【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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番外編 縁 (2) 救い

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寝起きで機嫌の悪い堀内健次は、貴之と京司朗の姿を見るといっそう不機嫌になった。

特に仙道京司朗━━━━

仙道京司朗は以前より精悍な顔つきになった。
もともと彫りの深い整った顔立ちだったが、惣領家当主になるために権現寺に修行に入り、帰ってきた京司朗は顔つきも雰囲気も変わった。

普通なら、前より迫力が増して逞しい男になったと評価するだろうが、堀内健次は気に入らない。京司朗の何もかもが。
ただでさえ気に入らないのに、仙道京司朗は堀内が一番欲しかった女を手に入れた男だ。

「社長こそこんな時間に起きてきて何なんですか!!!もうお昼になる時間ですよ!!」

「う、・・お、おお、すまん・・」

梨理香の反撃に堀内健次が怯んだ。どんなに機嫌が悪くても結局女には弱い堀内だ。

「りんちゃんも嫁に行くことが決まって退職するっていうのにほんとに大丈夫なんですか!七十先輩に仕事を押し付けたらただじゃおきませんよ!」
「だから今日の午後から新しいパートが来るって言っただろうが!」

「ほう?雇ったのか?」
いつの間にかティーテーブルの席に座っていた貴之がコーヒーを片手に堀内を見上げた。

「喫茶店フルールのママの妹だ。離婚して子供連れて帰ってきたっていうんで今日から雇うことにした」

「フルールのママの妹って雅実まさみか?空手二段柔道二段剣道三段のあの豪傑か?」
「ああ。浮気の慰謝料と養育費の代わりに旦那をぶん殴ってきたせいで無一文なんだと」
「ははは、さすが雅実だぜ。豪胆な性格も変わってねえな。そんならよ、花の配達を再開したら配達は雅実にさせてくれ。俺も久しぶりに話してえ」
「ああ」
堀内は煙草に火をつけてカウンターの灰皿を手元に引き寄せ、「糸川、コーヒーいれてくれ」と梨理香に言った。
梨理香が「はーい」と返事をするとカウンターに入り、コーヒーの準備を始めた。鼻歌まじりでコーヒー豆をコーヒーメーカーにセットしている梨理香に貴之は、
「糸川の嬢ちゃんはここを辞めたら天竜の店を手伝うのか?」と訊いた。
「はい。嫁に行ったら今度はコロッケと串カツを一生懸命売ろうと思います」
糸川梨理香は総菜屋天竜の主・香取天竜の次男との結婚が十二月に決まっている。結婚するなら十八歳のうちに結婚したいとの梨理香の希望を香取裕が快く受け入れたのだ。
「そりゃあいい。すぐに看板娘になれる。天竜も喜んでたぜ。次男に嫁いでくれる女がなかなかいねえって愚痴ってたのが一転、十代の嫁さんもらうことになったって大喜びだ。式には出させてもらうぜ。天竜はうちの身内同然だからな」
「はい。ゆっくんからも聞いています。必ず来てください」
「ゆっくん?」
「香取のことです。名前がゆたかですから」
京司朗の説明が入った。
「“ゆたか”の、ゆっくんか。ははは」
「ゆっくんのお家と会長さんのお家は昔から親しい付き合いがあると聞きました。だからこれからもみーちゃん先輩と仲良くお付き合いできると知って、りんちゃんもとっても嬉しいです。えんを感じます」
「ああ。これからもみふゆのいい友達でいてくれ。記憶を無くしてた間も、みふゆは糸川の嬢ちゃんのことは忘れなかったんだ」
「もちろんです!りんちゃんはみーちゃん先輩の一生の後輩でお友達です!」

盛りあがっている貴之と梨理香を眺めながら堀内健次は煙草を灰皿に押しつけて潰した。
「俺になんか用があったんじゃないのか」

「おう、そうだそうだ。みふゆの退職願いを届けに来た。みふゆも来るはずだったが朝方から熱をだしてな」
言いながら貴之がテーブルにみふゆが書いた退職願いを置いた。
堀内は几帳面な見慣れた文字を見て「・・そうか」とだけ言った。
せめて残しておきたかった、雇用主と従業員の関係。その関係も、こうして完全に断ち切られる。
糸川梨理香と違って、みふゆとはとことん縁が無いのだと堀内は自嘲的な笑みをこぼした。

「おめーにも、ほれ、再婚のご祝儀だ。嫁さんになんか買ってやれ」
貴之が分厚い封筒を堀内に放った。

「ふん、くれるもんは貰っとくぜ」
堀内は受けとるとぶっきらぼうに言葉を返し、
「糸川、山形が戻ってきたらお前は昼メシに入れ。俺は二階でもうひと眠りしてくる」
と、背を向けて二階へと去った。



改築済みの二階の部屋で、堀内健次はソファにどっかりと座ると、みふゆの退職願いの封を切った。
便箋が三枚。
一枚めが退職願い、二枚目からが堀内健次に対する感謝の言葉が綴られていた。
そして━━━━━


「ハ・・、ハハ・・、ハハハハハ・・・!」


堀内は笑った。 

便箋に綴られたみふゆの言葉に。





堀内社長、私を採用してくれてありがとうございました。
社長は花の仕事だけではなく、花の面白さや不思議さも教えてくれました。
入社して最初の誕生日に赤いスプレーバラの鉢植えをいただいたのも嬉しかったです。
ずっと育てていましたが、火事で失い残念な気持ちでいっぱいです。
台風の時も一人暮らしを気遣ってもらいました。
振り返ってみると、社長には感謝することがたくさんあると気づきました。ありがとうございました。

いろいろありましたが、堀内花壇での仕事はやはり楽しかったです。

堀内花壇に採用されなければ、私は実の父である、惣領貴之に出会うことはなかったかもしれません。
社長は花に関しては天性の才能を持っていると思っています。だからお店を潰さないようにしっかりと経営をしていってくれることを願っています。

惣領 みふゆ


『実の父である惣領貴之』



「実の父・・・?実の・・」



永遠に無い━━━堀内健次とみふゆが手を取りあうことなど



「ハ・・、ハハ・・、ハハハハハ・・・!」


堀内は笑った。


永遠に無いのだと━━━━


みふゆとの縁が断ち切られることは永遠に無いのだと堀内は知った。


惣領貴之の実の娘・みふゆと、

惣領貴之と血の繋がりがある堀内健次とは、切ろうにも切れない繋がりが存在している。


堀内はそれだけで救われた気がした。












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