乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

文字の大きさ
70 / 96

始祖竜さんの言葉

しおりを挟む
どのくらい時間が経ったのだろう?
時計も無ければ窓も無い灰色の空間。
外に出る事も叶わなければ、話す人も居ない。
時間を教えてくれるものが何一つ無い閉鎖空間。

過去この魔障壁に囚われた闇魔法使いの皆さんは、精神的にどれ程追い詰められたのだろう?
私にはまだ毒ちゃんが居てくれるから、気を紛らわすことが出来ているけれど。

「毒ちゃん、今何時くらいかしら?」
『我の身体の中に時計は無い』
「そう言えば、ずっと食べていないけれどお腹が減らないですね。毒ちゃんも今はカエルさんなのだから、何か食べないと怠くなったりしないですか?」
『我はカエルではない!』
「でも、そのカエルさんの身体を維持するためには虫とか何かを食べないと辛いんじゃないのかな、と」
『そうだとして、ここに昆虫が居るのか?』
「デスヨネー」

ベッドで大の字になり溜息を吐く。
両手を上げて掌を開いてみる。
ほとんど痺れは消えて、身体を動かすことに支障は無くなっている。
皇帝の魔眼で動けないまま殺されるかと思ったが、そのままこの空間に放置され続けている。
奴は何を考えているのだろうか?
ただ、そう遠くない将来、殺される予定はほぼ決定なのだろうけれど。

ジークさん、ゼルさんの上着に刺した髪留めさんに気付いてくれたかな?
ゼルさんがジークさんと会わなければ、或いはゼルさんがあの軍服を着替えたりしちゃったら、髪留めさんに気付いてもらえない。
服の裾ではなく靴に差し込んだ方が良かったかな?

今、こうしている間に、皇帝は私を餌にジークさんを誘い出しているのだろう。
ジークさんの目の前で私を殺し、彼を怨嗟竜に変えて世界を破壊するのがイカレタ皇帝のシナリオの筈。
囚われた私は、どう迎え撃てばいいのか?

ここから逃げ出せれば、それが一番だ。
だが、それは出来そうにない。
ならば、死ななければ良い訳で。

「死なない方法ってありますかね?」
『我のように精神体になればよい』

飛び跳ねて枕元に着地した毒ちゃんは、簡単だとばかりに即答した。

「でも、身体が滅んだりしたら、今の毒ちゃんのようにカエルやらトカゲやらに入り込んじゃったりするんですよね?それってヤですよ」
『ルナも一度この身体カエルを経験しておくといい』
「私、自分の身体が好きなので、この身体を大事に生き延びたいんです」

カエルやトカゲに入ってしまったら、美味しい人間サマのご飯が食べられない。
それに、これ以上小さくなったらジークさんにうっかり踏ん付けられてしまうかも知れない、涙。
クロの非常食にされる可能性もあるだろう・・・汗。

「毒ちゃんも昔はドラゴンさんだったんですか?」
『我は生まれた時から精神体だ』
「私がお会いした精神体は竜毒さん1号に、毒ちゃんに、うーん、始祖竜さん?も?かな?」

ナントカ神殿の魔法陣の中に、無理矢理ジークさんに立たされて見た光の渦。
あの中に現れた虹色の荘厳な竜の顔。
・・・そう言えば、彼は何か言っていたな。
ジークさんは、始祖竜さんは私にだけ話しかけていたと言っていた。
彼は何と言ったのだろう?

そして、見ることは叶わなかったけれど、過去に渡って竜牙剣を自分に突き刺した時、始祖竜さんの声が聞こえた。
最初は聞き取れなかったが、魂に竜牙剣を刺せば・・・ナントカカントカ言っていたような・・・??
最初に会った時と同じ言葉だったのだろうか?

『お前、始祖竜にも会ったのか?』

・・・お前だと?

私は左指で毒ちゃんの狭い眉間を弾いた。

「毒ちゃんは一度昇天しないと、その言葉が頭の中から消えないようですね?」

弾かれてベッドの下まで飛んで行った毒ちゃんは、呻りながら再び枕元に飛び乗った。

『始祖竜と相まみえる機会を許される人族など、聞いたことが無い』
「それって良い事なんですか?」
『始祖竜こそ肉体を捨て、竜族の安寧の為に悠久の時を生きる事を選んだ我々竜族の根源だ。その貴き存在を崇める栄誉など、早々与えられるものではない』

何だか前世のアイドルや推しを絶賛する女子のような発言だ。
毒ちゃんがミーハーに見える、笑。
毒ちゃんだって竜毒さんだ。
威厳があるだろうに、カエルさんの姿に敬語を使うのもどうかと思うほど、偉い存在に見えなくなってきた、笑。

「毒ちゃんは会った事無いの?」
『我はこの世界に生まれてまだ300年だ。年若い我では会う機会など無い』
「え?300歳?随分お年寄りなカエルさんなのね」
『だから、我はカエルではない!』
「毒ちゃんも、始祖竜さんも、同じ精神体なのでしょう?どこが違うの?」
『我らは人族の器の中で初めて、竜の魔力を紡ぎ出すことが出来る。・・・まあ今回、他種族の器にも入る事が出来ると初めて知ったがな』

