っているのをみて『私の目は見ないでください』と青木さんは言いました」
「・・・・」
惣領貴之は腕を組んだまま、うーん、と、藤原匠真の話を疑心暗鬼で聞いている風にも見えた。しかし、疑心暗鬼ではなく、貴之には心当たりがあったのだ。
"水無瀬の当主は邪眼を持っている"
水無瀬の当主となった礼夏には、相手を思うままに操る能力を持っていると噂があり、恐れられてもいたからだ。
それゆえ"水無瀬の邪眼"と影で呼ばれていた。
礼夏にお伺いをたてに行った政治家などは、常に顔に薄いベールをかけ、直接目を合わせないようにしていた礼夏に、よけいに神秘性を感じて心酔していったという。
最もおかげで礼夏の顔はあまり知られることなくすんで、水無瀬一族が崩壊したあとも、礼夏は一般社会にすんなりと戻ることができたのだ。
直接は誰も口にしないが、水無瀬一族の崩壊は、礼夏が邪眼を利用したのではないかと囁かれ続けた。
藤原匠真の話は続く。
「青木さんは私の実家が呉服屋であることにも触れました」
『あなたはご実家が呉服屋さんでしょう?嫌いならともかく、好きなのに何故わざと着物に関わろうとしないんですか?』
「高校ぐらいから、私は実家が呉服屋の藤原であることは誰にも言いませんでしたし、画家として活動してからも公表はしていません。青木さんが知っているわけがない。着物は好きでしたが、私が画家として人生を歩もうと決めた時に、私と父との間に確執が生まれました。父は私を跡継ぎにと考えていましたから。兄はすでに官僚として仕事をしてたので・・」
『苦しい時くらい親を頼ってみてはどうですか?あなたのお父様はあなたとのことを確執だとは思っていませんし、心配されていますよ。その上でもう一度ご自分の心と向き合ってお父様を頼ってみてはいかがですか?』
「私は・・父に会いに行きました。今さらと思いました。藤原とはもう関わらないとまで言っておきながら・・。ですが父は私を快く受け入れてくれ、改めて着物に携わることになりました。まだ絵を描くことは出来なかった為、最初は店頭の販売から始め、図案だけでなく、着物そのものを作ることに興味を持ち、工程を学んでいきました。そして、友禅や西陣、古来から伝わる伝統の技法を学びました。どのように女性を美しく引き立てるか、着物という伝統美を表現できるか・・、そんなことを考えるうちに、白生地に絵が浮かんで見えるようになってきたんです。私は・・再び絵が描けるようになっていました」
藤原匠真は、振袖『まほろば藤』を振り返った。『藤幻郷』から生まれた『まほろば藤』だ。
「あの時、『藤幻郷』に出会い、青木礼夏さんに出会ったことで、私は人生をもう一度始めることができたんです」
貴之はじっと話を聞いている。
「帰り際、最後に青木さんは私にこう言ってくれました」
『みふゆがこれからも絵を描いてゆくかはあの子が決めるでしょう。あなたのお気持ちは嬉しく思いました。ありがとうございます。それと、もしあなたがみふゆの描いた藤幻郷を描きたいと思ったなら、それは自由に描いてくれてかまいません。あの絵はみふゆにも私にも、主人が亡くなった時にもう終わったものですから』
「そう言って、私に藤幻郷を描くチャンスをくれたんです」
「それで一枚目の着物が出来たと言うわけか」
「そうです。一枚目の『藤幻郷に寄せて』が出来上がったとき、私は青木さんを訪ねようと思いました。私を生き返らせてくれた二人に、あの着物を受け取って欲しかったんです。しかし叶いませんでした」
「まさかあんな大規模な水害が起こるなんて誰も思わなかったからな・・」
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