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114. 咲きかける愛
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「仙道さん」
桐島が京司朗のマセラティに乗って現れた。
「調整しときました。っていっても特になんもなかったですけど」
車から降りた桐島がみふゆに会釈しながら言った。
みふゆも桐島に会釈を返すが、頭だけをペコリと下げた。体が動かしづらかった。京司朗がみふゆの肩を抱いたままだからだ。
━━━肩が、肩が気になる・・!若頭!若頭ってば!手!手!!手!!!
離してはくれそうにない京司朗の大きな手によびかける。
みふゆの心の声は京司朗には届かず、京司朗は桐島と話を続けていた。
「矢口はどうしてる?」
「ハハ。どっぷり落ち込んでましたよ。まあ、昼メシ食って元通りになったんですけどね」
桐島の笑いに、矢口と聞いてみふゆの耳がピクンと反応した。
━━━矢口さん・・、わたしをナンパして若頭に睨まれた人だな。それにしても・・・
『それにしても』━━━目立つ。目立ちすぎている。
道行く人がチラチラとみふゆ達三人と一台を見ている。
振り返って見る人もいる。ひそひそと話している。特に女性陣。
女性陣の注目はもちろん京司朗だ。
桐島も服装は白いワイシャツに紺色のスラックスといたって普通だが、目元が涼しげで、京司朗ほどではないにしても背が高い。二人とも目立つ存在だ。
男性陣のひそひその的は車だ。車に詳しいなら真横にある京司朗の愛車が、マセラティという高級外車であることは明白だ。
目立つ二人と一台のなかで、みふゆ一人だけが浮いてる気がしていたたまれなかった。
京司朗は桐島からタクシー会社の業務状況の報告を受け、社員の身内・親族が被災し、手伝いに行く場合は通常の有給休暇ではなく、特別有給で認めるように指示した。最大で三ヶ月間は給与の全額が保証される。桐島は「わかりました」と言い、タクシー会社に戻っていった。
みふゆは京司朗に助手席のドアを開けてもらいシートに座った。ホッとした。道行く人々の視線から逃れられた。
座り心地のいいシートは、ベッドに横になるのと同じくらいくつろげる。
━━━よかった。着替えを持ってきて。
こんなに座り心地のいいシートを汗で汚したら申し訳ない。
プラザの手伝いが終わってから、淡いグリーンのTシャツとジーパンに着替えた。着替えはプラザのコインロッカーに入れていた。
淡いグリーンは母親の礼夏が好きだった色だ。母親が亡くなってから、みふゆは特にグリーン系の色を好んでいる。母親の好きだった色というだけで、身につけてると母親が一緒にいてくれる気がした。
京司朗が車を走らせる。
駅前市民プラザが徐々に遠のいていく。
明日の天気予報も晴れだ。あらゆる復旧作業が今日よりも進むだろう。
みふゆはシートに体を完全に預けた。人の目もなくなり、やっと安心してくつろげる気がして眠くなった。
「冠水が解消された道路も出てきた。少し・・」
言いかけて運転席の京司朗が口をつぐんだ。
みふゆがうとうとしている。
京司朗は喋るのをやめた。
みふゆがふっと目を覚まし目をこすった。
「眠っていいぞ」
と言った京司朗に対し、みふゆは
「・・・大丈夫です!」
とキリッと言った。
何年か前、みふゆはネットの一つの記事が目についた。
『運転する人間が一番嫌なのは隣で寝られることだ』
なるほど、とみふゆは記事を読んで思った。
みふゆは眠気防止に外の風景に目を止めるようにしたが、すぐにまたうとうととし、まぶたが自然に閉じた。そしてハッと目覚める。
京司朗は「眠ってもいいぞ」と言うが、みふゆは『大丈夫です!』と頑なに眠ろうとしなかった。
そんなことが3~4回続いたあと。みふゆはとうとう睡魔に負けてしまった。
━━━やっと眠ってくれたか。
京司朗は思った。
何度『眠っていい』と言っても、『大丈夫です』と譲らずに、眠いのを我慢しようとしていた。
━━━意外と素直じゃないな。
信号待ちでみふゆの頬にかかった髪を直した。
━━━手のかかるお嬢さんだ。
笑みがこぼれた。心を満たす思いからくる微笑みだ。
真っ直ぐ帰ろうと思ったが、もう少しこのままでいたい。
隣で眠るみふゆの、規則正しい呼吸のリズムを感じていたい。
京司朗はみふゆが朝に話していた、『夕日がきれいに見える丘』に車を走らせた。
京司朗は心を満たす方法を覚え始めた。
もう無視はできなかった。
「仙道さん」
桐島が京司朗のマセラティに乗って現れた。
「調整しときました。っていっても特になんもなかったですけど」
車から降りた桐島がみふゆに会釈しながら言った。
みふゆも桐島に会釈を返すが、頭だけをペコリと下げた。体が動かしづらかった。京司朗がみふゆの肩を抱いたままだからだ。
━━━肩が、肩が気になる・・!若頭!若頭ってば!手!手!!手!!!
