不遇の魔道具師と星の王

緑野 りぃとる

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序章 始まりの町

第17話 模擬戦

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 翌日の朝、俺は一人でアクマリンの町の市場へとやってきていた。子供たちに渡すためのお菓子を買うためだ。それと、ついでに毎週末この市場で開かれるバザーの売り場を確保してもらうための申請を出す。

 俺はとりあえずバザーの売り場を先に申請していく。とても運が良かったのか、市場に入ってすぐの少し大きめの売り場を使わせてもらえることになった。今週末から出店しに行く予定なので、売り物の魔道具をたくさん作りためてこなければ…

 すぐに売り場が確保できたので、そのままお菓子を買いにパン屋へと向かった。このパン屋は俺が前に住んでいた町でも名前が知られているほどのおいしいクッキーを焼いている店だった。妙に凝ったお菓子を買うよりはこういった簡単なお菓子のほうが子供は喜ぶかと思ったのだ。

 店に入ると、香ばしいパンを焼くにおいが漂ってくる。

「いらっしゃい!ゆっくりしていってくれよ!」

 店主の人らしき人は厨房の奥から気前のよさそうな顔をのぞかせて挨拶してくれた。

 俺は店の中に並べられたテーブルの上のパンやクッキーを見て回る。どのパンも非常においしそうで、見た目も非常によく、まるで芸術品のようだった。

 その中でもメロンパンのようなものは見事な焼き目が付いていて、食欲が掻き立てられる。どうせ子供たちのお菓子も自腹で買うからということでメロンパンを人数分買っていくことに。そして子供たちにはチョコチップが混ざっているクッキーを買っていくことにした。

「おお、にぃちゃん。たくさん買っていってくれたな。せっかくだからおまけもつけといてやるよ。」

 店主の男性はそう言って厨房から出来立てのベーグルサンドを紙袋の中に一緒に入れてくれた。

「ありがとうございます。」
「おう!またきてくれよな!」

 俺は礼を言ってパン屋を出た。俺はもらったベーグルサンドを食べながら魔導騎馬を置いてある町の入口へと歩いて行った。おまけでもらったベーグルサンドはまだ朝食を食べていなかったため、より一層おいしく感じた。


~~~~~~~~

 屋敷につくと、ライムさんがマリアと戦っていた。あまりに突然のことだったのでびっくりしたのだが、2人の表情を見るに、本気で殺し合っているというわけではなさそうだった。

 その様子を屋敷の扉の前で見ていたギッツさんのところに俺も向かった。

「どうして2人は戦っているんですか?」
「今朝、君が街へ出かけた直後にライムがマリアさんに模擬戦のお願いをしたんだ。なんでも、ヴァルハラの一族と戦ってみたいだとさ。」

 俺たちがこうして話している間にも、屋敷の敷地内では竜神魔法と雷が飛び交っており、何度かそんお流れ魔法がこちらへと飛んできていた。そのたびに俺とギッツさんは撃ち落とすなり受け止めるなりして屋敷を守りつつ、二人の戦闘を見ていた。

 ライムさんは王国でも超一流といわれているほどの雷魔法使いらしい。そして彼の戦闘スタイルと雷属性も非常によくマッチしており、王族ということで魔力量も多いためとても強い。王都にいたころは当時の師匠だった人にすら勝ってしまったという。雷の性質を生かしたスピードと威力のある魔法の数々をマリアに向かって放っていく。

 一方マリアはヴァルハラの一族というだけあって、多彩且つ高出力の魔法を次々と繰り出し、ライムさんの攻撃をすべて無力化していく。しかも彼女は一見して披露している様子も魔力を消耗している様子も見受けられない。

 このまま魔法の打ち合いをしているだけでは、ライムさんには勝ち目はないのではないだろうか。ライムさんもそのことにうすうす気づき始めたのか、徐々に戦いの組み立て方を変えていく。

 さっきまではその魔力量に任せた出力の高い中距離魔法を多用していたが、今度は行動を阻害する系統の近距離魔法をその中に混ぜていく。マリアもそれに気づき、対応を変える。それまでは適当な属性で飛んでくる雷の矢を相殺していたのだが、しっかりと土属性の壁で受け止めるようになった。

「隙あり!《瞬閃》!」

 マリアが受け方を変え、彼女の視界が自分で生み出した土の壁によって一瞬遮られる。ライムさんは強く地面を蹴りつけ、そんな彼女の懐-必殺の間合いへと侵入する。

 だがしかし…

「甘い!《土龍の監獄》!」

 ライムさんの放った神速の居合はおよそ常人には不可能な速さで動いたマリアに触れることすらかなわず、逆に土の壁によって閉じ込められてしまった。ライムさんは中から脱出を試みようと刀で壁を切ろうとするが、全く傷すらつかない。

「勝負あったな…」

 ギッツさんはそうつぶやいて二人の戦闘を止めようとした。しかし…

「《召雷》!」

 ライムさんは自身を拘束する土の監獄に対して、本物の雷を落とし強引に破壊した。さすがにそれは想定外だったらしく、マリアは慌てて印を組み始める。

「《青電刀》」

 ライムさんはそれまで多用していた中距離の魔法ではなく、雷を自身の体と刀に流すという単純な強化魔法を使用した。その状態で陽の構えを取り、足を肩幅に開く。その様子から、ライムさんがどうしたいのかを汲み取ったマリアはそれまで背中に背負いっぱなしだった身の丈に合わない大剣を抜き、正眼の構えをとる。

 静寂の時間が二人の間にしばらく広がり続ける。そして、誰も合図を出すでもなく、二人同時に動き出す。ライムさんは全身に雷を纏い、マリアは魔眼を開放し、ともに超高速の戦闘を開始する。速度だけ見ればライムさんに軍配が上がる。しかし、十回、二十回と切り結んでいくたびにライムさんの刀はマリアに当たらなくなっていく。

 それまでにマリアの持つ魔眼の権能は強力なのだ。突然変異によって稀に一般人が獲得する魔眼とはその質が異なる、正真正銘の魔眼。信託の騎士が最強たる所以である魔眼のその名は《眼光炯炯》。物事の本質を見るその眼は決して惑わされることなく、わずか先の未来すら見通し、相手の動きを読む。マリアが俺と契約したことによって覚醒した真の魔眼。

 おそらく彼女は初めて戦闘中に魔眼を発動させたのだろうが、本能がその使い方を教えてくれたのだろう。徐々に体も魔眼に適応していっているのか、ライムさんの攻撃はかすりもしなくなっていった。ライムさんも多様な技を用いてマリアに一撃を入れようとしているのだが、たやすく防がれ、いなされ、躱される。そして、一向に攻撃が当たらないことに心を折られたのか、ライムさんは刀を振るのをやめた。

「ははは、さすがは信託の騎士だ…。もう出せるカードは全部切ったんだが、すべて軽く防がれてしまった。降参だ。」
「ライム様も強かったですよ。魔法を使える方でも私と打ち合える人はほとんどいませんし、何より先ほどの剣技の数々。魔眼がなければ防げなかったでしょう。」
「それは光栄だね…。」

 ライムさんは苦笑いしながら刀を鞘に納めた。
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