乙女ゲームの悪役令嬢だけど今日からモブに徹します。

あやとり

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第一章 悪役令嬢と女神様

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※誤字訂正させていただきました
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 情報整理と言って最初に思い浮かんだのは、私の中には二人分の記憶があるということだ。突飛な話だが、真実なので仕方がない。一つはこのシルヴィラ・ヴァンクリーフとしての記憶。
 もう一つは高校生?という職業の少女の記憶。後者はとりあえず私の前世だと仮定している。記憶と言っても曖昧で、家族とか友達とかそんなことすら覚えていない。だから今まで大して気にしなかった。変な長い夢、程度の認識だった。しかし、先程の私と少女の対話で私は既視感を抱いていた。
 それがこの前世の記憶と関係していると気づいたのはついさっきである。

 この世界は私が前世でドハマりしていた、乙女ゲーム『七色プリンス◇魔法学校でドキドキ恋愛』ー略して七プリーの世界だったのだ。
 既視感を抱いていた対話は、スキップ不可能なゲームのオープニングで、覚えるほど見たシーンである。何故このゲームの内容だけキレイに覚えているのかは謎だが、きっと記憶があったことで良いこともあるだろう。
 とりあえず、このゲームの内容を大まかに考えることにする。
 これは恋愛シミュレーションゲームで主人公が魔法学校で出会う男らと恋愛をする内容だ。主人公は先程の桃色の髪の少女。名前はシャルロット、だった気がする。なんと言うか、ザ・王道という感じでありふれたキャラクターなので名前すらうろ覚えだ。性名なんて全く分からない。
 それから、何故か主人公が出会う男らは全員、顔よし家柄よしでハイスペックな方々で全部で題名の通り七色もとい七人いる。七色というのはキャラクターごとにイメージカラーが決まっているから。大体は髪の色に由来する。
 そして七人のルート全てで悪役として登場するのが私、シルヴィラ・ヴァンクリーフである。正直、攻略対象よりよっぽど出てくる。なんか主人公の恋愛をことごとく妨害しまくるけど、結局は自分が破滅する女の子だ。バカすぎて逆に愛着がわいたのを覚えている。全ルート見たがこの子にとってのハッピーエンドは残念ながら無かった。
 …うん、大体こんな感じだろうか。

 あぁ、もう一つあった。このゲーム最大の特徴。それは攻略対象同士の関係が細かく設定されていること。
 攻略対象同士がライバルだったり忌み嫌っていたり親友だったり…。一見関係無さげな選択肢が実は重要な選択だったりする。その難しさはファンから「一周目はバッドエンド回避不可能」と言われるほどである。
 そしてこれが私がドハマりした原因だ。

 白状するが、私は極度のBL-ボーイズラブ好きで、それは前世だろうが現世だろうが関係ない。好きなものはどんな環境で育っても好きになるものらしい。そんな私は主人公と攻略対象の恋愛を楽しむのではなく、持ち前の想像力を駆使して攻略対象同士の恋愛について想像して楽しんでいた。
 前世の記憶云々の前に既に殿下と騎士団長の息子の恋愛とか想像していたから、なんとなく親近感がわく。ていうか、性格全然変わってないんじゃないだろうか。
 うん、これで大丈夫だろう。
 で、情報整理の結論。
 前世とか現世とか関係無かった。私は私だった。

 ということで、今まで通り人生楽しんでいこうと思う。私は改めて皆の恋愛を生暖かく見守っていこう、と決意した。願わくばクラスメイトEとか店員Cとか。名前すらないが物語を一番近い所で見れる人。そんな人になりたい。

「ーーヴィラ、シルヴィラ!!」

 はいっ!!なんでしょう!?
 いきなり怒鳴り声に近い音量で呼ばれ一気に現実に引き戻される。
 声の主は幼なじみのロラン・ディアモールだろう。茶髪黒目の特徴がないのが特徴、みたいな男子である。
 そして、目の前に居たのはイケメン二人とモブ一人だった。イケメン二人は乙女ゲームでは攻略対象だ。モブは論外である。ゲームの中では登場すらしない。ついでにモブはロランである。ドンマイ、ロラン。

「大丈夫かい?体調が優れないのかな?」

 そう言って私の顔を覗きこむ第一のイケメン。
 顔近っっ、…じゃなくて、この方はこの国の第二王子、ノワール・R・クリフォード。彼は第二王位継承者であるが、彼は次期王だと言われている。だって、第一王位継承者である第一王子が清々しい程に王様になる気ゼロだから。
 黒曜石の輝きを放つ髪と瞳。癖っ毛でピョコピョコとした髪型は愛嬌を感じさせる。イメージカラーは黒。公式の場では大人びた口調を使うが、まだ私と同じ12歳である。スッとした真面目キャラっぽい見た目。しかし、性格は真っ黒である。腹黒なんて言葉じゃ物足りない。もう頭の中まで黒いと思う。そしてこの真っ黒々助、私の婚約者である。

「だっ、大丈夫です。すみません…まだ空気に慣れなくて」

 距離感に驚いた私は咄嗟に目を伏せた。ノワールさん、近すぎです。
 これでもどんな花よりも愛でられ大切に育てられたのだ。当然、男性に対する耐性はとてつもなく少ない。
 そんな私を見て第二のイケメン、もといブライアン・ヴァンクリーフはふわりと笑った。

「初めてだもん、仕方ないよ。…ゆっくり慣れていけば良い」

 この人、名前から分かる通り私の血縁者で兄である。
 私と同じ銀糸の髪に私と違う抹茶色の瞳。抹茶というのは極東の国の飲み物で最近知ったものだけれど、お兄様の瞳はその例えがぴったりな気がした。少し垂れ目な彼の目下のホクロには何だか色気が感じられる。さらさらとした髪は風によくなびいて軽そうだ。もう少し肩幅が狭くて身長が低かったら女の子と言っても皆が納得する容姿だと思っている。イメージカラーは銀ではなく白。銀は私だ。
 私の瞳はお父様とお揃いで、お兄様の瞳はお母様とお揃いだ。元々私の家系は色素が薄いらしく、ふわふわとした雰囲気がある。だからよくナメられるが、実は王家の次に力のある家だ。
 そんな家の跡継ぎでありイケメンなお兄様は今年18歳。結婚を考えなければいけない時期だが、相変わらずのらりくらりとしている。お見合い話は大量に来ているのに、とお母様がぼやいていた。やる気ゼロが当然の無気力属性の彼だが勘違いしないでほしい。仕事はできる人なのだ。いつも最低限しかやらないだけで。

「そんなことより、シルヴィラ」

 お兄様が口を開く。悲しいことに内容が予想できる。

「父様と母様が呼んでるから一緒にいこう?」

 あぁ、予想が当たってしまった。嬉しくない。しかし、断る理由なんて誰もくれないだろう。

「わかりました」

 私は主催者の立場であろうノワール様に一礼し、はたと気づく。今までロランが空気だった。いや、今も空気なんだけれど。ロランはすごく存在感が薄い体質なんだろうか。私はそんな彼をやっと思い出し、そして尊敬した。
 素晴らしい…!!
 その一言だった。
 私が目指しているポジションに彼はいた。話には入らない。居ても居なくても物語が進む。完璧じゃないか。
 そこで気づく。あぁ、そうか。私はモブになりたかったのだ。
 なる事はすぐには出来ないだろうが、徹するくらいは許されるだろう。
 できるだけ人と会話せず、大衆的な意見や格好を勉強していこう。
 そしていつか、モブ道を極めよう。

 先に歩き出したお兄様の後ろを歩きながら、私は強く決意した。
 これは私の人生だ。つまり悪役令嬢だとかは一切関係ない。

 このシルヴィラ・ヴァンクリーフ、今日からモブに徹します。
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