1 / 15
第一章 悪役令嬢と女神様
1
しおりを挟む
美しい王家所有の庭でのガーデンパーティー。
優雅であるそこで似合わない甲高い声が響いた。
「きゃあああっ!!」
滅多にない出来事に声の元に視線が集まる。
そこでは二人の少女が対峙していた。
片方はシルヴィラ・ヴァンクリーフ嬢。手入れされた銀糸の髪、輝きのあるアメジストの瞳。人形ではないかと錯覚するほどの美貌に視線の主らは息を飲んだ。その時ばかりはパーティー恒例であろう婦人方のお喋りも止んでいた。
静まり返ったそこで、もう片方の少女、シャルロット・フィレンツェ嬢が再び口を開く。再びというのは先程の悲鳴は彼女のものだったからである。
「シルヴィラ様、違うのです。これは…!」
桃色のふわふわとした髪、アクアマリンの瞳。
可愛らしい印象の彼女は芝生に座り込んでシルヴィラに訴える。くりくりとした瞳を潤ませる姿は見る者の母性本能をくすぐった。
そんな彼女にシルヴィラは氷の女神も凍えるような視線を向ける。
「何が違うというの?殿下には貴女のような方は似合わないのは目に見えているじゃない」
シャルロットが涙を堪えているとシルヴィラはそれを嘲笑した。
「いやだわ、礼儀のなっていない人は。そんなことも分からないだなんて」
誰も助けることもしなかった。いや違うか。誰も助けることすら出来なかった。エスコートもお喋りも足の痛みも全部忘れ、誰もが棒立ちしていた。
それでもシルヴィラは続ける。それはまるで、演劇かなにかの一場面のようだった。
「分かったら、早急に親に頼んで礼儀の『れ』の字から教えて頂いたらどうかしら。
…あぁ、頼むのが恥ずかしいのなら私から話しても良いけれど?」
顔を紅に染めたシャルロットは消え入りそうな声を出し、出口へと歩き出した。
「か、帰ります…っ」
自分のせいで家に泥を塗られたのだ。教育も出来ない家庭だと口外で蔑まれたのだ。箱入りお嬢様なのだから、声が出ただけでも上出来だろう。
そんな彼女を見、シルヴィラは誰もが見惚れる笑顔で言う。忙しなく去っていくシャルロットと反対に、周りから溜め息が零れるほど優雅に。
「えぇ、その方がいいわ」
シルヴィラとシャルロット。
これは、これから何度となく顔をあわせることになる二人の、初めての会話であった。
。。。
可愛らしい少女が出口に向かうのを見送り、私ーシルヴィラ・ヴァンクリーフは青ざめる。
優雅に、と心掛けてはいたけれど、脳内で思考が暴れまわっていたので出来ているかは分からない。ついでに、これは現在進行形である。
私は会場を見渡して言う。
「お騒がせして申し訳ありません。どうぞパーティーを再開なさって下さい」
そう言うと今まで止まっていた時間がまた動き出した。それだけ異様な雰囲気を作り出していたのか。ごめん、変なパーティーにしちゃって。人々が先程忘れ去っていたことを思いだし、動き出した。
婦人方がお喋りを再開し、再び情報が行き交う。青年らがお嬢様方に囲まれる。笑顔が飛び交う。それを見計らって私は会場の壁の隅に移動した。いわゆる壁の花だ。
ほぅ、と嘆息をついて私は脳内で悶えた。本当は全身全霊で悶えたい気分だが、そうもいかない。
あぁっ、私の中の二つの性格がつい顔を出してしまった!!こんな大事にする気はさらさら無かったのだ。元々目立つのは嫌いだから、あの子が悲鳴さえあげなければちょっとした助言で済んだのに。
悲鳴だって不可抗力だ。私は何もしていない。後ずさった彼女が勝手に自らのドレスの裾を踏んで転んだだけなのだ。
これから両親に事の顛末を説明しなければいけないと思うと、頭がいたい。きっと悪いように伝わっている。私がか弱い女の子を泣かしたとか。お嬢様としての自覚を持てだの、後始末をする周りの身にもなれだの。理不尽に怒られるなんてごめんだ。冗談じゃない。元々つり目気味で悪役顔だからってなんで悪役にならないといけないのだ。
「シルヴィラ、すごく目立ってた」
あぁもう。
社交界デビューなんてするんじゃなかった。
今日は私の社交界デビューのパーティーだったのだ。ガーデンというのがあれだけど、国王主催だし丁度良いとお母様が話していた。それを台無しにしてしまったのは申し訳ないが私は今12歳。社交界デビューにしてはちょっと早い方である。…特にすることもないし交流を広げて置こうなんて柄でもないこと考えるんじゃなかった。
「憂いの君、僕と来てくれませんか?」
しかし、落ち込む要素はそれだけではない。
先程の私とあの子の会話はゲームのオープニングだからだ。私は既に乙女ゲームのシナリオに片足を突っ込んでいるということになる。急いで、情報の整理を行わねば。
「おーい、殿下がお呼びだぞー?」
私は雑音を総スルーして情報整理に精を出すことにした。
