平成25年、あれから2年目の恋

みなわなみ

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変化

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 健太に心の奥底にあった悲しみを打ち明けて以来、美咲は少しずつ変わっていった。

 これまでのように感情を押し殺すのではなく、少しずつ自然と笑顔がこぼれるようになっていた。
 その笑顔は、まるで、凍っていた川が溶け、水面から光が差すような、温かく、優しい笑顔だった。

 ​ある朝、いつものようにカフェの開店準備をしていると、近所に住むおばあさんが声をかけてきた。

「美咲ちゃん、このごろ、顔が明るぐなったべ。よかった、よかった。安心したど」

 ​小さな頃から知っているおばあさんの言葉に、美咲は少し戸惑う。
 これまで、周りの人々の心配を拒絶するように生きてきたから。
 けれど、おばあさんの優しい眼差しに、美咲は初めて素直に答える。

「ありがとなし。 ちっと、よぐなったです」
 
 ​美咲がそう言って微笑むと、おばあさんは安堵の表情を見せ、
「​美咲ちゃん、み~んな、あんたのこと、心配しんぺぇしてたんだべ」
 と、優しく手を撫でてくれた。

 ​その日を境に、美咲の周りの空気が変わっていく。

 ​仮設商店街で店を営むおじさんが、美咲に「よかったのう!」と声をかけてくれたり、小学生の男の子が「ぇね、笑うとめんこいね!」と恥ずかしそうに言ったり。

 ​これまで、美咲は「震災の被害者」として見られることに抵抗を感じ、周りの優しさから距離を置いていた。
 しかし、健太に心を開き、そして周りの人々の温かさに触れるうちに、美咲は、自分が一人ではないことを実感した。

 ​美咲は、これまでの自分を少しずつ受け入れられるようになり、カフェを訪れるお客さん一人ひとりに、笑顔で「いらっしゃいませ」と言葉をかける。
 そして、その笑顔は、美咲が淹れるコーヒーにも温かさをもたらした。
 ​美咲の淹れるコーヒーは、ただ淹れ方が完璧なだけでなく、彼女自身の心の温かさが加わり、人々を癒すような特別な味になった。
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