乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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〜 ジーク編 3 〜

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身体は重いが、身体の中心が軽い・・・。



いつも儀式の後に味わう気怠さとの違いを、重い瞼をゆっくりと開けながら思う。



竜の呪い、すなわち竜毒に支配されると、意識を吸い取られるがごとく呼吸が出来なくなる。

怨嗟竜バケモノと化した後から周期的に、心臓あたりが鷲掴みにされる痛みを感じるようになった。

育ての親であるタ―バルナ大神官バラ―が言うことには、人としての俺の運命は竜毒に侵され続け怨嗟竜となるか、生気を吸われ早死にするか二つに一つらしい。

・・・発狂化し世界を滅ぼすか、身体を蝕まれ早死にするか。

ならば、少しでも長く人として生きるために竜毒を封印する後者を選べと彼は言った。



世界を滅した後、俺も死ぬのか?

ならば、どちらを選んでも自分が死ぬ運命は変わらない。

この世界を忌々しく思うほど、この世界に執着も無い。

この世を消し去ることなど、どうでもいい、興味の無いことだ。

自分が生きることも、死ぬことも、どうでもいい。

そう思っている筈なのに、何故か彼リアンと同じ選択をしなかった。





初めはひと月に一度、光魔法による竜毒の封じ込めを受けた。

暫くして、自身の意思で竜化をコントロール出来るようになってくると、竜の身体である時は竜毒からの攻撃を免れた。



だが、竜の姿では魔力が安定しない。

本来、人族であるこの身体は竜毒により生命力を吸われ、こと更竜族の膨大な魔力の器としては不出来だった。

竜化出来たとして、所詮は人族。

竜の魔力をこの身体に留めておく事が出来ず、暴走してしまう。

竜のフリをして竜毒を騙し続けようとすれば魔力の暴走を止められず、結局は怨嗟竜化の引き金を引いてしまう・・・。





成人を前に、次第に竜毒は俺が人であるときの生命力を強く要求するようになってきた。

その為、竜毒を封じる光魔法による浄化の儀式を頻回に受けねばならない。



竜族は元来、闇属性の生き物だ。

この身体を形作るもう一つの種族である竜族。

その身体に相容れない光属性の魔力を流されることは苦痛でしかない。

ふたつの種族の血脈が、俺の身体の中で鬩ぎあい互いを滅ぼそうと渦巻いている。

光魔法の浄化を受けるたびに、身体の内から竜が咆哮をあげ抵抗している。

儀式を終えた後は、決まって思考もぼやけ身体も痺れて動けなくなる。





20歳まであと少しも無い。

光魔法による竜毒の封印も、竜化による竜毒からの逃避も、期待できるほどの効果は無くなってきていた。



死ぬことも出来た。

呪いに抗ってまで生きる意味など無いと思った。

けれども、そう思うたびに、知識を授けてくれたバラ―と養ってくれたバートン夫妻の顔が浮かぶ。

彼らの悲しむ顔は、ただ、漠然と、不快に感じた。





最近は軍部の仕事も増え、そう頻繁に神殿に出向くことが出来ず竜毒の封じ込めも疎かになりがちだった。

これまで度々自身の意志で何とか抑え込んできたが、今夜はそれが難しかった。

胸の痛みと身体の中心から沸き起こる、重くどす黒い澱みに意識を飲み込まれる。

このままではまた、化け物になる・・・。



『ジークさん、大丈夫ですか?しっかりして下さい!』



・・・ルナ・・・の声か?

自我を手放す寸前で、ルナの声が聞こえた。

意識が少しだけ手元に残った。

いつになく心配そうなルナの声。

いつも突拍子もないことを平気で口にするこの娘でも、慌てることがあるのか。

そうさせているのが自分だと考えると、この状況にも関わらず少し愉快に思う。

その表情が見たいのだが、痛みと息苦しさで目を開けることが出来ない。



『立てますか?私につかまって下さい』



俺の肩に細腕を回して立たせようとする。

脚に力が入らない俺を、半ば引きずるようにソファーまで運ぶ。

横になった俺の額に冷たいタオルがあてがわられた。

汗を拭われた肌に心地よい風を感じる。

痛みを堪えて眼を開ければ、思っていた以上に心配そうに眉根を寄せるルナがいた。



『・・・何故、ここにいるんだ?』



不思議に思い問えば、どうやらクロが俺の気配を察してルナを転移させたらしい。

クロは高位の獣魔だ。

小柄なルナひとりなら、時空を共に超えることは容易い。

視線を横に向ければ、俺の首元にいたクロが褒めろとばかりに頭を擦り付けてくる。



『ご主人さまは意地っ張りだ。心配で寝られないよ』



念話でクロが小言をいう。

思わず笑いが零れるが、それと同時に胸の痛みが強まり反射的にシャツを握り締めた。

また、竜の呪いに捕まる・・・。

上着を掴んだ自身の手に柔らかな手が重ねられるのを感じたが、それ以上意識を保てず全てが暗闇に包まれた。





次に目覚めたとき、身体の重さはあるが、身体の中心にいつも感じる不快な澱のような重みは無かった。

首元にはクロの寝息と体温を感じる。

ゆっくりとソファーから身体を起こし、胸のあたりを擦ってみた。

思いのほか軽い事に、何が起きたのかと考える。



『ルナが毒を吸ってたよ』



クロが伸びをしながら念話で伝えてきた。

そう言えば、気を失う前にルナがここに居た。

ふと気配を感じて辺りを伺えば、床から寝息が聞こえてきた。

そこには絨毯に突っ伏して眠る少女の姿があった。

妙齢の娘の寝姿に、思わず苦笑いする。

品の欠片も無いな。



『ルナって面白いよね。一緒にいて飽きないよ』

『そうだな・・・』



光魔法と違い、闇魔法による竜毒の封印など聞いたことが無かった。

だが、闇属性の竜にとっては、闇魔法が身体に流れることに何ら抵抗は無い。

・・・闇魔法使い。

この娘がこの呪いを解く鍵なのか?

もし、この娘が『選ばれし者』であれば・・・。



絨毯に膝をつき、ルナを起こさないように髪に触れる。

柔らかな髪を横に流し、隠れていた顔をそっと眺める。

少し開いた口から聞こえる規則的な呼吸の音。

まだ幼さの残る顔は少女なのに、その瞳は強い意志を宿している。

怒ったり、泣いたり、笑ったり、この娘は本当に忙しい。

常に死と共にある俺と、生命力が形を成したかの様なルナ。

同じ闇属性だというのに、俺とは真逆の生き物だ。



このまま床で起きれば、何故起こさなかったと怒って大騒ぎするだろう。

その顔が容易に想像できてしまい、つい口元が緩む。

そっとルナの背中と膝裏に手を添えて床から抱き上げる。

もう一度ルナの寝顔を覗くと、何やらむにゃむにゃ言いながら笑っていた。

寝ながらも笑えるのか、器用な奴だ。

無防備で子供と変わらない。



他人に触れた事などほとんど記憶にない。

こんなに柔らかく温かいものに触れた記憶もない。

その柔らかさと温かさに、何か胸の奥に湧き上がるものを感じた。

それは、少し胸を締め付けられるような感覚だというのに、不思議と不快に思うものでは無かった。

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