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本編

3話

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彼女シャロン・ティクター子爵令嬢のことを
初めて知ったのは入学式でのことだった。

伝統ある入学式で 僕が生徒会長として話をしている時に、突然
「遅れてしまい、申し訳ございません」
という叫び声と共にやってきたのだ。

慌てて近くにいた先生が黙らせていたが、
あの登場の仕方は強烈だった。
僕はあまり驚いたことがないのだが、
さすがに僕も あの登場の仕方には驚きを隠せなかった。

入学式が終わり、僕の友人であり側近である者達と 少し話をしていると、
先程の少女が 僕を見つけるなり すごいスピードで走ってきたと思ったら目の前で90度腰を追って

「先程は話を遮ってしまい、申し訳ございませんでしたー!!」

と謝ってきたのだ。
貴族令嬢としては、ありえない態度。
だが、なぜかそれを面白いと思った僕は

「気にしないで」

と答えたのだ。

そう答えるとその令嬢は、先程までの緊張した面影が嘘のように消え、満面の笑みで
「ありがとうございます!」
と答えてまた風のように去っていった。

思えばあの時から僕は彼女のことが気になっていた。

次に会ったのは、王族専用の庭だった。
学園にある庭の中でも特段綺麗な場所は、
王族専用となっている。
入れるのは僕とメイリーンだけのその場所で、
彼女はどうどうと転がって寝ていたのだ。
起こすべきなのか見てみぬふりをすべきなのか
少し迷ったけど、王族として起こして注意する
べきだと判断し彼女を起こした。
彼女は起きてすぐは寝ぼけていたようで、
「後5分~」と言ってきたが、僕を認識するとハッと目を見開き飛び起きた。

「えっ、あれ、私寝てた?」

「うん、ぐっすりだったよ。」

「やだ、恥ずかしい。
でも、起こしてくれてありがとうございます。」

「いえいえ。でも、君ここがどこだが分かって寝てたの?」

「どこって?学園の庭ですよね。
学園にこんなきれいなところがあったとは驚きです!」

学園の庭ってことは分かってるみたいだけど、
おそらくここが王族専用ってことは知らないんだろう。
てことは、ここで寝てたのもわざとではないのか。

「確かに学園の庭だけど、ここは王族専用の場所だから本来なら君は入っちゃだめなんだけどね。
その感じだと知らなかったんでしょ?」

そう言うと、思った通り彼女はとんでもなく驚いた顔をしてほぼ叫び声に近い声で

「王族専用の場所っ!?」

と言ったあとに

「ん?てことは、生徒会長様王族だったんですか!」

と言ってきた。
まさか、僕がこの国の皇太子ということ自体
知らなかったとは。
デビュタントは済ませているから、
貴族なら知ってて当然のことのはずだけど、
まさか僕が王族であることに驚かれるとは思わなかったな。

「はじめまして、カーネイル皇国皇太子
ディオーネ・カーネイルです。
君は?」

「あっ、すみません。
シャロン・ティクターです。」

ティクターというと、あぁあの子爵家か。
確かに子爵には一人娘がいるって聞いてたから、
彼女がそうなのか。
それにしても、僕が皇太子って分かった後でも
口調を変えないとは。
貴族令嬢としては駄目なのだろうけど、
なぜかそこが好ましく思える。

「さっきも言ったけど、ここは王族専用の場所だからね。
今回は多めに見るけど、もう入ってきては駄目だよ。
次入ってきたら刑罰の対象になってしまうから、
気をつけるように。」

「そんなっ!とても気に入ってたのに。
でも、刑罰は怖い…のでもう入ってきません。
色々とありがとうございました。」

そう言って彼女はさっそうと去っていった。
しっかりと忠告しておいたし、もう大丈夫だろう。
だけど、シャロン・ティクター嬢か。
少し話してみただけでも今まで会ってきたどの令嬢とも違うタイプということが分かって、何だか面白かった。
名前を覚えておくことにしよう。
その時は、そうとだけ思っていた。

その後もなぜか会うことが多く、
最初は警戒していた僕の側近たちも次第に彼女と仲良くなり会うのが楽しみになっているようだった。
個人的にもよく会っているという話を耳にしたので、流石にそれは婚約者に失礼だよと
一応注意はしたのだが、
「彼女と話していると何も隠す必要がなくて
落ち着くのです。
彼女と話しているときだけ本来の自分に戻れる。
殿下もそう感じるでしょう?」
と言われ思い当たるところがある分それ以上何も言えなかった。

確かに彼女と話していると心が楽になる。
メイリーンがいる手前そこまで長話をしないようには気をつけているが、たまに時間を忘れて2人で
話し込んでしまう。
だんだん彼女と少し話をしているだけでも怒ってくるメイリーンに対しても嫌気がさしてきてしまい、
そのストレスから逃げるためにティクター嬢を
探している自分がいた。

僕が彼女に好意を持ってる。
そう気付くのに時間はかからなかった。

だが、この国は国王でも一夫多妻制を認めていない。
学園を卒業したらメイリーンとの結婚も決まっている。
ティクター嬢のことは好きだ。
だがティクター子爵家といえば事業に引き続き失敗して没落寸前だという。
没落寸前の家の貴族令嬢と
長く友好関係にある国の王女。

どちらと結婚するのが最善かなんて分かりきってるのに、皇太子が自分の感情より国益を優先させなきゃいけないことも分かってるのに、
どうしても心が晴れなかった。





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短くてすみません。
本当の乙女ゲームの皇太子だったら、こんな心情なのかな~と思いながらも、
何か書いてて皇太子に若干イライラするような?
そんな感じです。
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