平成25年、あれから2年目の恋

みなわなみ

文字の大きさ
11 / 18

おみやげ

しおりを挟む
 ​夏休みも折り返し地点が過ぎた。健太がこの町を去る日も間もなくである。
 とはいえ、健太は、一日の最後には、いつも通り美咲のカフェ「潮音」を訪れていた。

「なぁ、美咲さん。神戸に帰るんやけど、お土産、何かええもんある?何かこの町らしいもん、あるやろか」

 ​健太の問いかけに、美咲はコーヒーを淹れる手を止め、冷たい声を返す。

「この街にお土産なんてない。何も残っていないから」

 ​美咲の言葉は、まるで氷のように冷たく、健太の心を突き刺した。

(あー、やってしもた…)

 健太は、美咲が再び心を閉ざしたことに、ひどく戸惑う。
 これまで、少しずつ縮まってきた心の距離が、再び遠ざかっていくのを感じた。

 ​健太は、ポケットから小さなキーホルダーを取り出し、ブラブラ揺らしながら美咲に言う。

「これは、ボランティア先で子供たちがくれてん。自分らで作ったって言ってた。
 これは俺がこの町でもらった、一番大切なお土産」

 健太はキーホルダーを握り締めて、先を続ける。

「ほんで、スマホの中には、この町の人たちが笑ってくれたこと、笑ってくれた時間がいっぱい入ってる。それも、お土産。…でも、それだけじゃあかん。俺は、ここにお金を落としたいんや」

 ​美咲は、その言葉に驚いて顔を上げた。

「……どういう意味ですか?」

 ​健太は、真っ直ぐに美咲の目を見て、真剣な眼差しで語りかけた。

「募金やない。寄付でもない。
 俺がここに落としたいんは、この町で美咲さんが淹れてくれたコーヒーのお金や。この街の人が作ったもののお金や」
「…」
「美咲さんたちが、自分たちの力で立ち上がろうとしてる。
 そのプライドを、俺は見てきた。俺は、それを買って…、この町のプライドを持って帰りたいんや」

 ​健太の言葉に、美咲の瞳から涙がこぼれ落ちた。
 美咲は、これまで「震災の被害者」として憐れに思われることに強い抵抗を感じていた。
 それは周りの優しさからの距離にもなっていた。
 しかし、健太は、美咲の心の奥底にある、この町を愛する気持ちと、この町が自分自身の力で立ち上がろうとする強さを見抜いてくれている。

 ​美咲は、健太の言葉に、これまで沈んでいた心が、ふんわり浮き上がるのを感じた。

 美咲は少し震える手で、健太にコーヒーを出す。
 健太は美咲の泣き顔には知らんふりして、コーヒーを静かに飲む。

「…美咲さんのコーヒー、やっぱり最高や」

 ​笑顔の健太の言葉は、美咲にとって、どんな言葉よりも、温かく、そして、未来への希望をくれるものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

ハチミツ色の絵の具に溺れたい

桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。 高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。 まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。 まほろがいない、無味乾燥な日々。 そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。 「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」 意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

王の影姫は真実を言えない

柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。 けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。 一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。

処理中です...