成仏できない!

由宇ノ木

文字の大きさ
2 / 4

2. 成仏できない私の理由

しおりを挟む
.



彼女と私はとりあえず公園内を歩きながら話をした。

公園の一部が様変わりしてて驚いていたので、子供が遊具でケガをして、遊具類は撤去になったと教えた。

彼女は残念がっていたが、あのベンチは変わらずあって嬉しかったと言った。きっと思い出があるのだろう。

話しを続けていると、なんと同じ高校で隣のクラスであることが判明した。

「え、じゃあ第一東高校の・・」
「二年一組でした。あなたは?」
「私・・二年二組で・・・」
彼女の顔色が心なしか青ざめた。霊でも青ざめるのかという意見もあろうが青ざめるのだ。
「あ、あの・・」
「でも悪いけど顔知らない。私、二年になってまもなく入院でそのまま死んだから。正直クラスメートの顔もよく覚えてないし、ましてや隣のクラスまではちょっとカンベンって感じ」
「・・そうですか」
彼女はホッとしたようだ。

「あの・・、あなたは病気で死んだのに、どうして成仏できないでいるの?」
彼女の質問はごく至極当然のことだと思う。

「やりたいことがたくさんあって、思いが強すぎるんだと思うな。要するに執着心の塊みたいなもんが私」
「成仏して生まれ変わってきて叶えれば?」
「それも考えたけど、・・・もしもまるっきり別世界に生まれ変わったらどうする?異世界転生とか悪役令嬢・溺愛ルートとか、私のやりたいことが叶わない世界に生まれてしまったらこの執着心は解消されない。心は決して満たされない。問題は解決しない。・・・なんて恐ろしい・・」
考えただけで落ち込む。その証拠に私の足は足首まで地中にめり込んでいる。
「ちょっと引っ張ってくれない?」
「ど、どうやって??」
「大根引っこ抜くカンジでグイッと」
彼女が私の両手を引っ張った。
スポンッ!と、私は地中から抜けた。
「ありがとう。助かった。気分が落ち込むと地中にめり込む霊質だから。あなたはどお?めり込む?」
彼女は首を横に何度も振った。
やはり私だけの個体的な霊質か。
「一人の時はどうしてるの?」
「気分をアゲアゲにして心を軽くする。サイコーにアゲアゲになると自由に空も飛べるはずだよ。まだ飛んだことはないけど」
彼女が若干引いている。
「・・・あの、やりたかったことってなんなの?」
「三島由紀夫、川端康成、太宰治、芥川龍之介全読破」
「・・・」
「バカにしてるでしょう?そんな暗い純文学のどこが面白いんだって思ってるでしょう?私にはわかる」
「思ってません」
「まあ、いいさ」
「良くないです。私はあなたをバカにしてないし、純文学を暗いなんて思ってませんから。勝手にひとの気持ちを決めないでください」
「・・あなた、ハッキリ言うのね」
「・・・・私・・、ハッキリ・・言いましたか・・?」
「言った。すごくハッキリクッキリパッキリポッキリと言った」
「・・・・・」
彼女は私をみつめながら涙を流した。
これは困った。女の子を泣かせてしまった。私の騎士道精神に反する。宥めなくては。
「まあ、泣かないで。ハッキリと自分の意思を伝えることはいいことだよ。素晴らしいことだから」
私は褒めた。しかしありきたりなセリフだな。他に何か良いセリフはないものか。
「も・・、もっと・・・」
え?もっと?もっと褒めてくれってこと?
そうだな、こんな時こそ純文学の大御所たちの作品群のなかからイキなセリフを・・。

・・・・・。

だめだ!出てこない!
私の役立たずめ!

「もっと早く自分の気持ちを言えるようになってれば・・・」

ん?どういうこと?





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...