優雅であるそこで似合わない甲高い声が響いた。
「きゃあああっ!!」
滅多にない出来事に声の元に視線が集まる。
そこでは二人の少女が対峙していた。
片方はシルヴィラ・ヴァンクリーフ嬢。手入れされた銀糸の髪、輝きのあるアメジストの瞳。人形ではないかと錯覚するほどの美貌に視線の主らは息を飲んだ。その時ばかりはパーティー恒例であろう婦人方のお喋りも止んでいた。
静まり返ったそこで、もう片方の少女、シャルロット・フィレンツェ嬢が再び口を開く。再びというのは先程の悲鳴は彼女のものだったからである。
「シルヴィラ様、違うのです。これは…!」
桃色のふわふわとした髪、アクアマリンの瞳。
可愛らしい印象の彼女は芝生に座り込んでシルヴィラに訴える。くりくりとした瞳を潤ませる姿は見る者の母性本能をくすぐった。
そんな彼女にシルヴィラは氷の女神も凍えるような視線を向ける。
「何が違うというの?殿下には貴女のような方は似合わないのは目に見えているじゃない」
シャルロットが涙を堪えているとシルヴィラはそれを嘲笑した。
「いやだわ、礼儀のなっていない人は。そんなことも分からないだなんて」
誰も助けることもしなかった。いや違うか。誰も助けることすら出来なかった。エスコートもお喋りも足の痛みも全部忘れ、誰もが棒立ちしていた。
それでもシルヴィラは続ける。それはまるで、演劇かなにかの一場面のようだった。
「分かったら、早急に親に頼んで礼儀の『れ』の字から教えて頂いたらどうかしら。
…あぁ、頼むのが恥ずかしいのなら私から話しても良いけれど?」
顔を紅に染めたシャルロットは消え入りそうな声を出し、出口へと歩き出した。
「か、帰ります…っ」
自分のせいで家に泥を塗られたのだ。教育も出来ない家庭だと口外で蔑まれたのだ。箱入りお嬢様なのだから、声が出ただけでも上出来だろう。
そんな彼女を見、シルヴィラは誰もが見惚れる笑顔で言う。忙しなく去っていくシャルロットと反対に、周りから溜め息が零れるほど優雅に。
「えぇ、その方がいいわ」
シルヴィラとシャルロット。
これは、これから何度となく顔をあわせることになる二人の、初めての会話であった。
。。。
可愛らしい少女が出口に向かうのを見送り、私ーシルヴィラ・ヴァンクリーフは青ざめる。
優雅に、と心掛けてはいたけれど、脳内で思考が暴れまわっていたので出来ているかは分からない。ついでに、これは現在進行形である。
私は会場を見渡して言う。
「お騒がせして申し訳ありません。どうぞパーティーを再開なさって下さい」
そう言うと今まで止まっていた時間がまた動き出した。それだけ異様な雰囲気を作り出していたのか。ごめん、変なパーティーにしちゃって。人々が先程忘れ去っていたことを思いだし、動き出した。
婦人方がお喋りを再開し、再び情報が行き交う。青年らがお嬢様方に囲まれる。笑顔が飛び交う。それを見計らって私は会場の壁の隅に移動した。いわゆる壁の花だ。
ほぅ、と嘆息をついて私は脳内で悶えた。本当は全身全霊で悶えたい気分だが、そうもいかない。
あぁっ、私の中の二つの性格がつい顔を出してしまった!!こんな大事にする気はさらさら無かったのだ。元々目立つのは嫌いだから、あの子が悲鳴さえあげなければちょっとした助言で済んだのに。
悲鳴だって不可抗力だ。私は何もしていない。後ずさった彼女が勝手に自らのドレスの裾を踏んで転んだだけなのだ。
これから両親に事の顛末を説明しなければいけないと思うと、頭がいたい。きっと悪いように伝わっている。私がか弱い女の子を泣かしたとか。お嬢様としての自覚を持てだの、後始末をする周りの身にもなれだの。理不尽に怒られるなんてごめんだ。冗談じゃない。元々つり目気味で悪役顔だからってなんで悪役にならないといけないのだ。
「シルヴィラ、すごく目立ってた」
あぁもう。
社交界デビューなんてするんじゃなかった。
今日は私の社交界デビューのパーティーだったのだ。ガーデンというのがあれだけど、国王主催だし丁度良いとお母様が話していた。それを台無しにしてしまったのは申し訳ないが私は今12歳。社交界デビューにしてはちょっと早い方である。…特にすることもないし交流を広げて置こうなんて柄でもないこと考えるんじゃなかった。
「憂いの君、僕と来てくれませんか?」
しかし、落ち込む要素はそれだけではない。
先程の私とあの子の会話はゲームのオープニングだからだ。私は既に乙女ゲームのシナリオに片足を突っ込んでいるということになる。急いで、情報の整理を行わねば。
「おーい、殿下がお呼びだぞー?」
私は雑音を総スルーして情報整理に精を出すことにした。
2
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる