4 / 15
第一章 悪役令嬢と女神様
4
しおりを挟む
ロランは王子に小部屋を借りて、休んでいるそうだ。なんでも婦人方の香水の匂いに酔ったらしい。こういう何か起こりそうなパーティーで姿を見せないこともモブとして大事なことなんだろうか。もう起きたあとだから関係ない気がするけど。
ミシェルに案内してもらってその小部屋に向かう。そもそもミシェルは私をロランの元へ案内するために私の所に来たそうだ。
「もう、シルヴィラちゃんは常識がないんだから、足りないおつむを使って考えないと。いつもフル回転してるくらいが丁度いいと思うの」
ミシェルは相変わらず黒い笑みを浮かべ嫌味の雨を降り注いでくる。やめて!私のライフはもうゼロよ!いや、心の中で体力ないって嘲ったことは認めるけど。でも心の中だし、いつもの悪ふざけだし。まぁ嫌味もいつものことだと言われたら返す言葉もない。うぅ、なんだか一生ミシェルには勝てる気がしない。
ロランがいるという部屋に、私は倒れるように転がり込んだ。自分のライフが残りわずかだから立っているのがツライこともあるが、一番大きな理由はロランが心配だからである。本人には言わないけれど。
「ロラン、生きてるー?」
まずは生死の確認だ。
「…」
「…」
返事はない。ただの屍のようだ。え、死んでないよね?いくらモブとはいえ流石にこんな地味な終わり方する人生なんてない…よね?少し焦りながら私は部屋を見渡す。程無くして私はロランを見つけた。小部屋で見渡すのに時間がかからないことに心底安堵している自分がいた。居るか居ないかすぐわかる。
それは部屋の片隅だった。そこにはぐったりとしたロラン…ではなく、一人チェス板に向かうロランがいた。
「…お前なにやってんの」
いやまぁ元気そうでなによりだけど。なによりだけど、パーティー出ろよ。心配して損したじゃないか。
「ここはf4か?いや、裏をかいてこいつをe5に…いや、やはりg5だな」
ロランはぶつぶつと意味不明な言葉を発しながら駒を動かしている。なにか精神的な病気にかかったのだろうか。それとも、ファンタジー世界あるあるの一つ、『脇役の一人は何かに取りつかれる』のように取りつかれている!?だったら祓わないと…でも祓うなんてどうすればいいのか分からないし…。そもそもロランが脇役ならモブの極意を誰に教えてもらえば…。あたふたと必死に思考を重ねていたそのとき、天使の声が響いた。
「ロランって、時々気持ち悪いよね~」
神々しくも愛らしい声。内容は神のごとく辛辣で残酷。ミシェルの言葉である。
私とロランの目は彼女の顔に惹き付けられる。それが当然とでもいうように。
口元は緩やかな弧を描き、見事なアルカイックスマイルを作り出している。
…本気で女神かと思った。
その声でやっと私たちに気づいたロランは声にならない悲鳴を上げて後ずさろうとした。私が何度声をかけても反応しなかった癖になんでミシェルだと一回で反応するの。ミシェル大好きかよ。あ、後ずされなかったのは私たちが悪いのではなく、そもそも後ろは壁であったからである。
「な、ななななんで、ここに!?」
この人はふざけているんじゃないだろうか。
「そんなの決まっているでしょう」
私は怒りに任せて両手を上げた。
「もしかして俺を心配して…!?」
すると何を思ったのかロランはときめいたように口元をおさえる。本当だ、ミシェルの言う通りこの人って結構気持ち悪い。それは女の子の仕草だろう。
「あんたにモブの極意を習いに来たのよ!!」
私は両手を上げたままドヤ顔で宣伝し、それから両手を下げながら土下座の体制になる。
「お願いロラン、私をモブにして」
今度はロランがこいつって結構気持ち悪いと思う番だった。そうは言っても私は本気だ。音楽のことを音楽家に聞くのと同じように、モブのことはモブに聞くのが手っ取り早い。
「だから、シルヴィラちゃん」
「あのさ、シルヴィラ」
私の前と後ろで同じように声がした。
「「モブって、なに?」」
ん?モブを知らない…だと!?
