【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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200. ロンド~踊る命~ -17- 京司朗の闘い ②

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玄州げんしゅうの黒い手が京司朗に襲いかかった。

京司朗が迎え撃った。

空を切り裂く、日本刀の刀身の煌めきがみふゆの瞳に映った。

黒い手は斬られ、地上に落ちたがすぐに元の形を取り戻して再び京司朗を襲った。

玄州が嗤っている。
目を細め、歪な弧を描く唇が暗闇に浮かんでいる。
『惣領家の血をひかぬ生意気な毛唐けとうが!』
イタリア人の血をひく京司朗に対する玄州の侮蔑の眼差しは強い。

玄州の手は斬っても斬っても元の形に戻った。

━━━━最初に斬った手は霧散してヤツは悲鳴をあげた。だが今は斬ってもダメージを受けていない。つまりこれは幻影か。俺が疲れるか、隙ができるのを狙っているのか。やはり本体ヤツを斬らなくては。

京司朗は手ではなく、本体の玄州を意識した。

━━━━ヤツは何をしている 

玄州の手が幾度となく繰り返し京司朗に襲いかかってくる。京司朗は刀を構えた。 が、手は京司朗を襲うふりをして一瞬にして地に潜り、京司朗の後ろのみふゆの前に出現した。

京司朗が後ろを振り向いた。 

『振り向いちゃダメ!!』
玄州が京司朗を狙っているのがみふゆには見えていた。


玄州が京司朗の後ろにいる。
みふゆを振り向いたわずかな隙に。


ほほほほほ・・
お前の体はわたくしのもの・・・


声とは言えないねっとりとした声で、玄州が京司朗に囁いた。京司朗に取り憑こうとしている。

『やめて!!』
みふゆが叫んだ。




リーンと、鈴の音が鳴り響いた。




響いた鈴の音に、みふゆは、
『お母さん・・?』と辺りを見回した。

玄州は動きを止め、

『なぜ・・』

と、呟いた。

刀が玄州を貫いていたのだ。

京司朗は刀で玄州を一気に貫いた。そして、振り向きざまに真っ二つに割るように玄州を斬った。

『なぜ・・おまえが・・・礼夏れいかの・・・鈴を・・』

二つに斬り裂かれた玄州は人の形から塵になり、川に続く暗闇に溶けていった。

辺りは静まりかえった。

玄州もアユミもいない。

いるのは京司朗と、みふゆだけだった。

みふゆが京司朗に駆けよった。
『若頭・・!大丈夫ですか!?』
「ああ、大丈夫だ」
京司朗が笑顔で答えた。みふゆには京司朗の声は聞こえないが、笑顔と口の動きで答えを理解した。
『よかった・・』
ホッと安心してみふゆは息を吐いた。
京司朗はそんなみふゆを抱きしめたいと思ったが━━━━
「不思議だな。君はいまベッドで眠っているはずなのに」
京司朗はみふゆの頬に手を当てた。ほんのりと、温かさと頬の柔らかさを感じる。本来ならさわってもすり抜けるはずだ。
「さあ、君は体に戻るんだ。俺も病室にすぐに行くから」
京司朗が病室の方向を指した。
みふゆが京司朗の指の先を見ると、みふゆはそのままスッと姿を消した。



「どうやら体に戻ったようだな」
木の陰から、惣領家総本家である寺・霊峰領れいほうりょう権現寺ごんげんじの住職・惣領そうりょう一心いっしんが出てきた。

「我々の出る幕はなかったですね」
一心の後ろには副住職である息子の圭一がいる。

「居たのなら、さっさと奴を始末してくれればよかったのに」
京司朗がため息をついて一心に言うと、
「ははははは、惣領貴之の後継者たる者、これくらいはカタをつけられるようにならんとな。それに、愛しい女子おなごの前で格好のいいさまを見せられたんだ。良きことではないか。きっと惚れなおしたぞ」
一心が笑った。

貴之と矢口から事のあらましを聞いた惣領一心は、死霊・水無瀬玄州が現れるとしたら、おそらくここだろうと目星をつけていた。
立ち入り禁止にしているのは、場所的に様々な霊が溜まりやすく、生命力の弱い患者が引っぱられやすいからだ。結界を張ってあるが定期的に浄化が必要で、それを担っているのが権現寺と百花寺だった。

「しかし、礼夏はおらんのに鈴の音だけが響くとはなぁ・・」

鈴━━━━

京司朗には心当たりがあった。

みふゆの母・礼夏が、ケガで療養中の京司朗の部屋に現れた日のことだ。
京司朗は礼夏から鈴を受け取った。
左手に乗せられた鈴は、手のひらに吸い込まれるように消えている。

━━━━━あの鈴は俺の左手のなかにずっとあるのかもしれない。

京司朗は左手をみつめ、グッと握った。

━━━━━そうだ。彼女と共に生きるなら、あらゆるものから彼女を守る強さと力が必要だ。

京司朗は改めて思った。





みふゆが目を覚ました。
病室の天井が見えた。自分の肉体に戻ったのだ。
みふゆは飛び起きた。
「わたし・・!」
「みふゆさん、大丈夫よ。ちゃんと戻ってこれてよかったわ」
惣領早紀子が穏やかな笑みでみふゆの背中をなでた。
「・・・あ、・・あの、・・・ごめんなさい・・わたし、あの・・、あの・・!若頭は・・・?!」
「すぐに戻ってくるわよ」
早紀子が穏やかな笑みでみふゆに答えた。
「それから・・!アユミさんのことを確かめないと・・!」
「アユミさん?」
「わたし、アユミさんっていう女の子に会ったんです・・・!たぶん堀内社長の知り合いだと思うんです。誰かに刺されてこの病院に入院したみたいで・・。わたしを助けようとして黒い手に吹き飛ばされてしまって!アユミさんがどうなったか確かめたいんです・・!」
せっかく生きようとしていたアユミ。あのまま逃げていれば自分の体に戻れたはずだ。なのに、みふゆを助けようとしたアユミ。いったいどうなったのか。この病院にいるのは確かだ。そして堀内健次も━━━━


「みふゆ!!」
病室のドアを乱暴に開けて貴之が入ってきた。
「お父さん・・?どうして」
「まあ、ずいぶん耳が早いこと」
「茶化さねえでくれ、姉貴。どうしてって、心配したからに決まってるじゃねえか」
「ご、ごめんなさい・・」
「何があったか話を聞かせてくれ」
「貴之、今は夜中ですよ」
早紀子が窘めた。
「あの!今話したいです!わたし、アユミさんが無事かどうか早く知りたい・・!」
「誰だそりゃ?お前の知り合いか?」
貴之は知らぬ名前に眉間にしわを寄せた。
「アユミさんはわたしを助けようとしたんです・・!わたしのせいで・・!」
「みふゆ、落ち着け。落ち着いて最初から話してくれ」

「・・わたし、気がついたら外にいたんです・・」

みふゆが話し始めた。







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