乙女ゲームの悪役令嬢だけど今日からモブに徹します。

あやとり

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第一章 悪役令嬢と女神様

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 美しい王家所有の庭でのガーデンパーティー。
 優雅であるそこで似合わない甲高い声が響いた。
「きゃあああっ!!」

 滅多にない出来事に声の元に視線が集まる。
 そこでは二人の少女が対峙していた。
 片方はシルヴィラ・ヴァンクリーフ嬢。手入れされた銀糸の髪、輝きのあるアメジストの瞳。人形ではないかと錯覚するほどの美貌に視線の主らは息を飲んだ。その時ばかりはパーティー恒例であろう婦人方のお喋りも止んでいた。
 静まり返ったそこで、もう片方の少女、シャルロット・フィレンツェ嬢が再び口を開く。再びというのは先程の悲鳴は彼女のものだったからである。

「シルヴィラ様、違うのです。これは…!」

 桃色のふわふわとした髪、アクアマリンの瞳。
 可愛らしい印象の彼女は芝生に座り込んでシルヴィラに訴える。くりくりとした瞳を潤ませる姿は見る者の母性本能をくすぐった。
 そんな彼女にシルヴィラは氷の女神も凍えるような視線を向ける。

「何が違うというの?殿下には貴女のような方は似合わないのは目に見えているじゃない」

 シャルロットが涙を堪えているとシルヴィラはそれを嘲笑した。

「いやだわ、礼儀のなっていない人は。そんなことも分からないだなんて」

 誰も助けることもしなかった。いや違うか。誰も助けることすら出来なかった。エスコートもお喋りも足の痛みも全部忘れ、誰もが棒立ちしていた。
 それでもシルヴィラは続ける。それはまるで、演劇かなにかの一場面のようだった。

「分かったら、早急に親に頼んで礼儀の『れ』の字から教えて頂いたらどうかしら。
…あぁ、頼むのが恥ずかしいのならわたくしから話しても良いけれど?」

 顔を紅に染めたシャルロットは消え入りそうな声を出し、出口へと歩き出した。

「か、帰ります…っ」

 自分のせいで家に泥を塗られたのだ。教育も出来ない家庭だと口外で蔑まれたのだ。箱入りお嬢様なのだから、声が出ただけでも上出来だろう。
 そんな彼女を見、シルヴィラは誰もが見惚れる笑顔で言う。忙しなく去っていくシャルロットと反対に、周りから溜め息が零れるほど優雅に。

「えぇ、その方がいいわ」

 シルヴィラとシャルロット。
 これは、これから何度となく顔をあわせることになる二人の、初めての会話であった。

。。。

 可愛らしい少女が出口に向かうのを見送り、私ーシルヴィラ・ヴァンクリーフは青ざめる。
 優雅に、と心掛けてはいたけれど、脳内で思考が暴れまわっていたので出来ているかは分からない。ついでに、これは現在進行形である。
 私は会場を見渡して言う。

「お騒がせして申し訳ありません。どうぞパーティーを再開なさって下さい」

 そう言うと今まで止まっていた時間がまた動き出した。それだけ異様な雰囲気を作り出していたのか。ごめん、変なパーティーにしちゃって。人々が先程忘れ去っていたことを思いだし、動き出した。
 婦人方がお喋りを再開し、再び情報が行き交う。青年らがお嬢様方に囲まれる。笑顔が飛び交う。それを見計らって私は会場の壁の隅に移動した。いわゆる壁の花だ。
 ほぅ、と嘆息をついて私は脳内で悶えた。本当は全身全霊で悶えたい気分だが、そうもいかない。
 あぁっ、私の中の二つの性格がつい顔を出してしまった!!こんな大事にする気はさらさら無かったのだ。元々目立つのは嫌いだから、あの子が悲鳴さえあげなければちょっとした助言で済んだのに。
 悲鳴だって不可抗力だ。私は何もしていない。後ずさった彼女が勝手に自らのドレスの裾を踏んで転んだだけなのだ。
 これから両親に事の顛末を説明しなければいけないと思うと、頭がいたい。きっと悪いように伝わっている。私がか弱い女の子を泣かしたとか。お嬢様としての自覚を持てだの、後始末をする周りの身にもなれだの。理不尽に怒られるなんてごめんだ。冗談じゃない。元々つり目気味で悪役顔だからってなんで悪役にならないといけないのだ。

「シルヴィラ、すごく目立ってた」

 あぁもう。
 社交界デビューなんてするんじゃなかった。
 今日は私の社交界デビューのパーティーだったのだ。ガーデンというのがあれだけど、国王主催だし丁度良いとお母様が話していた。それを台無しにしてしまったのは申し訳ないが私は今12歳。社交界デビューにしてはちょっと早い方である。…特にすることもないし交流を広げて置こうなんて柄でもないこと考えるんじゃなかった。

「憂いの君、僕と来てくれませんか?」

 しかし、落ち込む要素はそれだけではない。
 先程の私とあの子の会話はゲームのオープニングだからだ。私は既に乙女ゲームのシナリオに片足を突っ込んでいるということになる。急いで、情報の整理を行わねば。

「おーい、殿下がお呼びだぞー?」

 私は雑音を総スルーして情報整理に精を出すことにした。
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