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115.キロヒ、ユミの頑なさを知る
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うなだれたユミの横で、キロヒが静かに立っていると、少し前に露店で見た二人の女の子がやってきた──シテカを連れて。
彼の妹たちだ。二人もここで勉強をしているのだろう。
ユミはシテカを見つけると、ハッとした顔をして突撃していった。シテカは真顔ではあるが、面倒くさそうな気配をうっすら漂わせている。
彼はシテカに何かをまくしたて、一言二言の返事をもらうと、晴れやかな表情で帰っていてこう言った。
「シテカは自分の精霊に"一緒に狩りをしたい"と言ったそうです」
さっきの少女のような、柔らかい希望でなくても精霊の友人になることができる。それを彼は謎精霊に伝えようとしているのだろう。
それもそうだ。キロヒは学園で精霊との関わり方が違う人たちを見て来た。さっきの少女はキロヒ寄り。シテカは攻撃寄りだ。
問題は、謎精霊がどんな人と友人になりたいのか、である。キロヒを窓口にして、あの小さな少女に目をつけた謎精霊の好みは、どちらかと言えば穏健派だと思われる。好奇心はすこぶる旺盛だが。
"それが私と何か関係があるの?"
案の定、ユミは謎精霊に一刀で切り捨てられた。彼はまだ、謎精霊の気持ちが分からず、自分の希望を押し付けようとしている。
「一体……どうすれば……このままでは……」
シテカの妹たちは空いている椅子に座り、シテカはキロヒたちとは離れた位置に立っている。ちらりと連絡板を持ち上げて見せたので確認する。
『ソイツ ドウシタ』
キロヒは、ざっとここまでのあらましを要約して送ると、シテカがしばらくじっと連絡板を眺めていた。
「はーい、みなさん集まってください。勉強を始めますよ」
白いヴェールの神官が現れる。子供たちは椅子に戻ってきて、しばらくざわざわと声が揺れている。
「はい、静かにー」
小さい圧。子供たちがぴたりと騒ぎをやめた。
キロヒは分かった。あの神官の精霊は、上級だ、と。きょとんとしているのは、精霊の友人のいない小さい子が少し。それと最終選考に残っている三人の内の一人が、木の枝を握ったまま地面と向かい合い続けていた。
ほとんどが初級精霊だからこそ、上級との階級差が見事に効く。ラエギーのやり方は、意外とあちこちで使われているのかもしれないと、キロヒはここで気づいた。
町の場合は、精霊の友人が田舎ほど多くはないので、このやり方が成立しないのだろう。
静かに子どもたちの授業を見つめながら、キロヒは一体どうするのが最善なのか考えていた。ユミを悪の道に落とさず、謎精霊の希望の相手を見つける。
ふとキロヒが視線を上げると、真横にシテカが来ていた。あまりに気配がなくて、彼女は心臓が飛び出すのではないかと思うほど驚いたが、とっさに自分の口を手で覆ったので、妙な声をあげずにすんだ。
シテカが、ちょいちょいと指でついてこいとキロヒに告げる。彼女だけついていけばいいのかと思いきや、シテカはユミに近づくと落ち込んだままの彼の肩を叩いて、同じようについてくるように言う。
そのまま広場から神殿の奥に向かうと、昨日キロヒがお邪魔した小さな図書室の建物がある。
しかしシテカはそこには入らずに、足を止めた。授業の邪魔にならないところで話がしたかったのだろう。
「こいつは頭がいい」
シテカはユミに親指を向けて、開口一番褒めた。「当然だ」という顔をしているユミが隣に立っている。
「でも馬鹿だ」
しかし、即座に貶めた。
「シテカ、失礼ですよ」
「こいつは、山で精霊に出会ったことがある」
「え?」
ユミは顔を顰めてシテカを止めようとしたが、かまわず彼はしゃべり続ける。意外な言葉を。
「こいつは、精霊が気に入らなくて無視した。俺は知ってる」
「ええええ?」
「……」
さすがに驚きの声を洩らしながら、キロヒはユミを見た。彼は目をそらした。
ユミはこれまでの短い人生で、まったく精霊に出会えなかったわけではなく、えり好みをした結果だったというのだ。
この事実の公開は、ユミに同情しなくていいと言いたいのか、謎精霊との見合いを成功させようと頑張らなくていいと言いたいのか。いずれにせよ、ユミにとっては不利な話だ。
「……んです」
ぼそぼそと、ユミは言う。よく聞き取れない。
"影だったそうよ"
首を傾げるキロヒに、謎精霊が教えてくれた。
「そうです、黒く長い長い影だったんです……私の影からにょきりと伸びて、私をじっと見ていました。一人ぼっちのお前にはお似合いだと、真っ黒い影に言われた気がしました。エーキウ様は真っ白い雲なのに……。私は黒い影を連れて帰ることができませんでした」
自分が孤独だと認めたくなかったユミ。その反発心により、自分の心に一番近い精霊の手を握れなかったということか。
「精霊を決めつけるな」
「シテカには分かりませんよ、私の気持ちは」
「ああ、分からない」
壊滅的に会話能力の足りていないシテカと、頑ななユミ。シテカはたいして気にしていない態度で、ユミは毛を逆立てた獣のようだ。
"その影……見てみたいわ"
二人の間に割って入ったのは、謎精霊。シテカには聞こえていないが、ユミは敏感に反応した。
「もういるわけないですよ。何年も前の話なのですから」
"そうかしら? 精霊って、死なない限りいるものよ?"
一人と一霊の会話の横で、シテカが首を傾げている。キロヒは連絡板を取り出して、彼に状況を説明したのだった。
彼の妹たちだ。二人もここで勉強をしているのだろう。
ユミはシテカを見つけると、ハッとした顔をして突撃していった。シテカは真顔ではあるが、面倒くさそうな気配をうっすら漂わせている。
彼はシテカに何かをまくしたて、一言二言の返事をもらうと、晴れやかな表情で帰っていてこう言った。
「シテカは自分の精霊に"一緒に狩りをしたい"と言ったそうです」
さっきの少女のような、柔らかい希望でなくても精霊の友人になることができる。それを彼は謎精霊に伝えようとしているのだろう。
それもそうだ。キロヒは学園で精霊との関わり方が違う人たちを見て来た。さっきの少女はキロヒ寄り。シテカは攻撃寄りだ。
問題は、謎精霊がどんな人と友人になりたいのか、である。キロヒを窓口にして、あの小さな少女に目をつけた謎精霊の好みは、どちらかと言えば穏健派だと思われる。好奇心はすこぶる旺盛だが。
"それが私と何か関係があるの?"
案の定、ユミは謎精霊に一刀で切り捨てられた。彼はまだ、謎精霊の気持ちが分からず、自分の希望を押し付けようとしている。
「一体……どうすれば……このままでは……」
シテカの妹たちは空いている椅子に座り、シテカはキロヒたちとは離れた位置に立っている。ちらりと連絡板を持ち上げて見せたので確認する。
『ソイツ ドウシタ』
キロヒは、ざっとここまでのあらましを要約して送ると、シテカがしばらくじっと連絡板を眺めていた。
「はーい、みなさん集まってください。勉強を始めますよ」
白いヴェールの神官が現れる。子供たちは椅子に戻ってきて、しばらくざわざわと声が揺れている。
「はい、静かにー」
小さい圧。子供たちがぴたりと騒ぎをやめた。
キロヒは分かった。あの神官の精霊は、上級だ、と。きょとんとしているのは、精霊の友人のいない小さい子が少し。それと最終選考に残っている三人の内の一人が、木の枝を握ったまま地面と向かい合い続けていた。
ほとんどが初級精霊だからこそ、上級との階級差が見事に効く。ラエギーのやり方は、意外とあちこちで使われているのかもしれないと、キロヒはここで気づいた。
町の場合は、精霊の友人が田舎ほど多くはないので、このやり方が成立しないのだろう。
静かに子どもたちの授業を見つめながら、キロヒは一体どうするのが最善なのか考えていた。ユミを悪の道に落とさず、謎精霊の希望の相手を見つける。
ふとキロヒが視線を上げると、真横にシテカが来ていた。あまりに気配がなくて、彼女は心臓が飛び出すのではないかと思うほど驚いたが、とっさに自分の口を手で覆ったので、妙な声をあげずにすんだ。
シテカが、ちょいちょいと指でついてこいとキロヒに告げる。彼女だけついていけばいいのかと思いきや、シテカはユミに近づくと落ち込んだままの彼の肩を叩いて、同じようについてくるように言う。
そのまま広場から神殿の奥に向かうと、昨日キロヒがお邪魔した小さな図書室の建物がある。
しかしシテカはそこには入らずに、足を止めた。授業の邪魔にならないところで話がしたかったのだろう。
「こいつは頭がいい」
シテカはユミに親指を向けて、開口一番褒めた。「当然だ」という顔をしているユミが隣に立っている。
「でも馬鹿だ」
しかし、即座に貶めた。
「シテカ、失礼ですよ」
「こいつは、山で精霊に出会ったことがある」
「え?」
ユミは顔を顰めてシテカを止めようとしたが、かまわず彼はしゃべり続ける。意外な言葉を。
「こいつは、精霊が気に入らなくて無視した。俺は知ってる」
「ええええ?」
「……」
さすがに驚きの声を洩らしながら、キロヒはユミを見た。彼は目をそらした。
ユミはこれまでの短い人生で、まったく精霊に出会えなかったわけではなく、えり好みをした結果だったというのだ。
この事実の公開は、ユミに同情しなくていいと言いたいのか、謎精霊との見合いを成功させようと頑張らなくていいと言いたいのか。いずれにせよ、ユミにとっては不利な話だ。
「……んです」
ぼそぼそと、ユミは言う。よく聞き取れない。
"影だったそうよ"
首を傾げるキロヒに、謎精霊が教えてくれた。
「そうです、黒く長い長い影だったんです……私の影からにょきりと伸びて、私をじっと見ていました。一人ぼっちのお前にはお似合いだと、真っ黒い影に言われた気がしました。エーキウ様は真っ白い雲なのに……。私は黒い影を連れて帰ることができませんでした」
自分が孤独だと認めたくなかったユミ。その反発心により、自分の心に一番近い精霊の手を握れなかったということか。
「精霊を決めつけるな」
「シテカには分かりませんよ、私の気持ちは」
「ああ、分からない」
壊滅的に会話能力の足りていないシテカと、頑ななユミ。シテカはたいして気にしていない態度で、ユミは毛を逆立てた獣のようだ。
"その影……見てみたいわ"
二人の間に割って入ったのは、謎精霊。シテカには聞こえていないが、ユミは敏感に反応した。
「もういるわけないですよ。何年も前の話なのですから」
"そうかしら? 精霊って、死なない限りいるものよ?"
一人と一霊の会話の横で、シテカが首を傾げている。キロヒは連絡板を取り出して、彼に状況を説明したのだった。
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