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104. 兄?妹? (2)
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戸惑いで、頭の中のわたしが右往左往している。そんな状態である。
若頭がお兄さんになる?
血の繋がりはないから義理のお兄さん?
待って待って待って待って待ってーー!
状況に追いつけない!
そうだ、深呼吸をしよう。深呼吸を。
吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。
これはつまり、あのー、そのー、
・・決して若頭がおにいさんになるのが嫌だというわけではなく、なんというか心の準備みたいなものが準備不足でコンフュージョンしてるというかなんというか。
組長先生と若頭の間で何か会話があったが、何を話していたのか耳に全然聞こえてこなかった。
人生は道に例えられるが、わたしの歩いている道はいったいどこへ繋がっているのだろう。
自分で選んだ道とはいえ、なんだかもうわけがわからない。
気がついたら車はわたしの家の前に駐まっていた。
お屋敷に戻る前に、組長先生がわたしの家に寄ってくれたのだ。
組長先生が仏前に挨拶をしたいと言ったのであがってもらった。若頭は電話が入り車に残り応対している。
うちは玄関が広めなおかげで自転車が三台くらいなら(無理やり)置ける。そして玄関ホールを中心に、左手にはトイレやお風呂の水回りと二階に昇る階段、右手に八畳のダイニングキッチン、奥に六畳洋室、その隣に六畳の和室がある。
お仏壇は六畳和室の低めの棚の上にある。
小さなお仏壇に御本尊様と、父と母の位牌。
組長先生がお仏壇をじっとみていた。
小さいのが珍しいのかもしれない。
「最初も小さいお仏壇でした。海外に渡るために処分したので、この家を買ったときに母がまた新しいのを買ったんです」
「そうか・・。写真がないな」
「はい。母が、写真は置いてはいけないと言ってたのでその通りにしています」
組長先生はお仏壇から少し離れた場所に正座をし、手をついて頭を下げた。頭を上げて位牌を見つめたあと、座ったまま前に進んだ。蝋燭を灯し、お線香を立て、おりんを鳴らし手を合わせる組長先生。
不思議な光景だ。
わたしは組長先生の後ろに座って見ていた。
自分以外の誰かが父と母にお線香をあげているなんて。
父と母の仏前に手を合わせてくれる人なんていないだろうと思っていた。
弔うのは生涯自分一人だけ。弔いながら自分の人生も終わるだろうと思っていた。
それでいいと思っていた。
組長先生は、
「こんなついでみたいな挨拶になってしまい申し訳ない。お嬢さんはお二人の娘として、俺の娘として・・必ず幸せにする。━━━後ほど改めてご挨拶に伺います」
と言った。
組長先生はわたしの両親の位牌を再びじっと見つめ、座ったまま後ろに下がり、両手を畳について頭を低く低く下げていた。
挨拶というより謝っているように見えた。
わたしに謝った時の若頭を思い出して、奇妙な気分になった。
「仏間も準備しないとな」
組長先生が頭を上げ正座したままわたしの方に向き直った。
「小さいですし、部屋のどこかにじゅうぶん置けるサイズですから大丈夫です。わたし荷物詰めてきます。すぐ戻ります」
わたしは二階の自分の部屋で持っていけるものをバッグにつめこんだ。
貴重品、衣類やお花の図鑑。パソコン、CDプレイヤー、DVD、アルバム。
DVDとアルバムには、紗重ちゃんの笑顔と泣き顔と声が在る。わたしの宝物。
アルバムは全部は無理だから二冊くらいなら持っていけるかな。
紗重ちゃんに見せなくてもいいから、せめて持っていてほしいと思って、生まれたときの写真やお父さんお母さんの写真を集めて作ったアルバムがある。
わたしと紗重ちゃんが二人で過ごした最後の夜に作ったアルバム。
『紗重はうちの子になるのだからそんなものは要らない』と言われてしまったアルバムだ。
わたしは十五歳だった。
悲しくて辛くて泣き続けた。
どんなに泣いてもお母さんはベッドで目覚めることはなく、側には他に誰もいなかった。人工呼吸器の音だけが響いていた。
悲しい記憶のアルバムだけど、わたしと紗重ちゃんが時間を共有した証のアルバムでもある。
それからわたしが生まれた時のアルバムと・・。
お母さんが失くしたと言っていたデジタルデータも引っ越す前にもう一度探してみようかな。お母さんがどこかにひょいと入れたのかもしれない。かなりテキトーくさいところがあったから。
失くしてないのに『あー、無い無い無い。失くしたから無い』とか言ってあとから見つかったりしてた。
わたしは詰め終わったバッグを持ち上げようとした。あんまりゆっくりもしてられない。
うっ・・。しまった。重い。
本やお花図鑑は置いていくか。
そういえば軽いものを下に入れて重いものは上に乗せるといいと聞いたな。
詰め直そう。
一階から「みふゆー、大丈夫かー?」と、組長先生の声がした。
「すみません、荷物が重くなってしまって、いまバッグから出してすぐ降ります!」
やはり本類は置いていこう。急げ急げ。
バッグを開けると後ろでコンコンと音がした。
「荷物は俺が持っていくから」
若頭が戸口に立っていた。
「あ!頭・・」頭がぶつかりそう。
若頭は戸口の上を手で触り、「ああ、ギリギリだな」と言った。
「何センチあるんですか?」
前から聞きたかったんだ。チャンス!
「190ちょっとくらいだ」
「190・・」やっぱり・・。
「日本人には見えないだろう?」
「え?・・いえ、まあ、・・・」
むにゃむにゃうにゃむにゃと有耶無耶に答えるわたし。
「俺は曾祖母がイタリア人だ」
「・・・・」
イタリア?!
