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ぷろろーぐ

喚ばれたらしい

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『ようこそ、勇者様方!!ここ、フランタールへ導かれた皆様を心より歓迎します!』


……これは一体どういうことだ。





そう、それは体感時間にして2日前のこと。私の通う高校の3年6組は突如として謎の光に包まれた。原因は不明。目的も不明。はてさて何が起きたのかと全員が困惑する中、ふと驚きが一周回って冷静に変わった頃になって漸く、私たちが真っ白な空間の中にいることに気づいた。壁は無く、天井もなく、際限のない「白」がずっと果てまで続く空間は、どこか清らかな気がする一方で、もしもここに一人でいたならばいずれ自分が最初に居た場所も分からなくなって狂ってしまうことだろう。
周りに居るクラスメイトの行動は様々だ。何があったと各々友達とお話ししていたり、スマホをいじって電波を確認していたり、私みたくぼーっとしていたり。ぼーっとしながらも、脳内の情報整理に勤しむのは勿論忘れない。一体、ここはどこなのか…。


そして、唐突にこの空間に鳴り響いた鐘の音。イメージは教会で聞くような音だ。明るく軽やかな鉦の音が何処からともなく聞こえてくる。そして、鐘が鳴り止むと同時に、いつの間にか現れていたのは翼の生えた一人の女だった。背中に翼が生えた人間など見たことがない。一昔前の小説に出てきた女神(笑)のような風貌に、思わず顔を顰めてしまう。正直その見た目の歳で翼とかちょっとイタイんじゃないかなとか、相手に大変失礼なことを思っていたが、彼女こそがここに私たちを連れてきたんじゃないかと現実離れしたことを考える自分が確かにいた。

「○○高校3年6組の皆さんですね?」

女は私達を見回しながら問いかける。
それに数人が頷いたのを確認すると、にっこり笑って一礼をしてきた。

「初めまして。わたくしの名前はリュリューエル。皆さんに分かり易く言うなれば女神です。」

…ガチだった。ガチ女神様だった。イタイとか思ってゴメンナサイ。
不思議と彼女が嘘を言っているとは思わなかった。彼女が女神を自称した時点で、私たちは彼女が女神であることをすんなりと受け入れたのだ。洗脳かと一瞬怪訝に思ったが、その割には思考がクリアで、彼女に対する印象にも変化はない。彼女が女神様であるという事実だけがインプットされたような感覚だ。

「貴方が何者かは分かった。だが此処はどこだ。貴方が連れてきたのか?」

担任のりょーたん(本名 瀬川諒 25歳独身)がちょっと怒り気味に問う。それに対する女神の反応は想定内ではあるが予想外としか言えないものだった。

「……申し訳ありませんっ!」

それはそれは綺麗な土下座だった。私たちは呆然とする。説明か謝罪か、そんな言葉が飛んでくると思っていただけに、流れるような土下座をされた私たちは戸惑うしかない。

「皆さん、聞きたいことは沢山あるでしょうが、一度説明させて下さい。」

…話長そうだなぁ。まぁ、でも話を聞かないことにはどうにもならないので、思う所はあれどクラス全員が静聴の形をとる。個性的な人がそろう私のクラスだが、こういう時だけは行動が揃う。なんでだろうね。


「ありがとうございます。…こほん、それでは説明させていただきます。えーっと、まず初めに、皆さんはお亡くなりになりました。原因は学校にヘリコプターが突っ込んで来たことです。」

おい、この女神いきなり爆弾ぶっこんできたぞ!?私たちがもう死んでる…!?確かに数日前から台風並の大雨続きで、川に子どもが流されたとかどうとかで探索ヘリがいっぱい飛んでいた。正直ヘリが突っ込んできたという死因に信憑性は高い。だけど、そういう問題ではない。私たちが死んでいるならば、この現状は何だ。私は今確かに肉体を持っているし、呼吸もしている。私は今
全員が顔を真っ青に染める中、女神は申し訳なさそうな顔をしながらも話を続ける。

「3年6組の皆さんは死にましたが、その他の学校の人達は生きています。…人はいつしか死ぬのが定め。なので皆さんは死んだら普通に輪廻転生の輪に入るのが本当でした。…しかし、調べたところ、皆さんが死ぬのは本来もっと先だった筈なんです。…では何故皆さんは死んだのか。更に調べたところ…皆さんが〖召喚〗されていたのだということが分かりました。」

…What?召喚?何それー。
クラスの奴らも流石にざわめく。

「続けますね。それで、別世界…皆さん流に言うなれば異世界とでも形容すべき場所ですね。そこで皆さんを喚ぼうとしていた者達がいたのです。ですから今回のヘリコプター事故も皆さんが異世界に行かされる為のつじつま合わせに起こった、と言うのが今回の実態です。本来であればわたくしを含む神々でそういった事象を防ぐのですが…その異世界の信仰が強い反面、皆さんの世界の信仰が圧倒的に弱いものですから、その…防ぎきれず。そもそも神の管轄も違いますし…。いえ、これは言い訳にしかなりませんね…それでも学校ごとの召喚から一クラス分までは防いだんですが…その、本当に申し訳ありません!今皆さんがいるこの空間は、召喚に何とか介入してわたくしが皆さんと話すために作り出した、いわば皆さんの世界とその異世界の狭間にあたります。」

