隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

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七章 院長の頼み

(2)

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 徒歩で歩いて十五分。
 途中、コンビニに寄って昼の分のおにぎりと、明日の朝食用のパンと牛乳を購入する。

 二階のアパートの自宅は端っこ――隣は神社の『鎮守の森』だ。
 鬱蒼と茂る落葉樹は、樹齢数百年は経っているものばかりなのかも知れない。
 この神社と鎮守の森が菜緒含む一帯の住民達の、緑のオアシスになっているのは間違いない。
 菜緒は、いつも鎮守の森を一瞥してから部屋に入る。

 それは無意識だと言っていい。
 森にあった何かを探すように視線が向いてしまうのだ。
 菜緒自身、どうしてかわからない。
 時々、子供の声とか聞こえるような気がするし、また、ぼんやりと森ではなく木造平屋の住宅が見える気もするのだ。

「疲れてるのかなぁ……」
 この辺は駅から離れた住宅街だし、アパートの隣は神社で、都内とはいえずっと静かな場所だ。
 それに近くに保育園とか子供が大勢いるような施設もない。

 なのに、時々子供の声とかが森から聞こえたりするのは正直ゾッとしないか? と菜緒は肩を竦めるが生来の大らかな性格が「きっと空耳」とか「どこか違う場所から聞こえているのね」と変換させてしまうのだ。

(でも……)
 額を撫でる。

 鎮守の森を見ていると、どうも頭がモヤモヤする。
 何か『隠している部分』を、半透明なベールで覆われたような。
 こんな感情が出るのも、頭がモヤモヤするのも、森のことを思うときだけだ。

(もしかしたら自分に合わない場所だったのかしら? この周辺って)
 だから引っ越すといっても北海道から都内へ引っ越して、ストーカー被害でまた引っ越してとここ一年で随分貯金を崩してしまった。
 また引っ越しとなるととても躊躇う。
 ありきたりだけど、盛り塩でもしておこうか? と思う菜緒だった。




 ラインで連絡がきた。自分の歓迎会は駅前にある肉バルになった。
 お店の名前と【十八時半に中に入って集合】と簡潔な内容で菜緒は店名から場所を検索していると、大津院長から別にラインが届いた。

【姉崎さんは十八時くらいに来て欲しいんだけど、いいかしら?】
【はい。大丈夫です】
【じゃあ、よろしくね】

 スマホを充電して時計を見ると、十四時。待ち合わせの時間までまだ間がある。
 菜緒は夜のお肉を期待しておにぎり一個だけにする。
 コンビニでおにぎりを買うのに「温めますか?」と言われないことにも慣れてきた。
 癖で夏でもレンジで温めるが。

「梅を温める?」なんて疑問に思ってはいけない。
 全国のコンビニ事情は、地域によって色々と違うのだから。

 ホカホカになったおにぎりのシートを外す。
「炭水化物だけじゃあ、叱られちゃうかな」

 ぽつりと呟いた後、「誰に?」と首を傾げた。
 一瞬、誰かの顔が頭に浮かぶが、また頭がモヤモヤとしてきて残像さえも掻き消してしまった。

「真剣に一度、頭の検査をした方がいいかな……」
 そう言いながらおにぎりにかぶりつく。

 おにぎりは梅だ。
 コンビニの梅おにぎりを食べるようになってから時々、無性に家で漬けた梅漬けが食べたくなるときがある。
 梅干しに限らず、やはり漬け物系はその家庭の味が出て味わい深い。

 菜緒の好きな梅は「梅漬け」だ。
 梅干しは「カリカリ」
 梅漬けは「しなしな」

 しなしなで果実の柔らかくなった梅漬けをほぐして、鰹節と混ぜたおにぎりの具は菜緒の好物だ。
 梅雨のジメジメした今の時期から夏の間、食べたくなる。
 鰯に挟んでフライにしたり、かまぼこにシソと挟んだりしてもいい。
 もっと暑くなったら素麺の麺汁に入れると、箸が止まらなくなるほど溜まらなく美味しい。

 想像してゴクンと唾を飲み込んでしまう。
「あー今度、送ってもらおう。『自分で取りに来なさい』とか言われるかなー」

 絶対に言われるわ、そう呟いておにぎりの梅を口に入れる。
 酸っぱい、けれどこの味じゃない。馴染みのあるあの味。
 赤シソと一緒に漬ける自分ちの梅漬けが食べたい! と思う菜緒だった。





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