戸惑いで、頭の中のわたしが右往左往している。そんな状態である。
若頭がお兄さんになる?
血の繋がりはないから義理のお兄さん?
待って待って待って待って待ってーー!
状況に追いつけない!
そうだ、深呼吸をしよう。深呼吸を。
吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。
これはつまり、あのー、そのー、
・・決して若頭がおにいさんになるのが嫌だというわけではなく、なんというか心の準備みたいなものが準備不足でコンフュージョンしてるというかなんというか。
組長先生と若頭の間で何か会話があったが、何を話していたのか耳に全然聞こえてこなかった。
人生は道に例えられるが、わたしの歩いている道はいったいどこへ繋がっているのだろう。
自分で選んだ道とはいえ、なんだかもうわけがわからない。
気がついたら車はわたしの家の前に駐まっていた。
お屋敷に戻る前に、組長先生がわたしの家に寄ってくれたのだ。
組長先生が仏前に挨拶をしたいと言ったのであがってもらった。若頭は電話が入り車に残り応対している。
うちは玄関が広めなおかげで自転車が三台くらいなら(無理やり)置ける。そして玄関ホールを中心に、左手にはトイレやお風呂の水回りと二階に昇る階段、右手に八畳のダイニングキッチン、奥に六畳洋室、その隣に六畳の和室がある。
お仏壇は六畳和室の低めの棚の上にある。
小さなお仏壇に御本尊様と、父と母の位牌。
組長先生がお仏壇をじっとみていた。
小さいのが珍しいのかもしれない。
「最初も小さいお仏壇でした。海外に渡るために処分したので、この家を買ったときに母がまた新しいのを買ったんです」
「そうか・・。写真がないな」
「はい。母が、写真は置いてはいけないと言ってたのでその通りにしています」
組長先生はお仏壇から少し離れた場所に正座をし、手をついて頭を下げた。頭を上げて位牌を見つめたあと、座ったまま前に進んだ。蝋燭を灯し、お線香を立て、おりんを鳴らし手を合わせる組長先生。
不思議な光景だ。
わたしは組長先生の後ろに座って見ていた。
自分以外の誰かが父と母にお線香をあげているなんて。
父と母の仏前に手を合わせてくれる人なんていないだろうと思っていた。
弔うのは生涯自分一人だけ。弔いながら自分の人生も終わるだろうと思っていた。
それでいいと思っていた。
組長先生は、
「こんなついでみたいな挨拶になってしまい申し訳ない。お嬢さんはお二人の娘として、俺の娘として・・必ず幸せにする。━━━後ほど改めてご挨拶に伺います」
と言った。
組長先生はわたしの両親の位牌を再びじっと見つめ、座ったまま後ろに下がり、両手を畳について頭を低く低く下げていた。
挨拶というより謝っているように見えた。
わたしに謝った時の若頭を思い出して、奇妙な気分になった。
「仏間も準備しないとな」
組長先生が頭を上げ正座したままわたしの方に向き直った。
「小さいですし、部屋のどこかにじゅうぶん置けるサイズですから大丈夫です。わたし荷物詰めてきます。すぐ戻ります」
わたしは二階の自分の部屋で持っていけるものをバッグにつめこんだ。
貴重品、衣類やお花の図鑑。パソコン、CDプレイヤー、DVD、アルバム。
DVDとアルバムには、紗重ちゃんの笑顔と泣き顔と声が在る。わたしの宝物。
アルバムは全部は無理だから二冊くらいなら持っていけるかな。
紗重ちゃんに見せなくてもいいから、せめて持っていてほしいと思って、生まれたときの写真やお父さんお母さんの写真を集めて作ったアルバムがある。
わたしと紗重ちゃんが二人で過ごした最後の夜に作ったアルバム。
『紗重はうちの子になるのだからそんなものは要らない』と言われてしまったアルバムだ。
わたしは十五歳だった。
悲しくて辛くて泣き続けた。
どんなに泣いてもお母さんはベッドで目覚めることはなく、側には他に誰もいなかった。人工呼吸器の音だけが響いていた。
悲しい記憶のアルバムだけど、わたしと紗重ちゃんが時間を共有した証のアルバムでもある。
それからわたしが生まれた時のアルバムと・・。
お母さんが失くしたと言っていたデジタルデータも引っ越す前にもう一度探してみようかな。お母さんがどこかにひょいと入れたのかもしれない。かなりテキトーくさいところがあったから。
失くしてないのに『あー、無い無い無い。失くしたから無い』とか言ってあとから見つかったりしてた。
わたしは詰め終わったバッグを持ち上げようとした。あんまりゆっくりもしてられない。
うっ・・。しまった。重い。
本やお花図鑑は置いていくか。
そういえば軽いものを下に入れて重いものは上に乗せるといいと聞いたな。
詰め直そう。
一階から「みふゆー、大丈夫かー?」と、組長先生の声がした。
「すみません、荷物が重くなってしまって、いまバッグから出してすぐ降ります!」
やはり本類は置いていこう。急げ急げ。
バッグを開けると後ろでコンコンと音がした。
「荷物は俺が持っていくから」
若頭が戸口に立っていた。
「あ!頭・・」頭がぶつかりそう。
若頭は戸口の上を手で触り、「ああ、ギリギリだな」と言った。
「何センチあるんですか?」
前から聞きたかったんだ。チャンス!
「190ちょっとくらいだ」
「190・・」やっぱり・・。
「日本人には見えないだろう?」
「え?・・いえ、まあ、・・・」
むにゃむにゃうにゃむにゃと有耶無耶に答えるわたし。
「俺は曾祖母がイタリア人だ」
「・・・・」
イタリア?!
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