乙女ゲームの悪役令嬢だけど今日からモブに徹します。

あやとり

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第一章 悪役令嬢と女神様

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 ロランは王子に小部屋を借りて、休んでいるそうだ。なんでも婦人方の香水の匂いに酔ったらしい。こういう何か起こりそうなパーティーで姿を見せないこともモブとして大事なことなんだろうか。もう起きたあとだから関係ない気がするけど。
 ミシェルに案内してもらってその小部屋に向かう。そもそもミシェルは私をロランの元へ案内するために私の所に来たそうだ。

「もう、シルヴィラちゃんは常識がないんだから、足りないおつむを使って考えないと。いつもフル回転してるくらいが丁度いいと思うの」

 ミシェルは相変わらず黒い笑みを浮かべ嫌味の雨を降り注いでくる。やめて!私のライフはもうゼロよ!いや、心の中で体力ないってわらったことは認めるけど。でも心の中だし、いつもの悪ふざけだし。まぁ嫌味もいつものことだと言われたら返す言葉もない。うぅ、なんだか一生ミシェルには勝てる気がしない。
 ロランがいるという部屋に、私は倒れるように転がり込んだ。自分のライフが残りわずかだから立っているのがツライこともあるが、一番大きな理由はロランが心配だからである。本人には言わないけれど。

「ロラン、生きてるー?」

 まずは生死の確認だ。

「…」
「…」

 返事はない。ただの屍のようだ。え、死んでないよね?いくらモブとはいえ流石にこんな地味な終わり方する人生なんてない…よね?少し焦りながら私は部屋を見渡す。程無くして私はロランを見つけた。小部屋で見渡すのに時間がかからないことに心底安堵している自分がいた。居るか居ないかすぐわかる。
 それは部屋の片隅だった。そこにはぐったりとしたロラン…ではなく、一人チェス板に向かうロランがいた。

「…お前なにやってんの」

 いやまぁ元気そうでなによりだけど。なによりだけど、パーティー出ろよ。心配して損したじゃないか。

「ここはf4か?いや、裏をかいてこいつをe5に…いや、やはりg5だな」

 ロランはぶつぶつと意味不明な言葉を発しながら駒を動かしている。なにか精神的な病気にかかったのだろうか。それとも、ファンタジー世界あるあるの一つ、『脇役の一人は何かに取りつかれる』のように取りつかれている!?だったら祓わないと…でも祓うなんてどうすればいいのか分からないし…。そもそもロランが脇役ならモブの極意を誰に教えてもらえば…。あたふたと必死に思考を重ねていたそのとき、天使の声が響いた。

「ロランって、時々気持ち悪いよね~」

 神々しくも愛らしい声。内容は神のごとく辛辣で残酷。ミシェルの言葉である。
 私とロランの目は彼女の顔に惹き付けられる。それが当然とでもいうように。
 口元は緩やかな弧を描き、見事なアルカイックスマイルを作り出している。
 …本気で女神かと思った。
 その声でやっと私たちに気づいたロランは声にならない悲鳴を上げて後ずさろうとした。私が何度声をかけても反応しなかった癖になんでミシェルだと一回で反応するの。ミシェル大好きかよ。あ、後ずされなかったのは私たちが悪いのではなく、そもそも後ろは壁であったからである。

「な、ななななんで、ここに!?」

  この人はふざけているんじゃないだろうか。

「そんなの決まっているでしょう」

 私は怒りに任せて両手を上げた。

「もしかして俺を心配して…!?」

すると何を思ったのかロランはときめいたように口元をおさえる。本当だ、ミシェルの言う通りこの人って結構気持ち悪い。それは女の子の仕草だろう。

「あんたにモブの極意を習いに来たのよ!!」

 私は両手を上げたままドヤ顔で宣伝し、それから両手を下げながら土下座の体制になる。

「お願いロラン、私をモブにして」

 今度はロランがこいつって結構気持ち悪いと思う番だった。そうは言っても私は本気だ。音楽のことを音楽家に聞くのと同じように、モブのことはモブに聞くのが手っ取り早い。

「だから、シルヴィラちゃん」

「あのさ、シルヴィラ」

 私の前と後ろで同じように声がした。

「「モブって、なに?」」

 ん?モブを知らない…だと!?
 私は驚きに満ちた顔を上げた。
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