【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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番外編 縁 (1)トリセツ

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みふゆが堀内花壇を正式に退職することを決めた。
ようやく決めてくれたかと惣領貴之は安堵した。
明日堀内花壇に退職願いを出しに行きたいから連れて行ってほしいと頼まれたが、当のみふゆが朝方発熱し、胡蝶から外出を禁じられてしまった。

きちんと会って挨拶をしたいとみふゆは言ったが、今回は退職願いだけを先に出して挨拶は体調が良い日にすればいいと貴之は説得した。

貴之は京司朗を伴い、みふゆから託された退職願いを手にして堀内花壇を訪れた。

京司朗が店のドアを開けるとドアベルが鳴り、惣領貴之が店内に入った。
静かだ。人気が無い。
「堀内ー!?誰もいねぇのか?」
貴之が呼びかけた。

「おめでとうございます!!!」

『いらっしゃいませ』の挨拶もなく、作業台の下からいきなり登場したのは糸川梨理香だ。

「ぅおっ!?な、なんだいきなり??」
驚いた貴之が半歩退いた。
「社長を驚かそうと隠れてましたが、会長さんたちが来店してしまい、りんちゃんは出てきたという次第です」
糸川梨理香は深々と頭を下げた。
「改めまして、みーちゃん先輩との養子縁組および御婚約・・!誠に喜ばしいことと存じます・・。おめでとうございます・・!」
粛々と祝いを述べる梨理香。
「おお、ありがとうよ。みふゆには俺から伝えてお・・」
「しかし!!」
貴之の言葉を遮り梨理香は握りこぶしを作った。
「みーちゃん先輩がこれから健やかに安心して暮らす為にはお二人には守ってもらわなくてはならないことがあります!・・これをどうぞ」
糸川梨理香はA4版の冊子をカウンターの引き出しから出し、両手で持ってうやうやしく貴之と京司朗に進呈した。自身のコスプレ写真集を作るくらいだ。冊子づくりはお手の物である。
「なんだこりゃ?」
「みーちゃん先輩のトリセツです」
「トリセツ?」
「取り扱い説明書です。略してトリセツです」
「みふゆは家電製品じゃねぇぞ」
「家電製品じゃなくても必要です。みーちゃん先輩は繊細なんです。ぜひこれを読んで、みーちゃん先輩の幸せな生活のためにお役立てください。特に重要な項目は最初のページから記してありますから読んでください!」
梨理香の真剣な眼差しに気圧され、貴之は京司朗に冊子を渡してめくるように促した。京司朗がパラリとページを開いた。

1. みーちゃん先輩にあめ玉を与える時は砕いてから与えてあげてください。

「・・あめ玉?」
「・・・・・」
貴之は疑問を抱き、京司朗は沈黙を選んだ。

「みーちゃん先輩は子供のころにあめ玉を喉にひっかけて死にそうになったことがあるんです・・!」
「なんだと?!そりゃ大変じゃねえか!」
「そうです。だから子供の時はお母さんがカナヅチで砕いてからみーちゃん先輩に与えていたそうです。大人になってからは大きなあめを食べるときは口に入れて速攻で噛み砕いています。でもそんなことをしてたら歯によくありません。それを知ってからはりんちゃんがあめ玉を砕いてあげてました。でもこれからは側にいてあげることができませんから、その役目はお二人に・・!」
「そうか、心得たぜ。わかったか!京司朗!」
「え?・・ええ、・・そうですね」
京司朗、冊子を持ったまま若干困惑顔。
梨理香は二人の返答に満足げに頭を下げた。
「よろしくお願いします・・!次は2ページめです!」


2. 朝はお散歩をさせてください。

「散歩・・」
「・・・」

「みーちゃん先輩は早起きが大好きで、特に朝のお散歩は大好きです。健康のためにも朝はきちんとお散歩させてください。喜びます。朝と午後の一日二回ならなおよろしいです!」

「・・・」
「・・・」
犬かな?
犬の話だったかな?
貴之と京司朗の頭にはみふゆではなく犬の姿が浮かんだ。強いて言うなら柴犬か。

だがみーちゃん先輩と言っていたのでみふゆの話のはずだ。

貴之は腕を組んで首を傾げながら梨理香に答えた。

「あー、みふゆの話だよな?・・うん、散歩なら任せとけ。うちは広いからな。俺も朝はよく散歩してるから一緒につれて行くぜ。俺がいない時は京司朗が連れて行くから大丈夫だ」

「はい。ぜひそうしてあげてください。でも勝手な行動をしないようにちゃんとつないでください」

「つなぐ?!」
「・・・」
貴之は訝しんで驚き、京司朗は想像した。

「ちゃんと手を繋がないとすぐに脇道に興味を持って入りこんでしまうので迷子になったりよそ見をして側溝に片足を落としたりします。危ないです・・!」

シベリアンハスキー?

「みふゆの話だよな・・?うん、まあ、そう・・か・・・迷子だの側溝に落ちるのは確かに危ねえな・・」
貴之は腕組みして唸る。
京司朗が3ページめをめくった。
「これは・・」
と声を出して指をさした。

3. ソニーの新商品には気をつけてください

「???ソニー?」

「最大の懸案事項です・・!!」

「ソニーが?」

「みーちゃん先輩はソニーが大好きなんです!」

「なんだと?おい京司朗、ソニーの株を全部買い占めろ!」
「またそんな無茶苦茶を」

「だからソニーが新商品を出したら注意してください!みーちゃん先輩はソニーの新商品を見ると買ってしまいます!!扱えなくても見境なく買ってしまいます!ソニーというだけで!!家電売り場の店員さんに財布を狙われています!サギに引っかかるタイプです!この間は四十万円のウォークマンを買おうとしたんですよ!機能を理解してなくて扱えないのに!!」
梨理香、クワッと大きく目を見開き叫んだ。
「いや、まあ、欲しければ買っても」
「いけません!!!」
「なんでだ?」
「それでは立派なソニー信者といえません!!!ソニーの製品を所有する以上は!機能を使いこなさなければならない!!使いこなしてこそソニー信者と言えるんです!みーちゃん先輩が立派なソニー信者になれなくてもいいんですか!!!」
「いや、俺達は別に」
「みーちゃん先輩のお母さんは初代ウォークマンから最新ウォークマンまでを完璧に使いこなしていたスーパーウーマンと聞きました!その血を引くみーちゃん先輩はお母さんのように立派なソニー信者とならなくてはいけないんです!!!」

「礼夏さんはそんなに凄いソニー信者だったんですか?」
「さ、さあな・・そこまでは・・」

「ソニー信者でした!!それはそれは立派なソニー信者でした!会ったことはないけどりんちゃんにはわかります!」

「・・・」
「・・・」

ソニー信者は糸川梨理香ではないのか。それも筋金入りの。
貴之と京司朗は思ったが口にはしなかった。

「ですから!・・もしもみーちゃん先輩に四十万ウォークマンを買ってあげるなら機能を余すことなく扱えるように教えてあげてください!!新しいVAIOも出る頃です!!教えてあげてください!!いいですか!!」

「よし、わかった。その辺は京司朗が大得意だから安心してくれ。俺が買ってやるから、京司朗、お前はみふゆに教えてやれ」
「え?」

「ご理解頂きありがとうございます!!!」

「糸川!うるせえぞ!!店ん中で何叫んでやがる!」
無精髭の堀内健次がガレージ側の通路から現れた。










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