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〜 ジーク編 6 〜
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『婚約は解消します。こんな人非人に協力なんか出来ません。もう勝手にして下さい。私も勝手にします!』
その言葉に胸を鷲掴みされたような苦しさで、息が出来なくなった。
頭が真っ白になり何も考えられない一方で、どうにかしなければという焦り。
心と身体が真っ二つに引き裂かれたかのようだった。
俺に背を向けて去ろうとするルナを、身体が勝手に反応して無理矢理抱き寄せた。
・・・行くな!
駄目だ!
ここに、側に居てくれ!
心が、身体が、俺の全てが彼女を手離すなと叫び出した。
俺を睨みつける紅の瞳は怒りで煌めいているのに、その表情は今にも泣きそうだった。
ルナを永遠に失うかも知れない・・・その焦燥と、自身への不甲斐なさ、苛立ち・・・。
荒狂う感情の嵐に飲まれ思考が追いつかない。
気が付けば、ルナに唇を重ねていた。
・・・柔らかい。
驚いて眼を見開くルナに、もう一度口付ける。
今度は深く。
これまでの心の渇きが満たされていく・・・。
その瞬間、俺の中の竜の魔力が、それが当たり前のようにルナの身体に流れ込んでいった。
ルナも、それを知っていたかのように全て受け入れ、癒し、そしてまた漲る力に変えて俺へと返してくる。
もっと欲しくて、更に貪ろうとルナを強く抱き寄せた。
『ほう、これは美味いな』
竜毒の満足そうな言葉を聞いて驚愕した。
今のは一体何だったのか?
茫然とする俺に、怒ったルナは拳を叩き込んでいった。
殴られた頬の痛みで冷静になれた。
竜族と守護者の間の魔力交換など聞いた事が無い。
だが、交換した魔力は、古来からの決まり事のように俺たちの意志に関係無く互いの力を補っていた。
ルナには竜族の強さを、俺には癒しの生命力を。
ルナが出て行ったテントの入り口を見つめる。
相当怒っていた。
今、追いかけても何も聞き入れはしないだろう。
黒豹から黒猫に戻ったクロが心配そうに足元で鳴いている。
『ご主人さま、ルナ、僕まで置いて居なくなっちゃったよ』
ルナをひとりにする訳にはいかない。
「ニクス、ルナを守ってくれ」
ニクスは俺の声に小さな竜巻で抗議してきた。
『ホント、アンタも子供よねー。男なんだからしっかりしなさいよ。他の男に取られて後悔しても知らないわよ』
「そうならないように見張ってくれ」
『そういう事は自分で何とかするもんよ』
そう言って一際強い風を俺に叩きつけ、ニクスはルナの元へ消えていった。
『ご主人さま、ルナが凄く心配していたよ?裏切り者がいるって』
「ああ、大丈夫だ」
眼を瞑り全ての音に集中する。
深い闇夜の中、疲れを癒す部下の寝息や森に住む獣の息遣いすら聞こえてくる。
感覚が竜族のそれのように研ぎ澄まされている。
愚か者たちの話し声も聞こえてきた。
やはり、ルナから流れた癒しの力で、竜の姿でいる時と同等の力を使うことが出来る。
さあ、どう料理してやろう?
早いところこの小者どもを吊し上げて、ルナの元に行かなければ。
ルナの泣きそうな顔を思い出し胸が締め付けられる。
これが恋しいという感情なのか・・・?
最後に見たルナの後ろ姿。
もう二度と振り返る事がなかったら・・・。
胸に焦りが沸き起こる。
いや、まだだ、まだ大丈夫だ。
俺とルナの繋がりは、そんな簡単に切れるようなものでは無い筈だ。
自身を宥めながら、あの笑顔を思う。
もう一度、俺に向けられる事を願って。
その言葉に胸を鷲掴みされたような苦しさで、息が出来なくなった。
頭が真っ白になり何も考えられない一方で、どうにかしなければという焦り。
心と身体が真っ二つに引き裂かれたかのようだった。
俺に背を向けて去ろうとするルナを、身体が勝手に反応して無理矢理抱き寄せた。
・・・行くな!
駄目だ!
ここに、側に居てくれ!
心が、身体が、俺の全てが彼女を手離すなと叫び出した。
俺を睨みつける紅の瞳は怒りで煌めいているのに、その表情は今にも泣きそうだった。
ルナを永遠に失うかも知れない・・・その焦燥と、自身への不甲斐なさ、苛立ち・・・。
荒狂う感情の嵐に飲まれ思考が追いつかない。
気が付けば、ルナに唇を重ねていた。
・・・柔らかい。
驚いて眼を見開くルナに、もう一度口付ける。
今度は深く。
これまでの心の渇きが満たされていく・・・。
その瞬間、俺の中の竜の魔力が、それが当たり前のようにルナの身体に流れ込んでいった。
ルナも、それを知っていたかのように全て受け入れ、癒し、そしてまた漲る力に変えて俺へと返してくる。
もっと欲しくて、更に貪ろうとルナを強く抱き寄せた。
『ほう、これは美味いな』
竜毒の満足そうな言葉を聞いて驚愕した。
今のは一体何だったのか?
茫然とする俺に、怒ったルナは拳を叩き込んでいった。
殴られた頬の痛みで冷静になれた。
竜族と守護者の間の魔力交換など聞いた事が無い。
だが、交換した魔力は、古来からの決まり事のように俺たちの意志に関係無く互いの力を補っていた。
ルナには竜族の強さを、俺には癒しの生命力を。
ルナが出て行ったテントの入り口を見つめる。
相当怒っていた。
今、追いかけても何も聞き入れはしないだろう。
黒豹から黒猫に戻ったクロが心配そうに足元で鳴いている。
『ご主人さま、ルナ、僕まで置いて居なくなっちゃったよ』
ルナをひとりにする訳にはいかない。
「ニクス、ルナを守ってくれ」
ニクスは俺の声に小さな竜巻で抗議してきた。
『ホント、アンタも子供よねー。男なんだからしっかりしなさいよ。他の男に取られて後悔しても知らないわよ』
「そうならないように見張ってくれ」
『そういう事は自分で何とかするもんよ』
そう言って一際強い風を俺に叩きつけ、ニクスはルナの元へ消えていった。
『ご主人さま、ルナが凄く心配していたよ?裏切り者がいるって』
「ああ、大丈夫だ」
眼を瞑り全ての音に集中する。
深い闇夜の中、疲れを癒す部下の寝息や森に住む獣の息遣いすら聞こえてくる。
感覚が竜族のそれのように研ぎ澄まされている。
愚か者たちの話し声も聞こえてきた。
やはり、ルナから流れた癒しの力で、竜の姿でいる時と同等の力を使うことが出来る。
さあ、どう料理してやろう?
早いところこの小者どもを吊し上げて、ルナの元に行かなければ。
ルナの泣きそうな顔を思い出し胸が締め付けられる。
これが恋しいという感情なのか・・・?
最後に見たルナの後ろ姿。
もう二度と振り返る事がなかったら・・・。
胸に焦りが沸き起こる。
いや、まだだ、まだ大丈夫だ。
俺とルナの繋がりは、そんな簡単に切れるようなものでは無い筈だ。
自身を宥めながら、あの笑顔を思う。
もう一度、俺に向けられる事を願って。
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