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3. 成仏できない『彼女』の理由
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彼女は自殺したのだ。
苛めにたえられず、電車に飛び込んでしまった。
自殺者は簡単には成仏できないと、TVの心霊番組で聞いたことがある。あれは三島由紀夫と親交のあった美輪明宏の言葉だったか、いや、違う人か?
どっちにしろ簡単に成仏できないのは本当のようだ。
彼女は、朝、通学の電車に飛び込んで、気づいたら暗闇の中にいたという。
真っ暗で歩いても歩いてもどこにもたどりつけない。家に帰る道もない。
誰にも会えない。家族の名を呼んでも返事はない。孤独な場所で━━━
「私、眠りたかったの。ただ眠っていたかったの・・。暗闇の中から出ていける場所を探したけどみつからなくて、諦めてもうこの暗闇で眠ろうと思って体を横にしたら、何かが私の手や足を引っ張ったの。張り付けにみたいされて、四肢を引っ張られて、体がビリビリと裂けそうになった。私、痛くて痛くて必死でもがいて暴れてそこから逃げた。それから眠ることはやめたの。休むこともやめた。座るのも怖くなってずっと歩いて・・歩き続けて・・」
苦しくて苦しくて、辛くて辛くて死んだのに、どうして死んでまで苦しまなきゃいけないの━━━━━
彼女は両手で顔を覆い、嗚咽をもらした。
「でも・・、これはきっと自分を殺したことへの罰なんだって・・・。最後の最後に私は一番悪いことを・・、一番してはいけないことをしてしまったんだって・・」
そうか。
彼女は、自分の行いの罪を受け入れ、罰を受け入れたのだ。だからここに・・・。
「ずっと歩き続けてたはずなのに、なぜか知らないうちにあのベンチの前に立ってた。子供の頃に遊んだ公園のベンチ。お店でお母さんにアイスクリームを買ってもらって、あのベンチに座って食べた。お母さんはバニラ、私はチョコレートのアイスクリーム」
━━━おかあさん、ひとくちちょうだい!
━━━じゃあ、お母さんにも一口ちょうだい。
「お互いのアイスを・・いつも一口ずつ・・・」
足元が涙でどんどん濡れてゆく。この涙は、自分を憐れむ涙ではなく、慈しんで育ててくれた母を想い、母を哀れむ涙だ。
彼女は深く後悔している。
自殺などしなくてもよかったことに気づいてしまった。
━━━━死んでしまったあとに・・。
きっとその綺麗な白いワンピースは、あなたのお母さんが愛する娘に最後に用意した、美しい死装束だったんだね・・・
あなたのために、せめて一番美しい装束をと・・。
「今なら家に帰れるんじゃない?」
彼女はハッとして顔をあげ、唇を震わせながらゆっくりと公園の出口を向いた。
「・・うん、・・・帰ってみる。帰れたら・・、お母さんやお父さんに謝ってみる。声は聞こえないかもしれないけど」
彼女の、涙で濡れる瞳の中には光が宿っている。
彼女は公園の出口に歩きだした。途中で振り向いて、
「ありがとう。あなたに会えてよかった。話ができて嬉しかった。ほんとにありがとう」
そう言うと、笑顔で出口から駆けていった。
白いワンピースの裾をひるがして。
私は彼女の姿が消えるまで見送っていた。
影が私の上を通り過ぎる。
見上げると、彼女の真っ白なワンピースのような白い雲が太陽を隠していた。
空は鮮やかな青い空だ。
白い雲が、青い空をゆっくりと流れていく。
やがて太陽が再び眩しく地上を照らす。
━━━━いい日だ。
眩しさに目を細め、いつもの喫茶店へと足を進めた。
私は彼女とは反対の道を歩き始めたのだ。
その後、私が彼女に会うことはなかった。
彼女は自殺したのだ。
苛めにたえられず、電車に飛び込んでしまった。
自殺者は簡単には成仏できないと、TVの心霊番組で聞いたことがある。あれは三島由紀夫と親交のあった美輪明宏の言葉だったか、いや、違う人か?
どっちにしろ簡単に成仏できないのは本当のようだ。
彼女は、朝、通学の電車に飛び込んで、気づいたら暗闇の中にいたという。
真っ暗で歩いても歩いてもどこにもたどりつけない。家に帰る道もない。
誰にも会えない。家族の名を呼んでも返事はない。孤独な場所で━━━
「私、眠りたかったの。ただ眠っていたかったの・・。暗闇の中から出ていける場所を探したけどみつからなくて、諦めてもうこの暗闇で眠ろうと思って体を横にしたら、何かが私の手や足を引っ張ったの。張り付けにみたいされて、四肢を引っ張られて、体がビリビリと裂けそうになった。私、痛くて痛くて必死でもがいて暴れてそこから逃げた。それから眠ることはやめたの。休むこともやめた。座るのも怖くなってずっと歩いて・・歩き続けて・・」
苦しくて苦しくて、辛くて辛くて死んだのに、どうして死んでまで苦しまなきゃいけないの━━━━━
彼女は両手で顔を覆い、嗚咽をもらした。
「でも・・、これはきっと自分を殺したことへの罰なんだって・・・。最後の最後に私は一番悪いことを・・、一番してはいけないことをしてしまったんだって・・」
そうか。
彼女は、自分の行いの罪を受け入れ、罰を受け入れたのだ。だからここに・・・。
「ずっと歩き続けてたはずなのに、なぜか知らないうちにあのベンチの前に立ってた。子供の頃に遊んだ公園のベンチ。お店でお母さんにアイスクリームを買ってもらって、あのベンチに座って食べた。お母さんはバニラ、私はチョコレートのアイスクリーム」
━━━おかあさん、ひとくちちょうだい!
━━━じゃあ、お母さんにも一口ちょうだい。
「お互いのアイスを・・いつも一口ずつ・・・」
足元が涙でどんどん濡れてゆく。この涙は、自分を憐れむ涙ではなく、慈しんで育ててくれた母を想い、母を哀れむ涙だ。
彼女は深く後悔している。
自殺などしなくてもよかったことに気づいてしまった。
━━━━死んでしまったあとに・・。
きっとその綺麗な白いワンピースは、あなたのお母さんが愛する娘に最後に用意した、美しい死装束だったんだね・・・
あなたのために、せめて一番美しい装束をと・・。
「今なら家に帰れるんじゃない?」
彼女はハッとして顔をあげ、唇を震わせながらゆっくりと公園の出口を向いた。
「・・うん、・・・帰ってみる。帰れたら・・、お母さんやお父さんに謝ってみる。声は聞こえないかもしれないけど」
彼女の、涙で濡れる瞳の中には光が宿っている。
彼女は公園の出口に歩きだした。途中で振り向いて、
「ありがとう。あなたに会えてよかった。話ができて嬉しかった。ほんとにありがとう」
そう言うと、笑顔で出口から駆けていった。
白いワンピースの裾をひるがして。
私は彼女の姿が消えるまで見送っていた。
影が私の上を通り過ぎる。
見上げると、彼女の真っ白なワンピースのような白い雲が太陽を隠していた。
空は鮮やかな青い空だ。
白い雲が、青い空をゆっくりと流れていく。
やがて太陽が再び眩しく地上を照らす。
━━━━いい日だ。
眩しさに目を細め、いつもの喫茶店へと足を進めた。
私は彼女とは反対の道を歩き始めたのだ。
その後、私が彼女に会うことはなかった。
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