【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

文字の大きさ
103 / 278

103. 兄?妹? (1)

しおりを挟む
.



人にはいろんな事情がある。
社長も例外ではなかった。
しかし、スケベな女好きエロ社長という事実は決して変わらない。

「車から降りてこっちに向かってくる奴がいる」
若頭が窓の外を見て言った。
タオルでふいた黒い髪はセットが崩れて、前髪がパラパラと眼を隠すように下がっている。邪魔くさそうに髪をかきあげるしぐさは、外国のモデルか俳優みたい。

「失礼します!!」
入ってきたのは雨ガッパを着た男性だった。
男性は入ってくるなり店内をキョロキョロと見回し、
「あの!こちらに糸川梨理佳が勤めてませんでしょうか?!」
男性は雨ガッパを入り口で脱ぎ、丁寧な口調でりんちゃんの所在を確認した。

誰?りんちゃんの知り合い?

「・・すみませんがどちら様でしょうか?」

いくら丁寧でも誰だか知らない人間にスタッフの情報を与えるわけにはいかない。

「あ、僕は」

と言いかけたところで雷が鳴った。

三階から、
━━━ぃぎゃああああああぁぁぁぁっっ!!
とりんちゃんの雄叫びが聞こえた。
なんとりんちゃんは、『いやあああぁぁぁ』と『ぎゃああああああ』を同時に叫ぶという新たな叫び方を体得していた。

男性が「梨理佳!?」と叫んでカウンター内に入ろうとした。
わたしはビクリとした。
「待て」と男性の前に立ちはだかり止めたのは若頭だった。
190越えてそうな身長と、スーツを着ててもわかる厚い胸板、鍛えぬいた体躯からだ。日本人らしからぬ、鼻筋の通った彫りの深い顔つき。何よりも鋭い眼光。
たいていは臆すると思う。この若頭を前にしたら。
しかし男性は平然と、
「どいてください!妹が怖がってるんだ!!」
と、若頭にくってかかった。
組長先生がちょっと驚いた顔をしている。

・・いま、妹って言った?

バタバタと足音がする。

「うわぁーーん!みーちゃん先輩ーー!!」

りんちゃんが駆け降りきた。

「梨理佳!!」



「お兄ちゃん!?」

本物?りんちゃんのお兄さん?

「梨理佳!大丈夫か!?」
男性は若頭を避け、カウンターの別位置から身を乗り出しいまにも飛び越えそうな姿勢だ。

若頭はりんちゃんの『お兄ちゃん』という声に、男性に手を出すのを止めた。

「お兄ちゃん!」

お兄ちゃんに駆け寄るりんちゃん。
感動の再会か。


「どうして来たの!?危ないでしょ!!」


違った。

感動の再会を果たすのかと思ったら、りんちゃんから出たのはお兄ちゃんを窘める言葉だった。

「え?あ、・・うん、ごめん・・。でももう車で家を出たあとだったし・・・」

りんちゃん、お兄ちゃんの思いがけない登場に雷の恐怖が吹っ飛んだか。
イケイケどんどんと、圧をかけるりんちゃんにお兄ちゃんは後ずさった。

「お兄ちゃんはもっと状況と自分の運転技術を考えないとだめだっていつも言ってるじゃない!」

今度はお兄ちゃんに説教を始めた。

事の成り行きを黙って見守るわたしと組長先生と若頭。

「・・う、うん、ごめん・・・でも運転技術は前より上がってるし・・・・」
最後のほうの発言がぽそぽそと頼りない。
頑張れお兄ちゃん。

「それが甘いんだってば!」
「そ、そうかな・・・・」

お兄ちゃんは首をかしげてしょんぼり項垂れた。
妹を心配してはるばる来たのにお兄ちゃんは立場がない。
りんちゃんは怒りながらお兄ちゃんに詰め寄った。
「ほんとにもう!自分のことをきちんと考えないとダメでしょ!・・」
「・・・うん、ごめん・・」
そう言った次の瞬間、
「・・・ホントに!ホントに・・おにいちゃああぁーん!怖かったよぉぉぉ」
りんちゃんはお兄ちゃんに抱きついた。お兄ちゃんはよしよしと頭を撫でる。
「おまえは雷大嫌いだからなぁ」

