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4. 成仏への道 ~成仏ルーティーン~
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私はいつもの珈琲の美味しい喫茶店にお邪魔している。
同じ時間に現れる、生きていない私を、ここのご主人は快く受け入れてくれる。
喫茶店の本棚には純文学がズラリと並んでいる。
ご主人が「今日は何を読みたいの?」と聞いてくれる。
私はまだ読めていない三島由紀夫をリクエストした。
ご主人がテーブルに、本と、まずは水をおいてくれる。これもいつもの決まりごと。氷が二個入った冷たいお水。
私は水に鼻先を近づけた。水の『気』が鼻先からスーッと私の中に取り込まれる。うん、スッキリサッパリ。
ご主人は珈琲をいれてくれている。
豆をガリゴリ轢く音、サイフォンのコポコポする音。やがて店内には珈琲の香りが微かに漂い、私の鼻先をさらにくすぐった。至福の時間である。
透明な窓からは、青い空に白い雲が浮かんでいるのが見える。
白い雲を目にすると、私は彼女のことを思い出す。
彼女とは会えないまま、時間は過ぎている。
白いワンピースをなびかせて家路を急いだ彼女。
家には帰れただろうか?
お母さんとお父さんには会えただろうか?
思いを伝えられただろうか?
成仏できたならもう二度と会えないだろう。
まだならまたどこかで会えるかもしれない。
・・できれば成仏していてほしい。
ご両親の元で、何にも怯えることはない、安らかな眠りを手に入れていてほしい。
彼女は頑張って生きたのだから
頑張って頑張って頑張って生きたのだから・・・
「おまちどおさま」
ご主人が笑顔で私の前に珈琲をおいてくれた。
『ありがとうございます』と私も笑顔を返した。
珈琲の香りを鼻先で感じて、三島由紀夫の文庫本の一頁をペラリとめくった。
成仏への今日のノルマであり、モーニングルーティーンでもある読書。
私はこれを『成仏ルーティーン』と呼んでいる。
ネーミングセンスについては問うべきではない。
執着が晴れて清々しく成仏できるまで、私のこのルーティーンは続く。
了。
私はいつもの珈琲の美味しい喫茶店にお邪魔している。
同じ時間に現れる、生きていない私を、ここのご主人は快く受け入れてくれる。
喫茶店の本棚には純文学がズラリと並んでいる。
ご主人が「今日は何を読みたいの?」と聞いてくれる。
私はまだ読めていない三島由紀夫をリクエストした。
ご主人がテーブルに、本と、まずは水をおいてくれる。これもいつもの決まりごと。氷が二個入った冷たいお水。
私は水に鼻先を近づけた。水の『気』が鼻先からスーッと私の中に取り込まれる。うん、スッキリサッパリ。
ご主人は珈琲をいれてくれている。
豆をガリゴリ轢く音、サイフォンのコポコポする音。やがて店内には珈琲の香りが微かに漂い、私の鼻先をさらにくすぐった。至福の時間である。
透明な窓からは、青い空に白い雲が浮かんでいるのが見える。
白い雲を目にすると、私は彼女のことを思い出す。
彼女とは会えないまま、時間は過ぎている。
白いワンピースをなびかせて家路を急いだ彼女。
家には帰れただろうか?
お母さんとお父さんには会えただろうか?
思いを伝えられただろうか?
成仏できたならもう二度と会えないだろう。
まだならまたどこかで会えるかもしれない。
・・できれば成仏していてほしい。
ご両親の元で、何にも怯えることはない、安らかな眠りを手に入れていてほしい。
彼女は頑張って生きたのだから
頑張って頑張って頑張って生きたのだから・・・
「おまちどおさま」
ご主人が笑顔で私の前に珈琲をおいてくれた。
『ありがとうございます』と私も笑顔を返した。
珈琲の香りを鼻先で感じて、三島由紀夫の文庫本の一頁をペラリとめくった。
成仏への今日のノルマであり、モーニングルーティーンでもある読書。
私はこれを『成仏ルーティーン』と呼んでいる。
ネーミングセンスについては問うべきではない。
執着が晴れて清々しく成仏できるまで、私のこのルーティーンは続く。
了。
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