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本編

9話

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メイリーンとイリンの話を聞いてしまってから
2週間。
メイリーンに対する意識を変えようと決意して2週間。
学園は夏休みに入り、メイリーンは
一旦ラディシア王国に帰っていった。
僕も皇太子としてやらなければいけないことが多く、王宮に戻りひたすら執務の日々を
過ごした。
1つ問題があったとしたら、側近たちが
集中してくれなかったり、突然何も言わず
休んだりした影響で、ほとんど自由時間が
取れなかったことだ。
去年はもう少し、余裕を持ってできたことなのに
余裕など全くなかった。
夏休みに入る前、シャロン嬢に
「夏休み、皆でどこかに遊びにいきませんか?」
と誘われていたが、とてもじゃないが
行けなかった。
まぁ、側近たちは全員行ってしまったが。
そんなこんなで夏休みが終わり、
また学校生活の新学期が始まった。

そして、新学期が始まってから1ヶ月。
少しずつ僕はメイリーンと接する機会を
増やしていくことにした。
彼女の本心を知るには、結局接する機会を
増やしてみるしかないという結論に
落ち着いたのだ。
僕の態度が少し変わったことにメイリーンは
驚いていたようだけど、特に大きなことは起こらず
基本今まで通りに時は進んでいった。
いや、変わったことといえばシャロン嬢から
話しかけられることが増えたな。
話しかけられたら断ることもできず、
というか側近たちに周りを囲まれて離れることもできず、彼女と話すことも増えた。
まぁ、彼女と話すのはやはり楽しいし嫌な気はしないのだが、どうしてもメイリーンが気にかかる。

そんなある日、シャロン嬢が大怪我をしていたとかでケインが朝からうわのそらかと思ったら、
昼休みが終わってから凄い怒りの形相をしていた。
いや、ケインだけではない。
他の側近たちもだ。
僕は昼休み校長に呼ばれていたので
食堂に行かなかったが、食堂でシャロン嬢から
一体何を聞いたのだろう。
その疑問はすぐに解消された。

放課後図書館に向かうと、 
シャロン嬢も図書館にいた。
彼女は、僕を見た瞬間こちらに向かって走ってきた。
確かに、体のあちこちに包帯を巻いていて見た目は痛々しそうだが、走れるならそこまで重症ではなさそうだけど。
僕の前まで来ると彼女は、なぜか大きな声で

「あ、殿下。来てくれたんですね!
殿下にどうしても相談したいことがあるんです。
殿下にとっても大事なことだと思うので、
聞いてもらえませんか。」

と言った。

…どうして彼女は、もともと僕とここで待ち合わせをしていたような言い方をするんだろう。
今日図書館に来たのは本当に気まぐれだから、
誰にも言ってないはずなのだけどな。
なんで、彼女は僕が今日ここに来ることを知っているのか、不思議で仕方ない。
でも、困ったぞ。
こんな周りの目があるところで相談したいことがあるなんて言われたら、皇太子としては
了承するのがいいのか。
了承しない方がいいのか。

迷った末、僕はシャロン嬢の話を聞くことにした。
なぜなら、ケイン達の様子がおかしくなった理由を知れるかもしれないと思ったからだ。

「それで、何かな?」

と聞くと彼女は

「ここでは話しにくいので、こっちに来てください。」

と僕の手を強引に引いて、
図書館から出たと思ったらいつの間にか
人気のないところまで連れてこられてしまった。

流石にまずい。
これは、変な噂がたってもおかしくない行為だ。
だが、こんな所に連れてきたってことはシャロン嬢の話というのはそれだけ重要なことなのだろう。

シャロン嬢は、こちらにまっすぐ振り向いたと思ったらなぜか目に涙をためて話し始めた。

「私のこの怪我、何でこうなったのか分かりますか?」

「ごめん、全く分からない。」

「そう…ですよね。
実はこの怪我昨日の放課後に階段から
突き落とされておった傷なんです。」

階段から突き落とされた!?
それが、事実ならほぼ殺人未遂といっても良い
行為だが、誰がそんなことを。
流石にシャロン嬢が階段から突き落とされたとなると、僕も放ってはおけないが。

「そして、その犯人が実はメイリーン様なんです。
昨日手紙で呼びだれたと思ったら、
『あなた、ディオーネ様とよく話してるからっていい気に乗らないで!ディオーネ様は、私のものよ。あなた、目障りなのよ。』って
突然階段から突き落とされて。
私本当に怖かったんです。
殿下、メイリーン様に気をつけて。
メイリーン様は殿下のことをものと思ってるんだよ。
そんなメイリーン様と殿下が将来結婚すると思うと、私殿下が心配なの。
また、もしかしたら次は暗殺者でも差し向けられるんじゃないかって。
もう、私色々心配で…」

そう言ってシャロン嬢はハラハラと涙を流す。
この様子が演技だとは思えないが、
正直不審な点が多い。
これは、何かがあるな。
しばらく様子を見ながら陰で調べてみよう。

「心配してくれてありがとう。
メイリーンにはきつく言っておくから、
あまり心配しないでいいよ。
君のことは僕が守るから。」

そう言うとさっきまでの様子が信じられないほど
笑顔になるシャロン嬢。

「ありがとう、殿下。
殿下にそう言ってもらえて、安心したよ。 
じゃあ、私のもう行くね。」

そう言って去っていくシャロン嬢。
シャロン嬢がこの場から完全にいなくなったのを確認して僕は僕の護衛である陰を呼び出す。
その場に静かに現れる陰たち。

「メイリーンとシャロン嬢両名を
しばらくの間見張れ。
不審なことがあったら、僕に報告。
絶対に気づかれるなよ。」

「御意。」

そう答えたと思ったらまた静かに消える陰たち。

2人には少し申し訳ないが、
しばらく見張らせてもらおう。
おそらく、そうすれば何か大事なことが分かるから。

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