離してはくれそうにない京司朗の大きな手によびかける。
みふゆの心の声は京司朗には届かず、京司朗は桐島と話を続けていた。
「矢口はどうしてる?」
「ハハ。どっぷり落ち込んでましたよ。まあ、昼メシ食って元通りになったんですけどね」
桐島の笑いに、矢口と聞いてみふゆの耳がピクンと反応した。
━━━矢口さん・・、わたしをナンパして若頭に睨まれた人だな。それにしても・・・
『それにしても』━━━目立つ。目立ちすぎている。
道行く人がチラチラとみふゆ達三人と一台を見ている。
振り返って見る人もいる。ひそひそと話している。特に女性陣。
女性陣の注目はもちろん京司朗だ。
桐島も服装は白いワイシャツに紺色のスラックスといたって普通だが、目元が涼しげで、京司朗ほどではないにしても背が高い。二人とも目立つ存在だ。
男性陣のひそひその的は車だ。車に詳しいなら真横にある京司朗の愛車が、マセラティという高級外車であることは明白だ。
目立つ二人と一台のなかで、みふゆ一人だけが浮いてる気がしていたたまれなかった。
京司朗は桐島からタクシー会社の業務状況の報告を受け、社員の身内・親族が被災し、手伝いに行く場合は通常の有給休暇ではなく、特別有給で認めるように指示した。最大で三ヶ月間は給与の全額が保証される。桐島は「わかりました」と言い、タクシー会社に戻っていった。
みふゆは京司朗に助手席のドアを開けてもらいシートに座った。ホッとした。道行く人々の視線から逃れられた。
座り心地のいいシートは、ベッドに横になるのと同じくらいくつろげる。
━━━よかった。着替えを持ってきて。
こんなに座り心地のいいシートを汗で汚したら申し訳ない。
プラザの手伝いが終わってから、淡いグリーンのTシャツとジーパンに着替えた。着替えはプラザのコインロッカーに入れていた。
淡いグリーンは母親の礼夏が好きだった色だ。母親が亡くなってから、みふゆは特にグリーン系の色を好んでいる。母親の好きだった色というだけで、身につけてると母親が一緒にいてくれる気がした。
京司朗が車を走らせる。
駅前市民プラザが徐々に遠のいていく。
明日の天気予報も晴れだ。あらゆる復旧作業が今日よりも進むだろう。
みふゆはシートに体を完全に預けた。人の目もなくなり、やっと安心してくつろげる気がして眠くなった。
「冠水が解消された道路も出てきた。少し・・」
言いかけて運転席の京司朗が口をつぐんだ。
みふゆがうとうとしている。
京司朗は喋るのをやめた。
みふゆがふっと目を覚まし目をこすった。
「眠っていいぞ」
と言った京司朗に対し、みふゆは
「・・・大丈夫です!」
とキリッと言った。
何年か前、みふゆはネットの一つの記事が目についた。
『運転する人間が一番嫌なのは隣で寝られることだ』
なるほど、とみふゆは記事を読んで思った。
みふゆは眠気防止に外の風景に目を止めるようにしたが、すぐにまたうとうととし、まぶたが自然に閉じた。そしてハッと目覚める。
京司朗は「眠ってもいいぞ」と言うが、みふゆは『大丈夫です!』と頑なに眠ろうとしなかった。
そんなことが3~4回続いたあと。みふゆはとうとう睡魔に負けてしまった。
━━━やっと眠ってくれたか。
京司朗は思った。
何度『眠っていい』と言っても、『大丈夫です』と譲らずに、眠いのを我慢しようとしていた。
━━━意外と素直じゃないな。
信号待ちでみふゆの頬にかかった髪を直した。
━━━手のかかるお嬢さんだ。
笑みがこぼれた。心を満たす思いからくる微笑みだ。
真っ直ぐ帰ろうと思ったが、もう少しこのままでいたい。
隣で眠るみふゆの、規則正しい呼吸のリズムを感じていたい。
京司朗はみふゆが朝に話していた、『夕日がきれいに見える丘』に車を走らせた。
京司朗は心を満たす方法を覚え始めた。
もう無視はできなかった。
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