そうか、りんちゃんはツンデレお兄ちゃんっ子、という新しい発見をしたわたしは、やさしいお兄ちゃん、少しだけいいなって思った。微笑ましい。

きっとわたしは羨ましそうな顔をしてりんちゃん達を見ていたにちがいない。
だから組長先生は━━━━━

「りんちゃん、お兄ちゃん来てくれたし、車で帰れるなら帰っても大丈夫だよ。社長にはわたしから話しておくから」
こんな日は家族と一緒の方がいい。
「うちはどこなんだ?運転に自信がないら送って行くぞ」と組長先生が言うと、「運転はあたしがします!自信ならあります!」と涙声でりんちゃんが答えた。
そう、りんちゃんはこう見えて車の運転がとてもうまい。才能があると思う。
お兄ちゃんは「うちは南高山のレナードというマンションなんです」と教えてくれた。
「高台にあるマンションか。あの辺は地盤も硬いしいい土地だ。ここにいるより安全だ」

「でも・・」と、お兄ちゃんにしがみつきながらりんちゃんが躊躇した。

「雨が少し弱まっています。帰るなら今のうちでしょう」
若頭が後押しをした。

りんちゃんのおうちはマンションの確か八階だから、組長先生の言う通りここにいるより安全なはずだ。
不安に怯えながら時間を過ごすよりずっといい。家族といた方が心強い。

りんちゃんとお兄ちゃんは何度も頭を下げながら帰っていった。

わたしはりんちゃんを帰宅させたことを報告するため社長に再度電話をした。
社長は『組長が来てるなら一緒にお前も帰れ』と言ってくれた。


わたし達は組長先生が運転してきた青い車に乗り込んだ。きれいな青い色。左ハンドルだから外車なんだろうけど、外観も優美で素敵な青。
運転は若頭。わたしと組長先生は後部席に乗った。
いつも黒い車なので青いのは新鮮。

「きれいな青色ですね。この車」
わたしは組長先生に話しかけた。
「気に入ったか?」
と聞かれたので、わたしは「はい。それにドッシリしてる感じがあるのにすごく優美です」と答えた。

「ありがとう」

なぜか運転席の若頭からお礼を言われた。

「京司朗の愛車だ。イタリアのマセラティ レヴァンテ トロフェオという車だ」

う、若頭だったのか。
てっきり組長先生の車かと・・。
愛車というからには大事な車では?
勝手に乗られてしまって若頭は嫌じゃないのかな。嫌だと思っても組長先生には逆らえないという感じ?

あ、靴、泥なんかついてないだろうな。
車好きの人には神経質な人がいると聞く。わたしは靴の裏を見た。
車乗る時は靴を履き替えるとか。汚されるの嫌だとか。

「どうした?靴の裏なんか見て」
「あ、いえ、」

「俺は神経質じゃないから気にしなくていい」
間髪いれずに若頭が言った。モロバレであった。
「みふゆ」
「はい」
「お兄ちゃん欲しいか?」
急に聞かれてわたしは戸惑ったが、
「・・いたらどんな感じだろうって思うことはあります」と答えた。
「そうか。いたらうまくやっていけそうか?」
この流れって・・・もしかして組長先生、ほんとは息子さんがいるとか?
「・・・やっていきたいと思います。家族がたくさんいるの、憧れだったし・・」
「・・そうか、」
組長先生はわたしの隣で少しの間考えこんでいた。
やっぱり息子さんがいるのかもしれない。
わたしが養子縁組の申し入れを受けたときに『これで自分にも娘ができる』と言って喜んでくれたのを聞いて、ちょっと引っ掛かったことがあった。

でも組長先生の息子さんならきっとやっていける。
いい兄妹関係を築きあげてみせる。組長先生が喜んでくれるような。

組長先生はわたしの隣で、「よし、わかった」と言った。

「京司朗、お前との養子縁組、早めるぞ」


・・・、


え?・・

え?え?・・・

京司朗って・・・、

え?

若頭・・??

「く、組長先生・・、あの・・・」
「京司朗は9歳で両親が死んだ時、俺の息子になるはずだった。事情があって仙道家の養子になったが、実質俺の後継ぎとして育ててきた。だから成人したら改めて養子縁組をすることになっていたのさ」

「━━━━━━━」

ちょ・・、

ちょっと待って。

・・待って。

待ってください。



兄妹になる?



わたしと若頭が━━━━━?






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...