金のカエル眼を眇めて、毒ちゃんは私を一瞥した。
毒ちゃんがカエルさんに入ったのは不可抗力なのに、やっぱり根に持っているようだ、笑。

『だが、こうして分かった事と言えば、人族以外の器では、我々は何の力も生み出せない無力な存在に過ぎないという事だ』

不貞腐れたように俯く毒ちゃんが少し可哀想で、けれどもやっぱり可愛くて、私は指の腹で小っちゃな頭を撫でた。

『しかし、始祖竜は違う。竜族と縁あるものであれば、それが無機物であっても彼の意志で宿ることが出来るのだ』

ほう、そりゃあ便利だ。
木や土どころか、服やお家にだって宿っちゃうのか。
まあ、縁が無いと駄目なのだろうけれど。

「常に何処かに宿っているの?」
『我らのように、常にひと処に留まっているのでは無い。何処に居るのかは我らにも分からん』
「ナントカ神殿で召喚みたいな儀式で現れたけれど?」
『それとて、必ず姿を現すとは限らん』

ふむ、会えたのはラッキーだったのか。

『だが、あの森で、皇太子が持っていた竜牙剣に始祖竜の思念を感じたぞ?』
「ずっと剣の中に居たのでは無いの?」
『剣を見る機会は度々あったが、竜牙剣の中に彼の厳かな思念を感じ取ったのはあれが初めてだ』

確かに、あの森で剣を突き刺した時に、始祖竜さんの声が聞こえた。
魂に刺せと。

「そう言えば、毒ちゃんも魂に剣を刺せって言ったよね?あの剣はそういう使い方をするものなの?」
『ルナは時始めの竜眼持ちヴァルテンだろうから、そう言ったまでだ』
「?どういう事?」

ベッドの上に座る私の膝上に飛び乗った毒ちゃんは、得意気に顔を上げて説明し始めた。

『前にも言ったように、時始めの竜眼持ちヴァルテンは、竜の闇の力から生まれた魔法使いであり竜の守護者ガーディアンだ。ただの竜眼持ちヴァルテンと違い、竜の魔力との親和が極めて強い。竜の魔力を増幅したり引き出したりすることが出来る』

次第に指まで動かして話し続ける毒ちゃんは、カエルさん学校の先生のようで実に微笑ましい。

『他にも、時空を渡る力があり、現にルナも過去に遡って我と出会ったであろう?あれとて、竜の魔力を使うが故に成せた事だ』

過去に渡った時、バラ―さまから借りたお守りが光っていた。
あのペンダントに竜の守りの力が宿っているとバラ―さまは言っていた。
守りの力とは、過去に渡ることが出来る竜の力の事だったのか?

「で、どうして剣で魂を刺さなければならないの?」
『怨嗟竜を滅ぼす竜牙剣は闇魔法使いであれば使えるが、更に時始めの者であれば、その親和力次第で多くの効力を引き出すことが可能とされるのだ』
「多くの効力って?」

おお、さすが私、さすがヒロイン!
まさにチート三昧ではないか、笑。
知識豊富な毒ちゃんに興奮気味に聞いてみる。

『分からん!』
「は?」

何ですと?
ここまで語っておいて知らないとな?
持ち上げた後の落とし方が酷い、泣。

『時始めの竜眼持ちヴァルテンの魂に刻まれた願いに始祖竜が応えるのだろうが、剣が魂に触れなければ力は発動せん。そうして、どんな力が生まれるのかは我にも分からん』

始祖竜さんは他にも何か言ったと思うのだが、聞き取れなかった。
むう。
物語とは、何でこう大事な事をちゃんと聞かせてくれないのか?
だが、私が時始めの竜眼持ちヴァルテンというのであれば、竜牙剣で自分をぷすぷす刺せば始祖竜さんの力を引き出せるってチートがあるって事か?
そんな凄い力なら、ガンガン使うに限る。
まあ、その度に自分をぷすぷす刺すのもどうかと思うが、そこは我慢だ。

「ならば、竜牙剣で刺しまくりよ!」

私が拳を握って決意を強くしていると、目の前の毒ちゃんは小さな金眼を半眼にして言った。

『その竜牙剣は、今何処にあるんだ?』

あ?
そう言えば、私、無くしちゃいましたね・・・涙。

『先ずは剣を探さねばな・・・』

私の嫌いな溜息を器用に吐く毒ちゃんが可愛らしくて笑みが溢れる。
毒ちゃんだって元の姿に戻れずがっかりしている筈だ。
溜息吐く輩には容赦なくパンチしてきたが、毒ちゃんにはサービスだ。
殴ることはせずに、私は指の腹で優しく毒ちゃんの頭を撫でた。

っ!?

その時、突然、左眼に針が刺さった様な嫌な痛みが走った。
その眼から連なる糸で前に引っ張られている錯覚が起こり、糸の続く先にあの不快な青白い魔法陣が現れた。

奴が来るのか・・・?!

身の危険を感じて私の掌に飛び乗ってきた毒ちゃんを、私は慌ててドレスの胸元に押し込んだ。
目の前の魔法陣は空間に大きく広がり、一瞬白く強く光った。
光りの中心から現れたのは、第一皇子と一緒に居たあの妖術師、いや、妖魔術師だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...