えっと、つまり?異世界とやらの物欲が強かったせいで私達が召喚されかけていると。それで、本来は学校ごとの召喚だったのを防ごうと頑張ったけど6組が生け贄になったと。取り敢えず、神様たちはお疲れ様です。許すかどうかは置いておくけど、頑張りは認める。

「その話が本当だとして、私達が元の世界に帰れる可能性は?命を落としているとは聞いたが…その、正直あまり信じられない。死んでいるというのなら、何故今の私達に肉体がある?それに、今回の件が不本意な事故だというのも理解はしたが…責めるつもりではないが、言ってしまえばそちらの過失だ。私達に対して救済措置はあって然るべきだと思うのはおかしいだろうか?」

りょーたんが聞く。りょーたん意外と冷静だね。普段は怒りんぼさんなのに。こんな事言われたら一番怒るのりょーたんだと思ってたけど…教師としての責任て奴、ちょっと感じてるのかな。りょーたんのせいじゃないんだし気にしなくてもいいのに。

「元の世界にそのまま戻ることは原則不可能です。生き返ったとして、無惨な死体から再生し復活したのは何故か、元の世界の人々に説明できる自信はございますか?そうなった場合の末路は…きっと想像以上に凄惨なものになるでしょう。時間を巻き戻せばとかそもそも事故が起きてないことにすればとか思うことはあるかとは思いますが、そういった”事象の書き換え”はわたくしたちにとっても禁則事項にあたります。仮にもし特例として認められたとしても、軽く五千年はかかりますし、それこそ建設的な話ではありません。…本当に申し訳ありません。」

「じゃあ俺たちはいったいどうなるんですか?」

学校が誇るイケメン(らしい)、久城 正貴が聞く。顔を久城に向けると、自動的にクラスメイトの顔も見ることになるんだが…さっきと違う意味でクラスの皆の様子がおかしい。なんだかそわそわしているのは何故?

「こほん、その回答も兼ねて、皆さんに提案があります。今の皆さんには二つの道が与えられる状態です。一つはこのまま異世界召喚に応じ、第二の人生を歩む道。もう一つは…今此処で元の世界に引き返し、輪廻の輪に入る道です。」

利点と欠点を説明しますね、と女神は話を続ける。

「まず一つ目、異世界召喚に応じる道の利点は、申した通り第二の人生を今のまま歩める点です。こちらを選ぶ場合、急に異世界へ行ってもすぐに死んで終わりですので、私達神から特典なるものを与えますし、人によっては世界に適応するために種族なんかも変わるかもしれません。異世界とは異なる世界、元いた世界とは何もかもが違います。刺激的な生活にはなると思いますよ。一方欠点ですが、不明な点が多いという点です。例えばですが、召喚された国がどんな国かは分かりません。良い国とは限らないということです。また、皆さんに付く特典が皆さんに合ったものか完全に博打です。特典を使いこなせなければ、異世界で簡単に死んでしまう可能性もあります。また、異世界に行くと皆さんが元いた世界の輪廻からは外れてしまいます。要するに、皆さんが異世界で亡くなったとしても、元いた世界に転生はできず、記憶に無くとも再び家族に巡り会う…のような感動的な可能性は確実にゼロです。こればかりは断言します。異世界に行けば、二度と皆さんの家族や友人とは会えず、異世界の輪廻に組み込まれます。…これが一つ目の道です。」

ふむふむ。第二の人生が完全ランダム(しかも博打要素有)でできると。今の状態でという魅力がある反面、博打に負けた時が怖い道ではある。

「そして、もう一つの今此処で皆さんの世界の輪廻に入るという道。こちらの利点は博打に負けて苦しむことがないという点と、今回こちらを選んだ人は転生を優先させてあげられるという点です。記憶付きで転生できるかはわたくしにも保証しかねますが…運が良ければあるいはといった感じでしょうか。そのあたりは皆さんの世界を管轄している神の考え次第ですね。一方欠点は…まぁ、特には無いですが、強いて言えば生まれ変わるということですから、転生後の性別、容姿、家柄、両親…そう言ったものは全て不明です。…これが二つ目の道です。」

ふむ、第二の人生が変わり映え無くやってくると。ただし、前とは違う両親のもとに生まれるし、どんな家かは分からないし、肉体自体が変わるわけだから今の自分ではない自分として生きて行かないといけないってことか。

「わたくしがこの空間を維持出来るのは、皆さんの体感時間にして2日程です。準備する事もあるので出来るだけ早く決めることをお勧めします。」

そう言って女神は口を閉じた。ここから先は自分自身で決めろってことね。さて、如何したものかなぁ…。

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