私は驚きに満ちた顔を上げた。
ミシェルに案内してもらってその小部屋に向かう。そもそもミシェルは私をロランの元へ案内するために私の所に来たそうだ。
「もう、シルヴィラちゃんは常識がないんだから、足りないおつむを使って考えないと。いつもフル回転してるくらいが丁度いいと思うの」
ミシェルは相変わらず黒い笑みを浮かべ嫌味の雨を降り注いでくる。やめて!私のライフはもうゼロよ!いや、心の中で体力ないって嘲ったことは認めるけど。でも心の中だし、いつもの悪ふざけだし。まぁ嫌味もいつものことだと言われたら返す言葉もない。うぅ、なんだか一生ミシェルには勝てる気がしない。
ロランがいるという部屋に、私は倒れるように転がり込んだ。自分のライフが残りわずかだから立っているのがツライこともあるが、一番大きな理由はロランが心配だからである。本人には言わないけれど。
「ロラン、生きてるー?」
まずは生死の確認だ。
「…」
「…」
返事はない。ただの屍のようだ。え、死んでないよね?いくらモブとはいえ流石にこんな地味な終わり方する人生なんてない…よね?少し焦りながら私は部屋を見渡す。程無くして私はロランを見つけた。小部屋で見渡すのに時間がかからないことに心底安堵している自分がいた。居るか居ないかすぐわかる。
それは部屋の片隅だった。そこにはぐったりとしたロラン…ではなく、一人チェス板に向かうロランがいた。
「…お前なにやってんの」
いやまぁ元気そうでなによりだけど。なによりだけど、パーティー出ろよ。心配して損したじゃないか。
「ここはf4か?いや、裏をかいてこいつをe5に…いや、やはりg5だな」
ロランはぶつぶつと意味不明な言葉を発しながら駒を動かしている。なにか精神的な病気にかかったのだろうか。それとも、ファンタジー世界あるあるの一つ、『脇役の一人は何かに取りつかれる』のように取りつかれている!?だったら祓わないと…でも祓うなんてどうすればいいのか分からないし…。そもそもロランが脇役ならモブの極意を誰に教えてもらえば…。あたふたと必死に思考を重ねていたそのとき、天使の声が響いた。
「ロランって、時々気持ち悪いよね~」
神々しくも愛らしい声。内容は神のごとく辛辣で残酷。ミシェルの言葉である。
私とロランの目は彼女の顔に惹き付けられる。それが当然とでもいうように。
口元は緩やかな弧を描き、見事なアルカイックスマイルを作り出している。
…本気で女神かと思った。
その声でやっと私たちに気づいたロランは声にならない悲鳴を上げて後ずさろうとした。私が何度声をかけても反応しなかった癖になんでミシェルだと一回で反応するの。ミシェル大好きかよ。あ、後ずされなかったのは私たちが悪いのではなく、そもそも後ろは壁であったからである。
「な、ななななんで、ここに!?」
この人はふざけているんじゃないだろうか。
「そんなの決まっているでしょう」
私は怒りに任せて両手を上げた。
「もしかして俺を心配して…!?」
すると何を思ったのかロランはときめいたように口元をおさえる。本当だ、ミシェルの言う通りこの人って結構気持ち悪い。それは女の子の仕草だろう。
「あんたにモブの極意を習いに来たのよ!!」
私は両手を上げたままドヤ顔で宣伝し、それから両手を下げながら土下座の体制になる。
「お願いロラン、私をモブにして」
今度はロランがこいつって結構気持ち悪いと思う番だった。そうは言っても私は本気だ。音楽のことを音楽家に聞くのと同じように、モブのことはモブに聞くのが手っ取り早い。
「だから、シルヴィラちゃん」
「あのさ、シルヴィラ」
私の前と後ろで同じように声がした。
「「モブって、なに?」」
ん?モブを知らない…だと!?
私は驚きに満ちた顔を上げた。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる