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怨嗟竜?
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バラーさまと居た空間は破壊され、辺りを見回すと岩山が目に入ってきた。
自分たちが立っている場所は、比較的開けた台地のようだ。
黒竜さんは怒りを滾らせ、鼻息荒くこちらを睨みつけている。
その鬼気迫る怒りに圧倒され、つい後退りしてしまう。
『よくも・・・』
黒竜さんはそう呟くと私に向かって恐ろしい速さで飛んできた。
強烈な怒気と速さに、私は成す術なく立ち尽くしてしまった。
暴風が私を襲う。
ひーっ!
叩き潰されるーっ?!
しかし、私の予想は外れ、気付くと黒竜さんの両掌に抱えられ宙を飛んでいた。
何事かと思い黒竜さんの顔を見上げると、大きな金眼と視線が重なった。
その瞳に先程の怒りは見えず、憂いの色が浮かんでいる。
『斬られたのか・・・』
やっぱり、ジークさんの声だ。
この黒竜さんがジークさんなんだ。
ドラゴンさんと違い、禍々しいオーラのような靄を纏っているけれど。
黒竜さんは私の右掌の血を見て目を眇めた。
『おのれ・・・!』
再び激しい憤怒と共に赤黒い靄が黒竜さんの頭上に渦巻いた。
黒竜さんが向ける焔のような怒りの先にはバラーさまが居る。
よく分からないが、ジークさんはバラーさまに腹を立てているのか?
黒竜さんとなったジークさんは、周りの岩にひびを入れる程の恐ろしい咆哮を轟かせた。
鼓膜が破れそうで、思わず耳を塞ぐ。
黒竜さんは空中で大きな翼を一度羽ばたかせると、私を抱えたままバラーさまに向けて口から豪炎を吐き出した。
バラーさまは聖剣を自身の顔の前に翳し、光魔法で防御している。
うがっ!
あっっつい!!
黒竜さんの口から溢れた火が、フードの取れた私の頭に落ちてきた。
髪の毛が焦げる嫌な匂いがする。
自慢のピンクブロンドが台無しじゃないか!
「ちょっと!ジークさん!いい加減にして下さい!!」
彼の大きな掌の中から黒竜さんの顔を見上げながら怒鳴る。
だが、彼の注意はバラーさまに向いていて、私の声が届いていないようだ。
「聞けってば!!」
黒竜さんの掌の上で、直ぐ横にある彼の腹を蹴りつける。
すると、黒竜さんは金眼を眇めたまま視線を私に移した。
「何してるんですか?!ジークさんのせいで髪の毛が焦げちゃったじゃないですか!」
黒竜さんは一瞬の間を置いて眉を顰めた。
『お前を傷つけた者を許さない』
低く唸るように言うと、黒竜さんはまたバラーさまに向き直った。
ちょっと待て!
私を傷つけた者だって?!
そんなのひとりしか居ないじゃないか!!
「誰の事を言ってるんですかっ?!」
『奴はお前を傷つけた』
気を惹きつけたくて、私は飛び上がって黒竜さんの顎にしがみ付いた。
「バラーさまじゃない!私が自分から剣を握ったんだ!」
黒竜さんの顎から髭を伝って鼻先によじ登る。
大きな黄金の瞳と向かい合うように、私は黒竜さんの鼻に跨った。
金眼に向かって指を差しながら怒鳴る。
「私を傷つけた者なんて、ジークさんしかいないじゃないかっ!!」
黒竜さんの動きが止まった。
「何を偉そうに言ってるんですか!いつもいつも私を傷つけておいて、今さら保護者面ですかっ?!」
黒竜さんの纏う赤黒い靄が薄くなっていく。
「大人のフリして、本当は感情が制御出来ない子供のクセに!いい加減、人の話を聞きな、さーいっ!」
私は大声で怒鳴ると同時に、渾身の光り玉を黒竜さんの眉間に至近距離から放った。
爆音と共にフラッと黒竜さんがバランスを崩した隙に、彼の鼻から飛び降りた。
ここは空中、地上まではかなりの距離だが構うものか。
自分が弾丸になったかのように、凄い速さで落下していく。
こりゃ、どこか骨折するなあ・・・。
ヒロインなんだから、チートなところを見せて欲しい、涙。
などと考えていたら、頭の中で声が響いた。
『ニクス!』
ジークさんの叫びと共に、私の足元から強い上昇気流が巻き起こった。
落下速度はほぼ無くなり、緑に煌めく温かな風が私を取り巻いた。
『ホント、アンタって無茶する子ねー』
間伸びしたニクスさんの声が私の頭の横から聞こえてきた。
「ニクスさん、ありがとうございます!」
頭の周りをふわふわ漂う美人さんにお礼を言う。
ニクスさんの風は、私を地上のバラーさまの側まで優しく下ろしてくれた。
焔の攻撃で火傷を負って膝をつくバラーさまの前に立ち、宙に浮く黒竜さんを睨みつける。
「ルナよ、逃げるのだ。あれは怨嗟竜だ」
「怨嗟竜?」
バラーさまの言葉に、反射的に振り返る。
「ああなってしまえば、抑える術が無い。この剣で封じることが出来るかも分か・・・」
「バラーさまも命を粗末にするんですね」
私はバラーさまの言葉に被せるように言うと、彼を一瞥して前に向き直った。
「あれが怨嗟竜なものか。ただ、癇癪を起こした子供に過ぎない。彼には感情がちゃんとあるんだ。それを教えて来なかった貴方にも責任がある!」
何なんだ、ここの世界の男たちは?
甘やかして、甘やかされて、果ては怨嗟竜だの何だのと訳の分からないモノに仕立て上げて滅ぼそうと言うのか?
そんなモノに命をかけろと?
馬鹿なのか?
何故、分からない?
彼は落ちた私を助けてくれたじゃないか!
黒竜さんとなったジークさんには、ちゃんと心があるんだ!
私は奥歯を喰い縛りながら心の中で叫んだ。
『ジークさん、ちゃんと話をして!!』
黒竜さんの纏っていた怒りの靄は消え、彼は羽ばたきながらゆっくり地上に降りてきた。
暫し私と視線を合わせた後、金眼を伏せて巨体を震わせた。
彼の周りを赤黒い霞が覆い、一瞬小さな竜巻のような風に巻かれ霞が霧散した。
風が消えた後には、あの腹黒美人が疲れた顔で立っていた。
眉間の皺は相変わらずだが、初めて目にする戸惑い顔をしている。
そして、大変興味深い事に、彼の右頬は離れている私からでも分かるほど腫れ上がり口の端が切れている。
殴られてブサメンになったところを期待していたのだが、生憎と殴られてもイケメンはイケメンだった。
何だ、つまらん。
今頃、一体何しに来た?
ほら、何か言い訳でも言ってみろ。
心の中でファイティングポーズを取りながら、私は片眉を上げて人型に戻ったジークさんを睨んだ。
自分たちが立っている場所は、比較的開けた台地のようだ。
黒竜さんは怒りを滾らせ、鼻息荒くこちらを睨みつけている。
その鬼気迫る怒りに圧倒され、つい後退りしてしまう。
『よくも・・・』
黒竜さんはそう呟くと私に向かって恐ろしい速さで飛んできた。
強烈な怒気と速さに、私は成す術なく立ち尽くしてしまった。
暴風が私を襲う。
ひーっ!
叩き潰されるーっ?!
しかし、私の予想は外れ、気付くと黒竜さんの両掌に抱えられ宙を飛んでいた。
何事かと思い黒竜さんの顔を見上げると、大きな金眼と視線が重なった。
その瞳に先程の怒りは見えず、憂いの色が浮かんでいる。
『斬られたのか・・・』
やっぱり、ジークさんの声だ。
この黒竜さんがジークさんなんだ。
ドラゴンさんと違い、禍々しいオーラのような靄を纏っているけれど。
黒竜さんは私の右掌の血を見て目を眇めた。
『おのれ・・・!』
再び激しい憤怒と共に赤黒い靄が黒竜さんの頭上に渦巻いた。
黒竜さんが向ける焔のような怒りの先にはバラーさまが居る。
よく分からないが、ジークさんはバラーさまに腹を立てているのか?
黒竜さんとなったジークさんは、周りの岩にひびを入れる程の恐ろしい咆哮を轟かせた。
鼓膜が破れそうで、思わず耳を塞ぐ。
黒竜さんは空中で大きな翼を一度羽ばたかせると、私を抱えたままバラーさまに向けて口から豪炎を吐き出した。
バラーさまは聖剣を自身の顔の前に翳し、光魔法で防御している。
うがっ!
あっっつい!!
黒竜さんの口から溢れた火が、フードの取れた私の頭に落ちてきた。
髪の毛が焦げる嫌な匂いがする。
自慢のピンクブロンドが台無しじゃないか!
「ちょっと!ジークさん!いい加減にして下さい!!」
彼の大きな掌の中から黒竜さんの顔を見上げながら怒鳴る。
だが、彼の注意はバラーさまに向いていて、私の声が届いていないようだ。
「聞けってば!!」
黒竜さんの掌の上で、直ぐ横にある彼の腹を蹴りつける。
すると、黒竜さんは金眼を眇めたまま視線を私に移した。
「何してるんですか?!ジークさんのせいで髪の毛が焦げちゃったじゃないですか!」
黒竜さんは一瞬の間を置いて眉を顰めた。
『お前を傷つけた者を許さない』
低く唸るように言うと、黒竜さんはまたバラーさまに向き直った。
ちょっと待て!
私を傷つけた者だって?!
そんなのひとりしか居ないじゃないか!!
「誰の事を言ってるんですかっ?!」
『奴はお前を傷つけた』
気を惹きつけたくて、私は飛び上がって黒竜さんの顎にしがみ付いた。
「バラーさまじゃない!私が自分から剣を握ったんだ!」
黒竜さんの顎から髭を伝って鼻先によじ登る。
大きな黄金の瞳と向かい合うように、私は黒竜さんの鼻に跨った。
金眼に向かって指を差しながら怒鳴る。
「私を傷つけた者なんて、ジークさんしかいないじゃないかっ!!」
黒竜さんの動きが止まった。
「何を偉そうに言ってるんですか!いつもいつも私を傷つけておいて、今さら保護者面ですかっ?!」
黒竜さんの纏う赤黒い靄が薄くなっていく。
「大人のフリして、本当は感情が制御出来ない子供のクセに!いい加減、人の話を聞きな、さーいっ!」
私は大声で怒鳴ると同時に、渾身の光り玉を黒竜さんの眉間に至近距離から放った。
爆音と共にフラッと黒竜さんがバランスを崩した隙に、彼の鼻から飛び降りた。
ここは空中、地上まではかなりの距離だが構うものか。
自分が弾丸になったかのように、凄い速さで落下していく。
こりゃ、どこか骨折するなあ・・・。
ヒロインなんだから、チートなところを見せて欲しい、涙。
などと考えていたら、頭の中で声が響いた。
『ニクス!』
ジークさんの叫びと共に、私の足元から強い上昇気流が巻き起こった。
落下速度はほぼ無くなり、緑に煌めく温かな風が私を取り巻いた。
『ホント、アンタって無茶する子ねー』
間伸びしたニクスさんの声が私の頭の横から聞こえてきた。
「ニクスさん、ありがとうございます!」
頭の周りをふわふわ漂う美人さんにお礼を言う。
ニクスさんの風は、私を地上のバラーさまの側まで優しく下ろしてくれた。
焔の攻撃で火傷を負って膝をつくバラーさまの前に立ち、宙に浮く黒竜さんを睨みつける。
「ルナよ、逃げるのだ。あれは怨嗟竜だ」
「怨嗟竜?」
バラーさまの言葉に、反射的に振り返る。
「ああなってしまえば、抑える術が無い。この剣で封じることが出来るかも分か・・・」
「バラーさまも命を粗末にするんですね」
私はバラーさまの言葉に被せるように言うと、彼を一瞥して前に向き直った。
「あれが怨嗟竜なものか。ただ、癇癪を起こした子供に過ぎない。彼には感情がちゃんとあるんだ。それを教えて来なかった貴方にも責任がある!」
何なんだ、ここの世界の男たちは?
甘やかして、甘やかされて、果ては怨嗟竜だの何だのと訳の分からないモノに仕立て上げて滅ぼそうと言うのか?
そんなモノに命をかけろと?
馬鹿なのか?
何故、分からない?
彼は落ちた私を助けてくれたじゃないか!
黒竜さんとなったジークさんには、ちゃんと心があるんだ!
私は奥歯を喰い縛りながら心の中で叫んだ。
『ジークさん、ちゃんと話をして!!』
黒竜さんの纏っていた怒りの靄は消え、彼は羽ばたきながらゆっくり地上に降りてきた。
暫し私と視線を合わせた後、金眼を伏せて巨体を震わせた。
彼の周りを赤黒い霞が覆い、一瞬小さな竜巻のような風に巻かれ霞が霧散した。
風が消えた後には、あの腹黒美人が疲れた顔で立っていた。
眉間の皺は相変わらずだが、初めて目にする戸惑い顔をしている。
そして、大変興味深い事に、彼の右頬は離れている私からでも分かるほど腫れ上がり口の端が切れている。
殴られてブサメンになったところを期待していたのだが、生憎と殴られてもイケメンはイケメンだった。
何だ、つまらん。
今頃、一体何しに来た?
ほら、何か言い訳でも言ってみろ。
心の中でファイティングポーズを取りながら、私は片眉を上げて人型に戻ったジークさんを睨んだ。
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