乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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ジークの決意

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デンゼルに尋問するも、奴は中々口を割らなかった。
執拗に攻め立て、意識を失えば冷水を浴びせ続けまた尋問を続ける。
此奴がこの程度で口を割るとは考えていない。
これは唯の制裁だ。
奴になど聞かなくともルナの囚われている場所は分かる。
皇帝が居る場所、皇城だ。
恐らく地下深くに秘匿された魔障壁があるのだろう。

「続けろ」

下らない処罰に付き合ってやる時間など無い。
牢を出ようと背を向ける。

「殿下、どちらへ?」

ゼインが背後から声を掛けてきた。

「此奴が吐こうが吐くまいが、いずれにせよ皇城に行かねばならん」
「ならば、私もご一緒致します」
「いや、誰も追てくるな」
「ですが、おひとりでは危険です」
「ならん。これから俺がする事に誰も関与するな、良いな?」

そう、皇帝と刺し違えるとなれば、部下に罪を負わせる事になる。
部下を道連れにする趣味は無い。
ゼインが無言で頭を下げて引き下がる。

暗い地下から屋敷の廊下に戻ると執事のフレンツが待っていた。

「殿下、皇城から使いの者が参っております」

やはり来たか。
逐一あの男に行動を把握されている。
奴の掌の上で踊らされている事に苛立つ。

「これから行くと伝えろ」

自室に戻ってひとり思想する。
あの男はルナを殺そうとしている。
ルシュカン皇族であれば、これまでの悪習のままに闇魔法使いを排除するだろう。
俺を亡き者にしようと画策していた第一皇子をあの男は殺した。
それ程までに、竜の血の強い俺を皇帝に就かせたいのか?

ルナが居ないのであれば、この世に生きる価値など無い。
それが俺の生きる意味であり覚悟だ。

笑いが漏れる。
そんな事を言えば、ルナは嫌な顔をして怒るだろうか。
それ程までにルナを欲して止まない俺が、理解できないのだろう。

「ニクス」

俺の声に緑の風を起こして大精霊が答える。

『アンタ、死ぬ気じゃないでしょうね?』

口の悪い風の精霊が、俺の頭の上で緑の煌めくそよ風に浮かびながら聞いてくる。

「それ程自虐的でも無い」
『どうだかネー。あの子が死んだら死ぬつもりでしょ?』
「まあ、この世に未練など露ほども無いがな」

緑の瞳を眇めてニクスが言う。

『アンタもあの子も無駄死には許さないわよ』
「ああ、肝に銘じておく」

精霊のくせに人情を知っているニクスは、昔から世話焼きだ。

「ニクス、バラーに伝言を頼む。これを預かるよう伝えてくれ」

俺は左腕に隠していた懐刀をニクスの風に放った。

10年前、義弟リアンが自らの胸に剣を突き立てたあの日、俺の中の竜の血が目覚めた。
それ以降、ここまでバラーに育てられた。
多くのものを見て、多くのものに触れた。
身を守る術も学んだ。
この刀も、彼から授けられたものだ。
生き残る為に。

もう、これは必要無い・・・。

『・・・他に伝える事は?』
「言った通りだと」
『?』

そんな覚悟など無いと。
ルナを失ってひとり生きていく覚悟など。
先日、バラーに会った時に言った通りだ。

「そう伝えてくれ」

ニクスは懐刀を掴むと嘆息した。

そう、あの日から、ギルアドやニクスを従えて生きてきた。
いや、違うな。
彼らに支えられて来たのだな・・・。

緑の煌めきが強まる中、消えかけているニクスに声を掛ける。

「ありがとう、ニクス」

その言葉にニクスの瞳が大きく見開かれる。

『止めてよ、皮肉屋ジークに言われると気持ち悪いわ』

苦笑いを浮かべて小さな竜巻と共にニクスは消えて行った。
随分な言われようだと口角を上げて自嘲気味に笑う。

さあ、全てを清算してやる。

マントを羽織り部屋を出る。
フッと肩に気配を感じた。

『僕はご主人さまから離れないよ?』

黒猫姿のギルアドが頬に身体を擦り寄せて来る。

「ああ、お前にはもう少し付き合ってもらう」

ギルアドは嬉しそうに喉を鳴らしながら、首を掻いてやる俺の指を舐めた。
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