乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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妖魔術師ふたたび

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魔法陣から姿を現した妖魔術師は、相も変わらず頭をすっぽりと覆ってしまう程の大きなフードを被っていた。

「ふん、起きていたか。住み心地はどうだ?」

奴は顔の見えないフードの奥で、裂けるほど口角を上げてニヤリと不気味に笑った。
相手に恐怖を悟られない様に睨みつけながら立ち上がる。

「そんなにオススメのお部屋なら、貴方が住んだらいかが?」

私も負けじと涼しい顔をして薄ら笑いで答えた。
私の言葉が気に入らなかったのか、私の髪を鷲掴みすると乱暴に顔を上げさせた。
顔があるのか分からない頭を近付けてくる。

「その時が来たら、その生意気な眼玉を抉り取ってくれるわ」

怯えさせようって魂胆か?
そんな子供っぽい手口には乗らないよ。
裏を返せば、その時が来るまでは手を出せないって事で、結局コイツも使役されているだけの駒なんだ。

「なら、その時までまともな扱いをする事ね。それとも、下々の者だと紳士の教育は受けた事が無いのかしら?」

私の言葉に髪を掴んでいる手に力を込めた妖魔術師は、私を宙吊りにしようとその腕を高く上げた。

いい加減にやられっ放しは性に合わない。
ブツっとキレた私はその腕に掴まって床を蹴った。
鉄棒の逆上がりのように奴の腕を軸にして身体を回転させると、掴まれた髪の事など忘れて思いっきり両足で妖魔術師の頭に蹴りを入れた。
奴の身体が仰向けになって床に吹っ飛んだのを見て、ちょっと愉悦に浸る。

思い知ったかゲス魔術師め!

追撃しようと腰を屈めたところ、妖魔術師はゾンビのように倒れた身体をそのまま真っ直ぐ立たせた。

「おのれ!!」

妖魔術師の全身から黒い闘気が放たれ、風も無いのにフードがたなびき始めた。
キーンという不快な金属音が耳に響き、奴の見えない目が青白く光った。
その光を受けて、私の左眼がズキズキと痛み出してきた。
抉られるような痛みに歯を食いしばる。

こいつ、私の眼を奪う気か?!
全身から汗が噴き出してきたが、こんなゲスに私の大事な桃色の瞳を喰われてたまるか!
女は根性!
絶対に負けない!!

『勝手は許さん!』

空間を揺らす怒声が響き、次の瞬間、左眼にかかっていた圧力が突然消えた。
スッと身体が軽くなる
顔を上げると、妖魔術師が頭を押さえながら呻き声を上げて悶えていた。

『理性を持たぬお前を使わせたのは失敗だったな』

穏やかな声に聞こえるが、そこには怒りが感じられた。
辺りを見回すが、声の主である皇帝の姿は見当たらない。
首でも締められているのか、妖魔術師はヒューヒューと嫌な音を立てて身を捩っている。

『黙って連れて来い』

声が聞こえなくなった瞬間、戒めが解かれたのか妖魔術師はガクッと床に崩れ落ちた。
皇帝はどうやってこの魔人を操っているのだろう?
これ程の力を持っているとは想像もしていなかった。

フラッと力無く立ち上がった妖魔術師は、暫し無言で項垂れていたがフード越しにこちらに視線を向けてきた。
一瞬、物凄い殺気を放ってから私に背を向けると、前方の空間にあの忌まわしい魔法陣を展開した。

「来い」

短く言うと、振り返りもせず魔法陣の中に姿を消した。
残された私は大きく溜息を吐いた。
とてもこの状況から逃げ出せそうにない。

『ルナ、大丈夫か?』

毒ちゃんが念話で心配そうに声をかけてくれる。

『・・・今のところ。あんなバケモノとどう戦えばいいの?』
『諦めてはいかん!好機は必ず訪れる』
『始祖竜さんに沢山お願いすれば、竜牙剣が無くても叶えてくれるかな?』
『・・・祈るしかないな』

神頼み、ならぬ始祖竜さん頼みか・・・とほほ。

目の前の忌々しい魔法陣が青白い光を明滅させている。
早く来いと急かされている様で憂鬱になる。

『毒ちゃん、何か良い方法を思いついてね』
『無茶を言うな』

私は即答する毒ちゃんに苦笑いしつつ、ラスボス皇帝の待つ魔法陣の向こうへと足を踏み入れた。
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