【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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113. (114.5) ***ドライブ

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助手席で彼女が眠っている。
とうとう睡魔に勝てなかったか。

何度もうとうとしながら、眠りそうになる度に眠気を振り払っていた。


眠っていいと言ったのに、『大丈夫です』と言い張って、決して眠ろうとしなかった。
意外と素直じゃない。


真っ直ぐ帰るつもりだったがもう少しだけ走らせていたい。

彼女が見たいと言っていた『夕日の丘』に車を停め、寝顔をみつめていた。


" 彼女が大人しく俺の横に乗るなんて "


笑いが込み上げる。


『じゃあ、重いアイスを花屋までお願いします。わたし自転車なので自転車で帰ります』


そう言って、彼女は俺とアイスクリームを残してさっさと自転車で去ってしまった。

まさかアイスクリームだけを車に乗せて走らされるとは思いもしなかった。

ただの配達員になってしまった。

出会ったばかりの頃だった。



俺は彼女の『女の顔』を暴くつもりだった。

惣領貴之に取り入ろうとしている『女』として、
悪質ならば手にかけるのもいとわないと。

そんな下心などはなから見破られていたと俺は気づかずに。



俺の全ては惣領家を守るためにある。

惣領貴之を守るためにある。

その為に俺は生きてきたのだから。


自信があった。


俺を芍薬の花に例えたと聞いて、
少なくとも好意は抱いてくれていると思った。


女は皆同じだ。


俺は『自分』の使い方を知っている。

顔も、言葉も、肉体からださえも。

大抵の女は『車で送る』と言われれば、何らかの期待をその顔に滲ませた。

そうしてやがて本性を現す。



しかし彼女は引っかからなかった。

ほんのわずかも引っかかることはなかった。

引っかかるどころか彼女は俺を徹底的に避けようとしていた。

同じ車に乗ることさえも嫌がった。

そこまで避けられるとは考えもしなかった。



『お母さんが知らない人の車に乗ってはいけないと』



演技なのか本気なのか、
彼女の真意が図りきれなかった。


ある日、彼女の不思議な力を知った。

過去を知ることになった。

傷を知り、誰とも関わらないで生きようとする理由にふれた時・・


引っかけるどころか自分が引っかかってしまった。


俺のくだらない自惚れを蹴飛ばした彼女に・・・


疑いのをほどくと彼女の表情がよく視えるようになった。

彼女に気に入られようとしているのか、気を惹こうとしているのか、

どこか必死になっている自分が笑える。



愛車の助手席に女を座らせたことなどなかった。



眠っている彼女の頬にふれる。

柔らかな女の肌だ。

ふれている手の指先をくちびるに這わせて・・




男の情欲を駆り立てる、無防備さは罪だ

だが、

無防備さにつけこむほど落ちぶれてもいない





凪いだ海が夕日に彩られている。

街を壊した雨は止み、

空は嘘のように美しくオレンジに染まる。


火をつけた煙草の先が、赤く燃え落ちる太陽と重なる。


・・・しばらく時間ときを過ごそう。

愛車に寄りかかり支えにして。




女の気を惹きたくて心が振り回される、

こんな日が来るなんて━━━━




「あの・・・、」


ドアを開ける音と、彼女の声。


「ああ、すまない。煙草が吸いたくて」


彼女が眩しそうに眼を細めている。


━━━━きれい


声が聞こえた気がした。




「・・連れてきてくれたんですか」

「ああ、眠ってたから声はかけなかったが」

「・・・ありがとうございます・・」

彼女が恥ずかしげに嬉しそうに笑った。

「ここからは歩きだが行ってみるか?」
「え、いいんですか?」

差しのべる手を取ってくれる。

喜ぶ彼女の笑顔に俺の心は満たされる。



君は疑いもしない。
俺が何を考えていたかなんて知らずに。
 

「わあ、すごい・・!」

美しい夕日に染まる空と海を目の前に、
感動した君は繋いだ手を解いて駆けだそうとする。


俺は離さない━━━━


君は戸惑って振り向いた。


「大雨のあとだ。気をつけて」


俺は尤もらしい誤魔化しの台詞を口にする。


君は明るい笑顔で、素直に「はい」と答えた。



離さない━━━この手は




俺は君の人生のどこまでを手にしたいのか 、    




答えはいずれ出るだろう。















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