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迎えにきたお父さんと――きょうだい!?
1
しおりを挟む男の子は闇のような黒髪で、目の色は紫色だった。
真っ直ぐな前髪から見え隠れする瞳は輝いて見えて、とても神秘的。
顔も整っていて、AIで作られた美少年みたい。
外国の人だよね?
モデルみたいにスラリとしてて、しばらく見惚れてしまった。
男の子はわたしに、
「橋崎莉緒だよな?」
と、流暢な日本語で尋ねてきたので「うん」と頷く。
すると、男の子はわたしに向かって左手を自分の胸にあて、お辞儀をした。
テレビで見たことがある。王族が貴賓にするお辞儀を見ているようで、またまたビックリするわたし。
優雅なお辞儀のあと、わたしにハンカチを差し出してきた。
戸惑うわたしに「ん」と、突き出してくる。
「あ、ありがとうございます」
このイケメンに、ずっと見られていた?
泣いて、グシャグシャな顔になっているかもしれない。そう思うと恥ずかしい。
「ちょっと、ここで待ってろ」
男の子はそう言って、走って公園から出ていく。
一分もしないうちに、ボトルを手に持って戻ってきた。
この公園に一番近い自販機って……あったかな? ううん、そもそもないよね。
三百メートルくらい先にコンビニがあるくらい。
一分でコンビニまで行って、戻って来るってありえる?
ええと、早くても百メートル十二秒とか聞いてるから片道三十六秒で……行って帰ってくるだけでも一分過ぎちゃう!
きっと気づかなかっただけで、公園の周辺に自販機が設置されたんだ、と、一人納得しているわたしに男の子は、
「寒いだろ? これ飲んで」
と、柚子とはちみつ味のジュースのボトルを差し出してきた。
ボトルと男の子を交互に見つめるわたしにイライラしたのか、強引に渡してくる。
「いいから飲め。せっかく買ってきたのに勿体ないだろう」
「は、はい。ありがとうございます」
手の平から伝わるボトルの温かさにホッとして、蓋をあけると一口、二口と飲む。
わたし、すごく体が冷えていたんだ。
喉から胸に、それからお腹にジンワリと温かい液体が流れていくのが、ハッキリとわかった。
男の子は、わたしが飲んでいる姿を見てホッとした様子。
赤の他人のわたしを、こんなに心配してくれる人がいて、嬉しい。
それから男の子はスマホを取り出すと、どこかに電話している。
「見つかったよ。うん。わかった、連れて行く」
そう言って、通話を切った。
「寒いだろう」
わたしを上から下までまんべんなく見た男の子は、自分のジャンパーを脱いでわたしの肩にかけてくれた。
「だ、大丈夫です。わたし丈夫なんで」
「見てるこっちが寒く感じるんだよ」
「さっさと着ろ」と、ぶっきらぼうに言ってくる。
「ありがとうございます」と、ありがたく袖を通すことに。
男の子とそう身長が変わらないわたし。ジャンパーはピッタリだった。
「莉緒……と呼ばせてもらう。今から安藤家の、あんたがお世話になっていた家に戻る」
「……えっ?」
――戻れない。
足に重りがついたように動けなくなったわたし。
「あなたは叔母さんに言われて、わたしを探しにきたんですか? それとも伊月さん? でもわたし、戻る気ありません。児童相談所で暮らすつもりで出てきたんです」
「違う。引き取りにきたんだ。莉緒を」
「わたしを?」
はっと気づく。
「お母さん? 帰ってきたんですか? じゃあ、あなたはお母さんの知り合い?」
「知り合い……には違いないな。だけど、莉緒の母親はきていない」
男の子の言葉に、わたしはガッカリした。
けれど、お母さんの知り合いだと言った!
「あ、あの! お母さんは今、どこにいるんですか? 元気なんですか?」
「そういうこと、含めてあとで話すから。とにかく、今はついてきてくれ」
と、男の子は手を差し伸べてきた。手を握れってこと?
人と触れ合うなんてずっとしてない。ましてや、さっき会ったばかりの男のこの手を握るなんて。
躊躇うわたしに、男の子はなにかに気づいたように「あっ」と声をだした。
「初対面でいきなりは馴れ馴れしいか。名前も名乗ってなかったしな」
「い、いえ」
「ごめん。俺、そういうの鈍くて。察しが悪いんだ。紳士らしくしろって、よく怒られるんだ」
と言いながら、雑に自分の髪をかき回している。
「しまった」とか思っていそうだ。表情だけじゃわからないけれど。
一つ大きな深呼吸をして、男の子はまた胸に手をあて、綺麗なお辞儀をした。
「俺の名前はシオン・ヴォルグ。俺たち、『きょうだい』兄妹になるんだ」
「……えっ?」
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