お兄様から逃げる方法

tsuyu

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5* 恋人は、可愛い小悪魔

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 夕食までシーフとチェスやカードで遊び、ディナーはこの地域の郷土料理をいただいた。
食後は談話室でゆっくりと過ごして、朝が早かったのでお風呂でまったりする。

 メイドのジャンヌさんにお風呂の後でマッサージをしてもらったのだが、流石、公爵家のメイドさん。
素晴らしい腕でした!

「はぁ~、気持ち良かった~」
「ありがとうございます。フローリア様、甘いお酒は如何ですか?」
「お酒ですか?」
「はい。赤ワインに果物を漬けた。サングリアなど如何でしょうか」
「いいですね!」

 サングリアは、漬けたフルーツを使用したお菓子も作るので、残ったワインはお菓子や料理にも使用するが、社交界デビューをしてからは、ホットワインにしたり、オレンジジュースと割って普段は飲んでいる。


 案内された部屋に入ると、お風呂から上がったばかりなのか、顔が少し赤いシーフがバスローブを纏ってソファーでくつろいでいた。

「え?」

 その部屋は居間だと思われるが、左右の奥に扉が二つ見える。まさか…

「あ、あのジャンヌさん?」

 私の言いたい事を察したジャンヌさんが、笑顔で頷く。

「左奥が奥様のお部屋で、右奥が主寝室、さらにその奥が旦那様のお部屋となっております。アイシャ奥様からは『ご自由に』と伝言を預かっております。では明日、起きられましたらそちらの呼び鈴をお使いくださいませ。では、失礼致します」

 と、ジャンヌさんはさっさと部屋を出て行った。

「吃驚だよねぇ」

 クスクス笑うシーフの目は、少しトロンとしている。

「こっちにおいでよ」
「う、うん。酔ってるの?」

 シーフの手元には、赤い液体の入ったワイングラスが見える。

「酔ってないよ。ちょっとのぼせちゃっただけ」

 テーブルの上を見ると、さっきジャンヌさんが言っていたサングリアと輪切りレモンが浮かぶレモン水のデキャンタとグラス、チーズやナッツのおつまみが用意されているので、先に飲んでいたのだろう。

 以前食事をした時にワインを飲んでいたので、お酒を飲めない訳ではないと思うのだが、度数が高いワインだったのかしら? とシーフに近付き彼の額に手を伸ばす。
 お風呂上がりにしてはちょっと熱いような気もするけれど、と思っていると、額にあてていた手をシーフに掴まれ、シーフは何を思ったのか私の手をそのまま頬にずらして、目を閉じて頬擦りしている。

 か、可愛い!!

 普段は格好良くて、お兄様たちの毒舌にも平気な顔をして対応しているのに!
頬は赤く、トロンと潤んだ瞳で見上げてくる恋人に悶えるだなんて! 駄目よ!
淑女として普段からポーカーフェイスを心掛けないと!

 冷静に、冷静にと心の中で唱える。

「フローリア? どうしたの?」

 どうしたの? はこちらの台詞よ!
首を傾げるシーフは天使のようで、今はその艶っぽさから小悪魔にも見える。

「シーフ、明日も一緒にいられるのだから、今日は早目に休みましょう?」
「嫌だよ。折角フローリアと一緒にいられるのだから、もっと喋っていたい」
「キャッ!」

 頬擦りしていた手を引っ張られ、シーフの上に覆いかぶさる形になり、ギュッと抱き締められた。

「危ないじゃない!」
「うふふ。フローリアいい香りがする」
「…シーフ、貴方やっぱり酔ってるわね?」
「ふふっ。僕は常に君に酔っているよ」

 揶揄うような恥ずかしい言葉はいつも通りとも言えなく無いけれど、これは早く寝かせた方が良さそうだ。

「シーフ、寝室に行きましょう?」
「どっちの?」
「……」

 そうだった!
ジャンヌさんに“ご自由に”と言われたけれど、愛し合っているとは言え、まだ婚約者。
 婚前交渉をしているカップルがいない訳ではないが、心の準備ができていないうえ、余所様の別荘(しかも公爵家の!)で、というのは何となく、嫌だ。

「シーフは主寝室を使って。私はアイシャ様の部屋を使わせていただくから」
「え~、二人で一緒に寝ようよ。予行演習だと思って。ね?」
「駄目! ほら早く! ここで寝ちゃったら風邪ひくでしょ?」

 渋々と抱き締めていた手を放すシーフにほっとするが、中々立ち上がらないと思ったら、ニコニコと微笑み、両手を伸ばしてくる。
 いわゆる、抱っこポーズだ。

「もうっ!」

 呆れて両手を引っ張り立たせると、膝がガクンと抜け振らつくシーフを慌てて抱き留める。
連日の多忙と睡眠不足、緊張が抜け、そこにお酒を飲んだ事で普段は酔わない程度のワインで酔ってしまったのかも知れない。

 シーフの腕を肩に回し、腰に手をやり支える。

「大丈夫? ほら歩いて。私だけじゃシーフは運べないんだから」
「ごめんね」
「仕方が無いわ。忙しかったんでしょう?」

 私にもたれ掛かってゆっくり歩くシーフを支えながら右奥の扉を開くと、四柱に薄いカーテン付きの大きな寝台が目に飛び込んでくる。
 柱の装飾も繊細で花と蔦の螺旋が綺麗な柄で、可愛い。

 寝台の横まで着き、肩に回していたシーフの腕を降ろすと、体勢を崩したシーフに覆いかぶさられた状態で寝台に倒れ込んだ。

「キャッ! …シーフ? 大丈夫!?」
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